IR担当者の腕の見せどころはどこか
2018.09.10 (月) 6:40 PM
・8月に大阪でさまざまな企業のIR担当者40人と話をする機会があった。そこで出たいくつかの質問を取り上げてみたい。
・IR担当者は、わが社の企業価値創造を語れるようになれというが、そのためにはどのようにすればよいのか。どの会社もホームページには開示資料が山のように載っている。しかし、いろいろ見ても、わが社の企業価値創造を語っている資料は意外に少ない。
・わが社の企業価値創造の仕組みがビジネスモデルである。このビジネスモデルは中長期のお金儲けの仕組みである。これも意外に開示されていない。多くの場合、秘密にしているのではなく、そういう問題意識で開示資料を作っていない。
・統合報告書を作っている企業であれば、それがまとまっている会社もある。IR担当者としては、わが社の企業価値創造について、まず自分で何もみないで書き下ろしてみることである。最初は筆が全く動かないかもしれない。それでも、1行でも自分にとってのエッセンスを書いてみる。会社の資料を、どこからかとってきてはいけない。
・あらゆる資料はみてよいが、その上で、白紙に自分で書いてみる。それが今の自分に腹落ちしている内容である。これが充実して、すらすら書けるようになったら大きな前進である。当然、バイアスはあるかもしれないが、ここを固めてからフレキシブルに会話していくと、IRが楽しくなってこよう。
・四半期ごとにアナリストと話をしているが、どれも同じような質問ばかりで、代わり映えがしない。しかも、短期の話ばかりである。その先の議論につながっていかないが、どうすればよいのか。四半期の決算の中身を確認したいという点では、出だしが実績の数字の確認になるのは当然である。足元を確認して上で、先行きを見ていくことになる。
・足元の数字の確認は、その数字の持っている意味付けをよく議論していく必要がある。その数字のトレンドを伸ばしても意味がない。次の四半期の数字がどうなるかにしか、アナリストの関心がないとすれば、それは目先の数字の当てっこになってしまい、IR担当者としては会話が続かない。
・そこで、足元と先行き、短期の動きと中期の動きを結びつけるストーリーや会社の計画、方針、戦略を語ってやる必要がある。目先にしか関心のないアナリストは、次の目先の話題に行こうとするかもしれないが、そこは少し引っ張って自分の流れに会話をもっていくことが求められる。そうでないと、相手の質問には答えたが、こちらが話したいことは話さずにミーティングが終わってしまう。それでは、一方的対話でおもしろくない。
・足元の話ばかりするのであれば、四半期開示は本当に必要なのだろうか。アナリストにすれば、関心のある会社には足繁く通って、さまざまな議論をしたい。秘密の情報を聞きたいわけではない。足元の数字を確認したいわけでもない。将来の企業価値創造に資する会社の実態を良く知りたいのである。
・会社のいろんな部門、いろんな場所に出かけて、それぞれの責任者と議論したいと思っている。会社のIR部門にすれば、そんな要望を聞いていたら切りが無い。各々の現場からは本業の邪魔になると言われかねない。フェアディスクロージャーからは、特定のアナリストだけを優遇するわけにはいかない、という話になってしまうかもしれない。
・ここがIR担当者の腕の見せ所である。足元の決算情報の持っている意味付け、中長期の価値創造にかかる非財務情報の動きについては、IR部門で相当おさえておく必要がある。社内情報をしっかり収集して、そのマテリアリティとコネクティビティを自分なりに整理しておく必要がある。
・その上で、まずIR担当者がアナリストのニーズにどこまで応えられるかを自ら勝負する。それで済んでしまえば、もう十分である。それを越えてくるアナリストで、深い分析レポート(ベーシックレポート)を出してくる対象には、いろいろミーティングをセットしていけばよい。レポートのアウトプットを通して、現場の責任者や経営トップにフィードバックできるはずである。
・筆者にとって、四半期決算はあった方がよい。3ヶ月に1度、きちんと議論できる機会があることはありがたい。しかし、もし四半期決算がなくなったら、それはそれで何ら不都合はない。引き続き四半期に1度くらいは会社とじっくり議論したいと思う。足元の財務数字ではない。中長期の非財務情報の展開について議論したい。
・モザイク情報といわれる非財務情報は、どこまで開示すればよいのか。社内のルール作りが難しい。これに対しては、IR担当者がアナリストとの日常的な議論を通して、ニーズのレベルを把握していけばよい。新しい情報と思われることについても、さほど躊躇する必要はない。
・インサイダー情報、株価に影響する重大な情報は何か、についてはすでに相当分かっているはずである。アナリストがインタビューする場合は、必ずIR担当者を通して紹介を受け、IR担当者も同席する。これなら絶えず確認できる。
・全員を平等に扱う必要はない。関心の高いアナリストにチャンスをあげればよい。もし、そのプロセスで開示すべき情報と認識した場合は、速やかにIRニュースとして発行すれば十分である。
・ミーティングの最後には、必ず感想と意見を聴いたほうがよい。最も分かり易いのは、アナリストから見たわが社の企業価値をどう評価するか、と聴く事である。さまざまな反応があろう。株価に対するコメント、業績に対するコメント、戦略に対するコメント、経営者についてのコメントなどが出そうである。そこからアナリストの問題意識とレベルを知ることができるので、よい機会となろう。