GPIFのESG投資とは~新たなESGインデックスに注目
2017.08.07 (月) 12:22 PM
・GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のスチュワードシップ(SS)活動について、小森博司氏(市場運用部スチュワードシップ担当)から話を聴いた。7月のCGNW(日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク)のセミナーは大盛況であった。
・GPIFは厚生年金や国民年金のアセットオーナーとして、孫子の世代までの年金を担っている。100年を見据えて、25年ごとにロールオーバーする。5年ごとにポートフォリオを見直していく。
・GPIFは国民に対してSS(受託者責任)を負っており、同じように運用会社(AM)はGPIFに対してSSを負う。GPIFは立場上、株式の運用を直接行うことはできないし、企業経営に影響を与えてもいけない。
・国の公共機関として企業活動に口出しをしない、という立場が法的に定められている。よって、議決権行使に関与できないし、企業とのエンゲージメントを直接やってはいけない。すべて運用機関(AM)に任せることになる。
・このようなアセットオーナーは世界でもGPIFだけ、と小森氏は説明する。米国のカルパース(カリフォルニア州の公務員の公的年金基金)は、世界でも有数のアセットオーナーであるが、自らAMも行っている。
・GPIFは、運用を任せるAMに対して、双方向のエンゲージメント(建設的な対話)を行ってほしいと要望する。ともすると、AMが企業に資本効率の改善を要求するだけになるが、そうではないという。長期の年金運用なので、目先の株主還元よりは企業に投資をしてほしいと考えている。
・また、議決権行使についても、ガイドラインにこだわらずに、よく議論してほしいという。買収防衛策についても、対話をして、その根拠が納得できるのであれば、賛成することがあってもよいというスタンスである。
・GPIFは25年単位の超長期投資家である。5年が中期、10年が長期、25年が超長期というタイムスパンである。145兆円を運用する中で、25%を国内株へ、25%を外国株に投資する。銘柄でいえば日本株で2200社、外国株で2600社を有する。その意味でGPIFはユニバーサルオーナーである。つまり、ほとんどの株は持っている。
・そうなると、リターンは個別のαよりも、市場全体(インデックス)のβの方が重要になり、βの底上げが最大のテーマとなる。そこで、ESGをベースに中長期のサステナブルな企業価値を全体として向上させるべし、となる。
・GPIFはPRI(国連責任投資原則)に署名した。これを踏まえて、ESGを考慮した運用をAMに要請している。ESGをどのように扱うかはAM次第だが、AMから報告を聴くだけではなく、企業にも直接アンケートを出している。
・そこでは、一般論としてAMの活動が企業価値向上に貢献しているかどうかを聞いている。また、企業サイドからアセットオーナーと直接対話したいという要請を受けて、企業・アセットオーナーフォーラムをスタートさせた。ここでは、企業の生の声を聴いている。
・AMは、インデックス会社、エンゲージメント代行会社、議決権行使会社に、企業価値向上に資する判断を丸投げするのではなく、第3者のサービスを使うなら、そこに対してもきちんとエンゲージして、評価することを求めている。
・企業には、ESGをベースにした持続的な企業価値向上を求めており、その一貫として、①優れたCG報告書や、②優れたIR(統合報告)書をAMに選んでもらい公表している。さらに、企業と個別に対話する時は、必ずCG報告書やIR書を読んでいくように、AMへ要請している。
・GPIFはPRIに基づく運用をAMに求めるが、企業サイドにはSDGS(持続的な開発目標)にどのように対応してほしいのか。基本はCSV(共通価値創造)なので、SDGSの17項目をよく吟味する。
・その上で、自社のビジネスにとって、本業の広がりとなるか、新規ビジネスとなるか、リスクマネジメントになるか、というマテリアリティ(重要性)を判断し、企業価値向上に資するものから取り入れていけばよい、と小森氏は強調する。企業価値向上が第一で、その上で社会的課題のソリューションに結びつけばさらによいという見解である。
・AMに対して、新しいBM(ビジネスモデル)を構築せよ、と要請している。AMに聞くとESGインテグレーション(ESGを投資判断に組み込んだ運用)をやっていると、すべての機関が答える。では、IRミーティングで、ESGの議論を本気で行っているか。
・まだ十分でないと感じており、これから強く要求するという。鍵は、パッシブ(インデックス)運用において、企業とのエンゲージメントをどのように行うか、にある。GPIFの株式運用の8割がパッシブである。アクティブ運用は3~5年単位でみれば、株を売ることが普通なので、ESGのエンゲージメントはパッシブ運用の方がはるかに重要である。
・GPIFはESG指数を公募し、第一弾を7月3日に公表した。14社から27本の応募があったが、そこからまず3本を選定した。国内株の3%に当たる1兆円をこの3本で運用することにした。
・ESGに対する考え方はまだ多様であり、企業の開示も十分でない。AMから企業サイドにESGの開示を要請することになろう。インデックスについては今後5年、10年かけて、あるべき姿を追求していくという。企業やAMは指数会社とさらに対話していく必要がある。
・選定されたFTSE Blossom Japan Indexは、ESGの総合型で、FTSE JAPAN 500の中から、151銘柄が入っている。MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数も総合型で、MSCIジャパントップ500から251銘柄を選んだ。3つ目のMSCI日本株女性活躍指数(WIN)はテーマ型で、MSCIジャパントップ500から212銘柄を選んだ。
・この他にも、今後新しいESG指数が選ばれていく可能性がある。環境(E)については現在審査を継続している。なお、ガバナンス(G)については、公募した中では該当なしとなった。Gをベースとするインデックスで、ベンチマーク(5年間)を上回るものがなかったことによる。
・GPIFのAMに対する評価において、ESGに関するエンゲージメントのウエイトが高まっている。従来の10%を30%に高めたと小森氏は強調する。中長期投資におけるGPIFの新方針の確立とその実行は、AM業界に大きなインパクトを与えよう。ESGの評価軸がいかに運用パフォーマンスの向上に結びつくか、大いに注目されよう。