60年続く経営~経営者を評価する視点
2015.10.26 (月) 10:06 AM
・キリン堂の60周年記念パーティーに参加した。記念パーティーというとお祝いと懇親というのが通常の姿であろうが、今回の場合は、何人もの経営者が示唆に富む話をした。企業の経営を見抜く視点として学ぶところが多かったので、印象深かった点をいくつか紹介したい。
・キリン堂は大阪でトップクラスのドラッグストアである。創業者である寺西忠幸会長は現在86歳、60年間代表取締役を務めている。若い時から未病に関心を抱き、未病をビジネスの軸としてきた。未病とは東洋医学の言葉で、病気とはいえないが健康ともいえない状態をさす。治療から予防へ、いかに健康寿命をのばすかが高齢化社会のテーマとなる中で、国内だけではなく、中国でも未病に関わるビジネスを伸ばそうと、今でもリーダーシップを発揮している。
・寺西会長は戦後間もなく事業を立ち上げ、常に損得だけではなく善悪からものごとを考えてきた。彼の経営哲学の1つの基本である。2代目の寺西豊彦社長(長男)も、周りからもっと経済合理性を追求したらどうかといわれることもあるようだが、目先の損得に捉われて長期的な正義を失わないように、と自らを戒めている。
・キリン堂の取引先の経営者が挨拶に立ったが、祝辞を述べながらも自分の経営を語っていた。大正製薬グループの上原明社長は現在74歳、経営の要諦について、大きな目標をたてると同時に、目標に刻みを付け、時間的・組織的な中間目標を立てる重要さを指摘した。
・そして、時代の変化を見抜くことが必要であるという。上原社長は瀬島龍三氏に学んだ。時代に逆らってはならない、時代の変化に乗って対応せよと。今やわが国のテーマは、健康寿命の延伸にある。セルフメディケーションによる健康増進を、各々の立場で自立的に推進していく必要があると強調し、そこにビジネスのコアをおくべしと述べた。
・キリン堂とPB(プライベートブランド)商品で提携しているマツモトキヨシホールディングスの松本南海雄会長は、ドラッグストアの新しい役割について言及した。医療と健康について、もっと相談できる場を提供して、消費者に納得してもらえる付加価値を追求していく。その中の1つがPB商品の開発で、セブン-イレブンのような体制を作りたいと強調した。
・セブン-イレブンは一流の食品メーカーとして組んで、オリジナルで質の高いPB商品を作り、それを大量に販売している。少し高くてもその価値が顧客に受け入れられている。ドラッグストアにおいても、一流の医薬品メーカー、化粧品メーカーと組んで、質の良いPB商品を開発していく。そのために、キリン堂と組んで共同開発や相互供給に力を入れていくという。
・ユニ・チャームの高原豪久社長は、60周年という歴史から学ぶことの難しさを強調した。歴史は辿ることはできても、それを再現することはできない。よく企業の寿命は30年といわれるが、どうしてか。それは、その企業の有する哲学、強み、特長を組織として持ち続けることができないことにあると指摘する。
・古い組織を壊して、リーダーシップのある人材を抜擢していくしかない。企業文化が創業者から刷り込まれ、いかに組織現場に根付いていけるかが問われる。企業が今から次の30年を生き続けるには、経営哲学を磨いて実践していくしかない。高原社長は2代目として、初代の事業を壊しつつ新しいビジネスモデルを構築してきた。2代目のあり様を示しているといえよう。
・日本は高齢化が進行する。すでに人口減少社会に入っている。今増えている高齢者も団塊の世代がいなくなる30年後には、高齢者そのものも大きく減少していく。健康→未病→病気という流れの中で、治療から予防へ、未病から健康へ、未病を防ぎ健康のライフタイムバリューをいかに最大化するか。ここにうまく関わって行けば企業は成長できる、という高原社長の指摘は説得力があった。
・参加者が1000人を超える式典の中で、執行サイドの役員ではなく、社外取締役と社外監査役が壇上で紹介された。集まった人の大半は取引先である。投資家は少なかった。その中で、企業のコーポレートガバナンスを強調して、社外役員を紹介した点はユニークであり、極めて重要なことであったと評価できよう。