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資本コストを活かす経営に投資

   2018.11.20 (火) 8:56 AM

・資本コストとは何か。分かったようで、今一つピンとこないという人も多いと思う。では、損益分岐点はいかがであろうか。これ以上になればコストを上回って利益が出てくるラインのことである。

・投資家はROE(株主資本利益率)を大事にする。そのROEに対する損益分岐点が資本コストである。つまり、株主にとっては、〈ROE-資本コスト〉が実質的なプラスのリターンであるとみる。

・ROEがマイナスでなく、プラスであればよいとは誰も思わない。企業経営においても、赤字でなければよい。とりあえず黒字ならそれでよいとは通常思わない。一定水準以上の利益をあげなければ、企業を持続するための次の資金が得られないからである。

・企業が社会に提供する価値が顧客や社員に受け入れてもらえなければ、会社はそもそも続かない。企業価値が認められれば、その対価として経済的な見返りも入ってくる。ここをいかにコントロールしていくかが経営の基本であろう。

・その時、資本コストが、①分かっているか、②使っているか、③役に立っているか、が問われよう。投資家はこの点をよく知りたいと思っており、納得できる会社をいい会社と評価する。

・お金を借りた時には金利を払う。これが借入金のコストであり、分かり易い。では、株式を発行して資金を調達した時のコストは何か。決算をしめて利益が出た時、その内部留保のコストはいくらか。

・株主にとっての資本コストは、証券会社に払う手数料ではない。株主に払う配当でもない。株主が投資したからには、このくらいのリターンが欲しいと思う見返りのことである。

・100万円を株式に投資した特に、いくらのリターンを期待するだろうか。それは人によって異なる。確かにその通りであるが、マーケットには多くの投資家が参加しているので、一定の水準というものがあると考える。期待リターンに対する自分なりの考え方を固めておくことは大事であるが、マーケットの動きもみておく必要がある。

・株式の資本コスト(CoE)は、一般にリスクフリーレートrf(リスクがほとんどないと考えられる金利)+リスクプレミアムrm(株式にはリスクがあるので、それに見合って上乗せされる分)で定義される。

・リスクフリーレートrfは名目の利子率として、日本であれば1~2%であろう。リスクプレミアムrmを3~5%と見積もるとすると、CoEは4~7%程度となる。株式に投資するのだから、このくらいのリターンは期待したいという意味である。

・ここが損益分岐点だから、これを上回った分が超過リターンであり、下回った場合はリターンがプラスであっても、別の株式に投資すればもっとよかったかもしれないので、実質的にマイナスのリターンと捉える。

・米国ならどうだろうか。米国でビジネスを行っている企業や投資家にとっては、リスクフリーレートrf 2~3%、リスクプレミアムrm 4~6%とすれば、CoEは6~9%となろう。もし米国での事業ウェイトが高いとすると、日本のCoEより高い水準を想定する必要があるかもしれない。

・これにマーケット特性や業種特性を考慮する必要がある。自社の株価は、マーケット平均(例えば、東証株価指数)の動きに対して、その感度β(ベータ)はどうか。マーケット平均が1%動く時に、自社の株価は1.5%動くのか、0.5%しか動かないのか。過去の一定期間の統計データから、その動きをみてみる。

・ファイナンスのCAPM理論に従えば、特定のi社のCoEは、ri=rfi(rm-rf)と定義される。つまり、マーケットの変動に対してリスクプレミアムがどのくらい大きく、あるいは小さく振れるかを考慮して調整する。

・マーケットより大きく振れる特性があって、β1=1.5であるとすると、r1=2+1.5(5-2)= 6.5%となる。逆に、β2=0.7の会社であれば、r2=2+0.7(5-2)=4.1%となる。

・次に、株式の資本コスト(CoE)と負債の資本コスト(CoD)を考慮して、加重平均資本コスト(WACC)を検討する。WACCはD/(D+E)×rD(1-t)+E/(D+E)×rEと定義される。

・株式(自己資本E)と借入金(負債D)の比率が、例えば1:1で、借入金の金利がrDが1%、税率tが35%であれば、WACC=1/(1+1)×1×(1-0.35)+1/(1+1)(2+5)=0.325+3.5=3.825%となる。

・企業経営においては、ROIC(投下資本利益率)がWACCを上回っていれば、経済的にみて価値創造企業といえる。よって、WACCを知ることは極めて重要である。

・ROE8%を上げてほしいと投資家がいうのは、β=1.0 とするとCoE 7%が高めにみて妥当なところなので、それを上回ってほしいという意味を込めている。実際は、個別の会社の特性をよく検討する必要がある。

・こうした計算について、これは単なる算数ではないかと思う経営者も多いと思う。しかし、自社がM&Aをやる時、自社株買いをやろうとする時には、必ず自社の株価の妥当水準を想定するはずである。

・将来の業績とキャッシュフローを予想して、WACCを用いて企業の現在価値を試算するはずである。これはゲームのルールであり、完璧な予測はできないが、一定の蓋然性(確からしさ)は求められる。

・株価はマーケットが決めるものといわれるが、今の株価が妥当株価(フェアバリュー)とはいえない。企業としては、自社の妥当株価を絶えず意識して、経営に当たる必要がある。

・割安と思えば、もっとIRに力を入れる必要がある。割高と思えば、高すぎる期待に対して、冷静になるような情報を出していく必要がある。

・では、資本コストを見定めた上で、ROEはどこまで高めればよいのか。極大化が望ましのか、一定の満足水準があるのか。筆者は、経営者には絶えずストレッチして、目標は高めに持ってほしいが、極大化を求めて短期志向に走る必要は全くないと考える。

・まずは8%を、次に10%を、その次は欧州・アジア並みの12%、そして、米国並みの15%を目指してほしい。それぞれの業種特性を加味してくれれば、魅力は一段と高まろう。投資家としては、資本コストを経営に活かして、ROEの水準をはっきりさせる企業に投資したいものである。

 

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