社外取締役との対話~エーザイのケース
2018.10.30 (火) 5:06 PM
・9月に、エーザイは社外取締役との意見交換会を催した。7名の社外取締役が全員揃っての会合とは珍しい。かなりの投資家が集まっていた。柳CFOが統合報告書のエッセンスを説明した上で、社外取締役が1人1人自己紹介した後、質疑や意見交換に入った。
・エーザイの統合報告書は良くできている。これをじっくり読むと会社のことがよくわかり、投資判断のベースとして十分活用できる。
・では、社外取締役とはどんな会話をするのか。エーザイは指名委員会等設置会社で、11名の取締役のうち、7名が社外で、社内は4名である。内藤CEOのみが執行サイドで、後の3名は社内出身ながら非執行で、うち2名は監査委員会委員である。
・出ていた質問の中では、1)社外取締役が取締役会の議長を務めているが、議長としてどのような議論を重視しているのか。2)社外取締役はどのように選ばれているのか。3)企業文化としての強みや弱みは何か。
・4)医薬品の専門性がないと事業計画の中身が十分把握できないのではないか。それで監督や助言ができるのか。5)買収防衛策を入れており、それによってCEOなど取締役への信認も十分でないようにみえるが、どう考えているのか。こうした点が興味深かった。
・私が質問するならば、①新薬開発(認知症、癌)において、マネジメント、イノベーション、リスク、ESGの軸において、どのような監督や助言を行っているのか。1人ずつ例を挙げて説明してほしい。
・②hhc(ヒューマンヘルスケア)に基づく価値創造が、財務パフォーマンスに結びつくという点で、現在の局面をどうみているのか。③患者の視点を重視して企業価値の向上を図っているが、少数株主の立場を重視するという点では、どのようなことを実践しているのか。こうした点について聞いてみたいと思った。
・ここで、今回最も議論になった買収防衛策について考えたい。株式の持ち合いと同じように、買収防衛策については、合理的な説明がなかなか難しい。投資家からみた時、企業価値の向上にとって制約となる経営行動をとるのではないか、という懸念が払拭できないからである。
・エーザイは、4月に企業価値・株主共同の利益の確保に関する対応方針(買収防衛策)の一部変更と継続を決議した。1)有効期間を5年間から1年間に変更し、2)対象となる買付の基準を15%から20%に引き上げた。
・なぜ買収防衛策を入れるのか。会社としては、しっかりした理念のもとで本当に患者に役立つ新しい薬の開発に長期的に取り組んでいく。新しい薬つくりは10年、20年を要する。株主にとっても、ROEという指標を10年単位でみてほしいとしている。つまり、10年平均のROEをKPI(重要業績指標)としている。
・事業はポートフォリオなので、常にバランスをとっていく。それでも開発の進展によっては、業績が低迷することもありうる。あるいは、将来極めて有望な開発が見込めるにも関わらず、その評価が時期尚早ということで、株式市場で十分評価されないことも起こりうる。
・企業価値を長期でみてほしいが、そこにギャップが生まれた時、短期志向の投資家が買占めに入ってくるかもしれない。あるいは、当社の開発資源を割安に手に入れようとして、M&Aが動く可能性もある。長期の開発、長期の経営、長期の株主という路線に相反する動きがあった時の対抗措置を事前に準備しておこうとする。これが買収防衛策の意味であろう。
・まともな買収提案か、まともでない買収提案かは、社外取締役独立委員会で、事前に定めた要件に照らして判断する。そして、まともでない提案と判断した時には、新株予約権を発行して、買収相手の株式数を希薄化するような対抗手段を講じる。
・これがなぜ機関投資家から嫌われるのであろうか。「機関投資家協働対話フォーラム」によると、一般論として、1)十分な成果を上げていない経営に変化をもたらすという株主の権利を制限し、経営陣の自己規律性を弱めるのではないか。
・2)正当な目的を持った戦略的買収でも、経営陣の意に沿わない買収提案は阻止できると誤解し、経営に甘さが出るのではないか。3)ひいては、ガバナンスの評価がディスカウントされるので、資本市場の評価を下げるリスクが高まることになる。これらの点が懸念される。
・現時点におけるエーザイの株式市場での評価は、PBR 5.2倍=ROE 9.7%×PER 53.7倍、と高い評価を受けている。この5年間の株価推移をみると、4000円から8000円に上昇し、その後6000円台を続けた後、この6カ月で10000円を超えてきた。新薬の開発進展に関するエビデンスが出てきたことによる。
・マーケットにおける株価は、その時点のさまざまな内容を織り込んだものであるが、必ずしもフェアバリュー(公正な価値)とはいえない。株価は絶えずフェアバリューを求めて動くが、妥当ゾーンにあるとはいえず、敵対的買収のターゲットにされる恐れは常に存在する。
・しかし、あえて買収防衛策を入れなくても、長期の企業価値創造を行うことは十分できよう。その方が評価も高まるといえる。筆者は、株式の持ち合いも買収防衛策も一概に否定するものではない。きちんとエクスプレインしてほしいが、それが苦しい説明になるのは否めない。
・とすれば、もっと正攻法のガバナンスで十分である。エーザイはすでに先進的なガバナンス体制をとっており、大いに誇ることができる。買収防衛策をやめることで、企業価値は一段と向上しよう。早晩そうした展開になるものと期待したい。