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新市場区分と投資機会~問われるスタンスの違い

   2021.06.15 (火) 2:12 PM

・東証が市場区分を見直す。来年4月よりスタンダード、プライム、グロースの3つの市場がスタートする。現在の東証1部(2192社)はスタンダードかプライムへ、東証2部(474社)とジャスダックスタンダード(663社)はスタンダードへ、東証マザーズ(356社)とジャスダックグロース(37社)はグロースに移行する予定だ。

・新しい市場区分は、投資家からみた時、自らの投資態度にどのような変化をもたらすか。ステークホルダーにとってはどうか。顧客として、取引先として、社員として、新しい市場区分はどのような意味を持つのか。それは、レピュテーションにどのような変化をもたらすのだろうか。このイメージを固めるために、いくつかの論点があろう。

・投資家として、プライム市場の銘柄にしか投資しないのか。スタンダードでもいい会社には投資するのか。グロース市場は成長を求めて大いに活用するのか。この判断が問われよう。

・規模や流動性の違いはあるが、中長期のアクティブ投資を基本とする筆者にとっては、3つの市場の違いはほとんど問題にならない。いい会社かどうかが重要な判断基準である。グロース市場はガバナンス基準が緩いが、成長を目指す若い企業にとっては立ち上げ期はそういうものであろう。リスクが高いのは覚悟の上である。

・3つの市場は互いに独立しており、従来のように2部から1部へ、1部から2部へといった移行基準は設けない。スタンダード市場からプレミアム市場への変更は、同市場への新規上場と同じ基準で改めて審査される。

・今までならジャスダックから2部に指定替えして、2部から1部に緩い基準で移行できた。このようなことがなくなる。逆に、プライム市場の上場基準が厳しく変更されたので、現在の1部上場企業の中には、そのハードルをクリアできない企業が出てくる。

・全体の2~3割の企業が対象となろう。数は多くても、時価総額からみると全体にとっては微々たる比率なので、サイズとしてはさほど問題にならない。

・市場変更はレピュテーションへどう影響するのか。東証2部やジャスダックからスタンダードに移ることは、ほとんど問題なさそうである。1部に比べて2部というと、格下のようにみられるが、プライムとは独立したスタンダード市場なので、規模の違いはあっても、上下関係のイメージは薄い。

・筆者がアナリストレポートを書いている東証2部の会社は、小型企業ながらしっかりした収益基盤を持っており、B to Bの取引先は大手上場企業クラスである。2部だから格下といった見方はほとんどない。つまり、取引への影響は全くない。また、採用に当たっては、中途を厳選して採用しており、女性の活用でも優れている。ただ、新卒採用では、知名度という点で多少ハンディがあるようだ。

・グロース市場に移る企業には、3つのパターンがありえよう。1つはどんどん成長して、プライム市場に上場できる基準を十分満たしているにも関わらず、グロース市場で個性を発揮したいという企業である。2つ目は、日本を代表する企業として、プライム市場に移る企業である。

・そして、3つ目はいつまでもグロース市場にはとどまれないとして、ガバナンス基準を強化して安定収益をベースに、スタンダード市場に移る企業である。3つの市場とも上場廃止基準は新規に定められ、別の市場に横滑りで移るということはできない。

・最大の課題は、今1部に上場しているが、そのままプライム市場に移るには、基準のハードルが高い企業である。ここには2つの選択肢がある。1つは、無理をせずにスタンダード市場に移って、いずれプレミアム市場への上場を目指すという道である。これが格落ちとみられ、弊害はあるのだろうか。このレピュテーションをどう認識するか。

・取引に影響が出るだろか。顧客の買い控えが起きているだろうか。社員のやる気が落ちて、新規採用がやりにくくなるだろうか。経営者が外部の会合に出た時に肩身の狭い思いをするだろうか。ほとんど関係ないと思うがいかがであろうか。

・もう1つは、猶予期間が設けられるので、基準をクリアする計画書を提出して頑張るという企業もあろう。ハードルをすぐにクリアできないにしても、その道を探る企業は多いとみられる。筆者がカバーする中小型企業で5社がこの領域にいる。

・時価総額で300億円を安定的に確保したいとすれば、PER15倍として純利益20億円が必要である。経常利益では30億円はほしい。PBR=ROE×PERという関係式において、ROE10%をあげていくことが求められる。よって、PBRは1.5倍となろう。

・これが目指せる会社になることである。しかも、これは成長戦略の途中であって、ゴールではない。5社のうち、3社はこうした財務パフォーマンスを達成できるようなビジネスモデルへ変革できそうである。

・ビジネスモデルが変革できそうな会社は、プライム市場の基準を満たすべく計画書を提出し、それを中期計画に盛り込んで実現を目指せばよい。3社は新市場区分の議論とは全く別に、ビジネスモデルの変革に取り組んでおり、現在途上にある。

・2社にとっては、ハードルがまだ相当高い。基準達成が難しい会社が、高い目標をかかげてプライム市場への移行を目指すと何が起こるのか。ここでも2つの可能性がある。1つは、これがきっかけとなって、これまでできないと思われていたビジネス革新が一気に進むことである。ハードルが高くても挑戦すべし、という展開をめざす。

・もう1つは、ハードルの高い計画が、いつまでも未達のプロセスを歩み、企業としての信頼を失っていく。無理な計画が短期利益の追求に終始して、自らの収益基盤、成長基盤を損なってしまうかもしれない。

・今回の市場区分の見直しは、どの企業にもビジネスモデル(価値創造の仕組み)の革新を迫る。安閑とはしていられない。投資家としては、変革に挑戦している中身をよくみていきたい。飛躍してくる企業が必ず出てこよう。ここに投資機会あり、と注目したい。

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