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新型コロナウイルスの影響と対応~積極的感染防止戦略

   2020.10.04 (日) 11:29 AM

・9月に日本価値創造ERM学会の特別公演で、小林慶一郎氏(東京財団政策研究所研究主幹)の話を聴いた。小林先生は、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会のメンバーである。

・危機管理の基本は“最善を期しつつ最悪に備える”ことにある。不確実下の意思決定はミニマックス原理に基づく。つまり最悪の事態を最小にするように行動するのがよい。

・感染症モデル(SIRモデル)によると、行動制限は時間稼ぎにすぎず、行動制限を緩和すると再び感染拡大経路に入っていくという。その時、また行動制限をかけるのか。これを繰り返すことのコストは膨大で、経済がもたない。今は第二波がおさまりつつあるが、ここで皆が動き出すと次は第三波がくる。これを繰り返し続けるのか。

・小林先生は「積極的感染防止戦略」を提言している。これは、感染リスクを抑えるために、人を特定し、速やかに隔離する方策である。人々が感染を怖がって動かなければ、消費は落ち込み、生産活動も止まってしまう。

・感染を止めることはできないが、どういう状況なら感染する可能性が高いかということはかなり分かってきた。それを避けるのは当然であるが、かといって生活者の行動を止めるわけにはいかない。

・そこで、①検査する、②調査する、③囲いこむ、④待機させて療養する。つまり、感染リスクを抑えるには、感染した人を早く見つけて、その行動を調査して、まわりの人もすぐに検査して、陽性の人を特定して隔離する。そこで治療をして、治ったところから復帰させる。

・感染を避けるために全員の行動を止めるのではなく、慎重に行動しながらも、感染した人はすぐに見つけて囲い込む。そうすると感染リスクは明らかに下がる。現在、国の方針はこの方向に進もうとしている。

・誰でも検査してくれるなら、人々の不安は減っていく。でも、検査の能力(キャパ)は限られている。検査の結果がでるまでに時間がかかる。これでは、感染した人がまわりにどんどん感染を広げてしまう。

・PCR検査(抗体検査を含めて)のキャパは逐次上がっている。7月に1日8万件であったものが、9月末で10万件、11月末で20万件へ上げようとしている。早い時期に50万件を目指すべし、と小林先生は強調する。

・誰の検査を優先するのか。第1は有症患者とその人への接触者(2日前から)である。第2は、高リスク無症の人である。医療関係者、介護福祉関係者は当然であろう。また、歓楽街で働く人々も高リスクなので優先する。入国管理の水際チェックも重要である。第3は、低リスク無症の人である。宅配などビジネスに関わる人、スポーツや芸能に関わる人々なども定期的に検査した方がよい。

・現在インフルエンザの検査は1日で10~30万人できる。この秋冬はインフルエンザかコロナウイルスアかの症状をどう見極めていくかが問われる。検査のキャパが上がってくれば、エッセンシャルワーカーの無症状の人々を定期的に検査して守れるようになる。

・熱が出たり、だるくなったりしたら、どこの病院にいくのか。現状では、かかりつけ医に電話して、診てもらうための予約をとる必要がある。その時、単なる風邪なのか、インフルエンザなのか、コロナウイルスなのかをどう見極めるのか。

・有力なクリニックの先生によれば、まず風邪薬を飲む。おかしいと思ったら、インフルエンザの薬タミフルを飲む。このタミフル(ジェネリックを含めて)は、クリニックに行けば多くの場合保険適用外で処方してもらえる。つまり、薬代は高くなるが、いざという時のために事前にもらっておく。現在でも、受験生が試験日に備えて、早めに手に入れておくということは行われている。

・熱が出て、タミフルを飲んでも効かないとすれば、コロナウイルスの疑いが高まる。かかりつけ医に相談して、PCR検査を速やかに受ける。早く受ければ、他の人にうつす可能性が減る。

・罹った本人はどう行動するのか。無症状の人もいれば、症状が出ても軽いまま終わる人もいる。早めにしっかり隔離することが重要である。自宅がいいと言っても、家族にうつしてしまうかもしれない。自宅内隔離ができるかが問われる。ホテルや病院に入って、検査や治療を受ける方がよい。

・本格的な治療薬やワクチンはまだである。現在治験が進んでいるので、1~2年後にはかなり普及してこよう。それまでは、小林先生の言う積極的感染防止戦略でしのぎたい。

・例えば、抗インフルエンザウイルス薬のアビガンはどうか。日本でのこれまでの治験では、治験の制約もあり有効性は確認は十分でなかったが、効いたという事例は世界でいろいろ出ている。製薬メーカーでは増産して在庫を貯めている。

・理屈として、アビガンはウイルスの増殖を防ぐ。よって、もしコロナウイルスに効くとすると、初期の状態で投与するならばウイルスの増加を抑えることができよう。ウイルスが増殖して、コロナを発症し症状が重くなってからでは遅いかもしれない。よって、早めの検査で陽性になった人々に使うと一定の効果が期待される。

・COCOA(ココア:新型コロナウイルス接触確認アプリCOVID-19 Contact-Confirming Application)の普及はまだ10%以下で、アプリの改良も進められている。これが70~80%に高まれば、身のまわりで知らずにコロナ感染者に接触していたかどうかがわかる。すぐに検査を受ければ、本人の早期治療と感染拡大防止に役立つ。

・こういうITの活用がいかにも遅い。アプリを入れるかどうかを本人の選択に任せる‘オプトイン’ではなく、スマホのアプリには自動的に入れておき、嫌な人はそれを外すという‘オプトアウト’にすればよい。こういうコンセンサスも中々とりにくいが、すぐにもオプトアウト型にすべきであろう。

・コロナショック後、病院やクリニックの経営が苦しくなっている。調剤薬局の収益も落ちている。介護福祉施設も厳しくなっている。コロナ患者の治療について、その負担は重い。社会的役割は極めて重要であるが、経済的には儲からない。他の患者が来なくなるので、その収入減が広く業界に響いている。医療関係者の善意にだけ頼るわけにはいかない。コロナ対応の医療については、今後さらに収益面で国からのサポートを拡大し、継続する必要があろう。

・この半年で、社会経済的活動にどのような影響が出るかは概ね分かった。ここからあと2年同じような状況が続くとすれば、現状のような補助金で、経営が持続できない企業が続々出てこよう。失業も大幅に増えてくる。本当の不況はこれからという見方も有力である。

・倒産、廃業、事業再編、事業再生が次々に表面化してこよう。産業、企業の新陳代謝は不可欠であるが、単なる延命策では次の展開は見込めない。人々は、働き方を変える必要がある。そのためには、いくつになっても学び直しに挑戦していくことが求められる。雇用を増やす会社がいい会社であるという視点は不変である。ここを軸に、次の成長戦略を見据えていきたい。

 

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