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数理モデルの社会実装~DXの時代に

   2022.11.07 (月) 10:59 AM

・10月に「藤原洋数理科学賞」の表彰式が行われ、受賞者の講演があった。純粋数学を基本としながら、数理科学を活用した産業界への貢献も目指している。DX時代を迎え、数理モデルの応用が社会実装にも活用されている。講演を聞きながら感じたことをいくつか取り上げてみたい。

・出版のデジタル化、音楽のデジタル化、映画のデジタル化は急速な進展をみせている。今やメタバースのプロダクションがしのぎを削っている。出版のデジタル化ではPOD(Print on Demand)が興味深い。

・PODでは、本の出版に当たって、注文があってから印刷に入る。製本してすぐ届ける。印刷が不要ならば、ネット上ですぐに読める。e-bookやkindleはすでに普及しているが、自分の好きなように本が出版できるようになる。

・大量に印刷すれば安くなるという常識に対して、印刷コストを大幅に削減する仕組みを作って、少ない部数の出版ができる。記念の文集を出したい、思い出の写真を作ってすぐに配りたい、といったニーズに即応できる。元マイクロソフト社長の古川亨氏は熱く語った。

・本の価格も一律でなくてよい。専門書を出す時、途上国の研究者には安く、先進国の支払い能力のある人や組織には高く売る。こうしたコントロールが速やかにできるようになる。理屈は分かっても、実際実行しようとするとその手続きをシステム化するのはかなり面倒である。ここを突破していく。

・ミクロのデータからマクロ的に意味のあるデータを見出していく。一見ランダムにも見えるものの中から、ランダムでない特徴を抽出する、これが静的な均衡ではなく、時間とともに変化していくプロセスをダイナミックに捉えていく。

・単なるデータ解析ではなく、ミクロデータを数理モデルとして定義していく。位置、状態、相互作用、変化、スピードなど、異なるスケールをつないでいく。この時、定義される数理モデルはシンプルな方が本質をより明らかにできる。東大の佐々田槙子准教授は「流体力学極限」研究で、これを実践している。

・地球を見た時、人類はほんの一部で、世界は微小生物だらけである。ミクロな微小生物の動きを遊泳としてとらえる。遊泳して、どうして前に進むことができるのか。細胞に弁があると対称性が崩れて方向性を出せる。

・その非対称性を奇弾性と捉え、微小生物の形を流体力学で新しく定義した。その数理モデルが実証研究によって、次々に証明されている。将来は、材料科学やロケット工学に応用展開されていこう。京大の石本健太准教授は、グローバルにこうした研究を進めている。

・カオスをどう扱うか、複雑系をとらえるには、決定論ではなく確率的に記述する数学が必要である。カオス力学を基軸にした複雑系の数理モデルを脳科学に応用するとどうなるのか。中部大学の津田一郎教授は、この分野で世界の先端を走ってきた。脳の数理モデルを開発し、それが後に実証されてきた。computer aided  proof という手法の進展も貢献している。

・エピソードはニューラルネットワークの中で、どのように記憶されるのか。カオス遍歴として、機能的結合が生みだされていく。相関的つながりは多様で、何らかの創発原理が働いている。脳は、機能を自ら作っていく。これを数理モデルで定義しようという研究が続いている。

・東大の西成活裕教授は、世界初の群衆マネジメントで新領域を確立している。30年前から混雑を研究してきた。混雑の中で、いかに安全に人々を守るか。混雑を定義し、密度=流量÷速度で6段階に分ける。

・コロナ禍で、ソーシャルディスタンス(1mの間隔)という話が出てきた。全く新しいコンセプトである。混雑度をみるには、密度だけでは不十分で、ベクトルの回転量(うず度)をみる必要がある。混雑度=回転量÷平均速度とした。また、パーソナルスペースも重要になっている。

・混雑から群集(クラウド)の研究に入っていった。新宿駅の人流、表参道駅の人流、整然と流れている時もあれば、一気に滞留となる場合もある。渋谷駅のスクランブル交差点は、なぜスムーズにみんなが渡っているのか。

・ANAの飛行機の搭乗で、優先搭乗を廃止した。これをやると、全員が乗るのに時間がかかる。優先搭乗の客は通路側を予約する。降りる時、早く出ようとするからである。そこで、窓側の席の人から入れるようにした。これをデータで示して、コンフリクトを解消するようにした。

・群集マネジメントは、人流コントロールの基盤を作る。現実を可視化し、シミュレーションを同時進行で進める。10分先を1~2分で予測して、本人や警備員へ情報を流す。こうしたプラットフォームを作ろうとしている。

・東京ドームへの入場と退場、一斉に退場する時は、多くの人々は水道橋東口に向かう。西口や後楽園口への誘導をいかに行うか。AIエッジカメラの活用が有効となる。

・群集マネジメントでは、①inform(情報提供)、②advice(助言)、③guide(誘導)、④steer(操縦)、⑤enforce(強制)のリスクマネジメントがありうる。④、⑤は警察などに依存する。

・数理モデルでシミュレーションを行う。ブラックボックス型のAIでも、かなり説明力を高めることができる。実際の対応では、行動経済学の「ナッジ理論」が有効であるという。ちょっとした指示棒やリズム音で流れをスムーズにできる。

・今回、基調講演と4人の受賞者の話を聴いた。専門的でなく、分かり易く話していただいたので、多少とも理解することができた。

・企業経営においても、データ経営が求められる。コックピットや羅針盤が必要である。シミュレーションに数理モデルを活用することができる分野は、今後大幅に広がっていこう。それによって予測力が高まるのであれば、それを踏まえた経営力を大いに評価したい。

 

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