投資の極意
2024.06.19 (水) 9:49 AM
・投資の極意はどこにあるか。私の場合、長年のアナリスト経験を活かして、企業を分析する力は身に付いているが、それで投資がうまくいくであろうか。
・かつて誰でもできる「投資の極意」というテーマで、個人投資家向けに講演を続けたことがある。これがあまり受けなかった。なぜか。会社を見る目を養うということに主眼をおいたが、そんなことよりも儲かる銘柄を教えてよ、という視線が圧倒的に強かった。
・儲かる銘柄を教えてほしい、という問いは、いろんな場面で出てくる。その時、ジョークをとばして、いつも煙に巻いている。私は、株のプロです。儲かる株をタダで教えることはできません、そんな楽な道を行っては、腕が上達しません、と。
・自分が納得できなかったら、上がった/下がった、儲かった/損した、ということだけに捉われて、ものごとの本質を見誤ってしまう、と話してきた。
・東証は、上場企業に対して、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を求めてきた。PBR1.0倍以下の企業に対して、もっと努力し、結果を出せとはっぱをかけた。
・2024年5月末で、こうした対応について、方針を開示した企業がプライム市場で1031社、全体の63%に達した。時価総額1000億円以上でみると、PBR1倍未満の企業の86%、PBR1倍以上の企業で66%が開示した。
・つまり、PBR1倍以下だけが問題ではない。1倍以上の会社でも、もっと資本効率を高めてほしいのである。それが行き渡れば株価はさらに上昇してこよう。
・清原達郎氏の「わが投資術」を読んでみた。若い時に一緒に会社調査へ行ったことがあり、海外の機関投資家への営業にアナリストとして同伴したこともある。とんでもなく優秀な逸材であった。その後、タワー投資部門のファンドマネージャーとして、今でいうヘッジファンドとして、圧倒的なパフォーマンスを上げた。
・ヘッジファンドであるから成功報酬型である。一定以上のパフォーマンスを上げれば、それに見合って、運用のフィー、自らの報酬も決まってくる。儲けなければ話にならない。まさに、本物のプロの世界である。
・清原氏の投資術の中で、私も納得でき、ぜひ活用してみたいという投資戦略の立て方を取り上げてみたい。
・カギは、いかにマーケットを出し抜くか、という1点にある。マーケットは効率的なので、新しい情報はすぐに株価に織り込んでしまうので、みんなが知らない情報で、自分だけが先に投資アイデアに仕上げて、株価の上昇に先行するというのは相当難しい。でも、投資妙味はここにある。
・情報にはバイアスがある。マーケットに織り込んでいるようでありながら、プラスにもマイナスにも十分評価されていないことも多い。マクロの情報で勝つよりも、ミクロの情報で勝とうとする方が、チャンスが多い。
・大型株よりも小型株の方が、割安さを見い出しやすい。流動性が低いので、みんなの目が十分行き届いていない。社長の話を聞いて、会社を見ると、実は「伸びしろ」がある。あるいは、いい強みを有しているのに、それが評価に織り込まれていない。
・小型株の成長性は、経営者がほぼ全てのカギを握るので、成長性を見抜きやすい。清原氏は、6つのポイントを挙げている。①強い意思、②目標を共有する優秀な部下、③競合を押しのける力、④強み(コアコンピタンス)をさらに強く、⑤将来マーケットの先食いではない、⑥経営者の言動の一致、に注目する。
・割安小型成長株に早い段階で投資して、フォローしていく。多少間違いがあっても、まずは投資して、そして見直していく方が、チャンスを活かすことができる。成長を確認してから買うのではなく、成長を予想して買うべし、という。
・グロース市場にいるからといって、中身が冴えない高PBR銘柄には注意せよ、という。逆に、バリュー株は資産価値の割に株価が低いとしても、万年割安かもしれないので、これにも注意が必要である。
・清原氏は、ボトムアップアプローチのコントラリアンである。マクロからトップダウンで銘柄選択におりていくのではなく、1社1社を個別にみて、伸びている企業で割安に放置されている会社に集中投資する。
・みんなが乗っている相場についていくトレンドフォロワーではなく、完全な逆張りを基本とするコントラリアンである。みんなと反対の行動の中に、投資価値を見い出し、その実現を成果としてとっていく。
・投資は常に確率的にみていく。絶対に決めつけず、固執しない。自分にとって不都合な情報はつい耳に入れたくないが、そうではなく、不正確な情報にも常に向き合っていく。新しい事実を取り入れて、自らの考えを調整していく投資態度が重要である。
・確率なので、イチ、ゼロではない。また、単なる頻度ではなく、ベイジアン的アプローチをとっていく。つまり、新しい情報を次の条件として、それをベースに「条件付き確率」として、次の場面をみていく。
・もう1つ、清原氏はESG投資に否定的である。ESGは重要かもしれないが、そこで先見的投資アイデアを見い出せればよいが、そうでないとすれば、トレンドとして重要かもしれないが、自らの投資スタイルには合わないとみている。
・投資の極意が、簡単に身に付くはずはない。5年、10年はかかろう。マーケットの紆余曲折を一通り経験しながら、独自の価値を見い出し、人より少し早く動くことを体得していく。こうすれば、マーケットに惑わされにくい投資家として、投資を楽しむことができよう。達人を目指して、前進したいものである。