増大するインバウンドと生産性の向上策
2015.03.30 (月) 2:45 PM
・海外から日本に来る観光客(インバウンド)が急ピッチで増えている。LCC(ローコストキャリア)のエアラインがそれを担っている。一方で、宿泊施設が足らなくなりそうである。バスも足らない状況にある。観光地と季節にもよるが、増大するサービス需要にどのように対応するか。そもそもサービス需要は変動する。万が一日本と相手国の関係が悪化すれば、その国からの訪日客がパタッと止まってしまうかもしれない。かといって、心配ばかりしていては、ビジネスチャンスを逃してしまう。
・アジアの富裕層は増えている。中国、韓国、インドネシア、フィリピン、ベトナムなど、できるだけ一カ国からだけに集中しない工夫が必要である。それぞれの国の有力民間資本と連携することも有効であろう。
・リゾートトラスト(コード4681、時価総額3257億円)の伊藤勝康社長は、壮大な絵を描く。インバウンドの数は2014年1341万人(前年1036万人)であったが、2020年目標の2000万人や2030年目標の3000万人は少なすぎるという。欧州の例を見ても、観光立国ならば1億人くらいが来訪しても当然であると強調する。それに値する観光資源と観光価値は十分有しているとみている。
・現在、日本のホテルや飲食業などサービス業の労働生産性をみると、米国の50%水準に留まっている。製造業に比べてサービス業の生産性が低いといわれて久しいが、デフレ下の価格競争もあって、付加価値の向上が実現できていない。今後、外国人観光客に対しても価値の安売り競争をするのだろうか。外国人はジャパンテイストを求めている。とすれば、日本製のよい商品やよいサービスを適正な価格、すなわち価値に見合った価格で提供することが大事である。そのための仕組み革新が、企業に求められている。
・2014年の実績で、海外から来る観光客の1人当たり平均旅行消費額は15.1万円、インバウンドの消費総額は2兆円(1341万人×15.1万円)であった。ベトナム23.8万円、中国23.2万円など、1人当たり旅行消費額が20万円を超えている国もある。これが1億人になり、1人当たり消費が20万円~30万円となれば、消費規模は20兆円~30兆円となる。
・本当に1億人も来るであろうか。来たいと思っても、受け入れるキャパシティがなければ到底実現しない。当然、そのためのインフラ作りが必要になってくる。地方における魅力のアピール、受け入れ体制の整備、リピート客の確保など、観光業としての基本をしっかり身につける必要がある。
・大阪のホテルは稼働率90%以上で予約がなかなか取れない。東京も80%以上で難しくなっている。需給を反映して価格も上がっている。これが人気のある地方の観光地にも波及していこう。宿泊施設の拡張は喫緊のテーマで、この分野の設備投資は拡大していこう。それでも需要に追いつけないかもしれない。新しい施設には従来とは違った生産性の向上策を導入する必要がある。
・エイチ・アイ・エス(H.I.S. コード9603、時価総額2857億円)は、再建に成功したハウステンボスで、新たなスマートホテルを建設している。「変なホテル」という名称である。人件費は従来の4分の1、光熱費も同じく4分の1、フロントの受付はロボット、ベルボーイもロボットで、ロボットが荷物を部屋まで運んでくれるという。料金はオークションで決まる。上限と下限を決めておいて、泊まりたい人が自ら料金を決める。どうしても泊まりたければ、高い料金を払えばよい。従来のサービス業は需要を考えて、供給サイドが価格を決めていたが、需要サイドが自ら価格を決めるという発想である。世界一生産性の高いホテルを作ろうとしており、今年7月にオープンする。全く新しいモデルとなろう。
・ドンキホーテホールディングス(コード7532、時価総額7553億円)の店舗には、インバウンド訪日客の50%が来店しているという。お土産を買うならドンキへ、というパターンになっている。しかも、夕食が終わった後の夜、夜中の方がすごく混む。確かに買い物をするには便利な時間帯である。そのドンキでは、羽田や成田に店舗を作ることを計画している。空港に店舗があれば買い物ができるので、観光客にとって便利である。ところが、その意味が違う。品物は都心の免税店で思いっきり買ってもらう。しかし、大量に買うと旅行中の持ち運びが大変である。そこで、帰る時に空港の店でまとめて渡す、という方式をとるために空港に店舗を作る。これなら、客はますます大量にお土産を買うことができる。こうした新しい仕組み作りが面白い。
・中国語の先生の話を聞いた。3人姉妹で、中国と韓国と日本に住んでいる。中国の母親に3人が電気炊飯器をそれぞれプレゼントした。中国製はなかなか厳しい。韓国製も今一つである。日本製は抜群であった。ただ中国は大家族で集まることも多いので、大きなもの(例えば2升炊き)がほしいという。家庭用で1升炊き以上の炊飯器は、日本ではニーズがあまりない。中国に合ったものを日本でも作る必要があろう。
・インバウンドで日本の内需は活性化する。地方も潤うことになろう。しかし、ブームは局面によってバースト(急落)しかねない、その時へ備えながらも、新規需要の取り込みに挑戦する企業のイノベーションに注目したい。