半導体の行方
2024.12.16 (月) 10:10 AM
・12月にセミコン・ジャパンの展示会を見学した。ラピダスへの期待は大きい。2ナノへの微細化と共に、チップを組み合わせるチップレット、3次元への積層化も進展しよう。前工程に加えて、後工程のイノベーションも注目されており、ここを担う半導体関連企業の出番は高まってこよう。
・メモリーのDRAMで一時世界のトップであった日本のエレクトロニクス企業は、日米半導体摩擦で守勢に立たされ、その後の開発競争で後れをとった。ロジックのCPUではもともと強くなかった。
・インターネット、スマホ、データセンター、AIへと続く大発展の中で、主力の半導体とその製品サービス化では、競争優位のモデルを創れなかった。その一方で、半導体材料や半導体製造装置関連では、世界トップクラスの日本企業が数多く輝いている。
・これからの半導体産業はどうなるのか。これまでの分業で一定の秩序は出来上がっているようにみえるが、国別、企業別にみると、イノベーションへの取り組み、その中での競争優位・劣位の展開によって、栄枯盛衰を辿っていこう。
・米国では、グーグル、アマゾン、メタ、マイクロソフトに続いて、GPU(画像処理半導体)のエヌビディア、生成AIのオープンAIなど、新しい企業が巨大企業へ成長しながら、経済・産業・株式市場をリードしている。
・半導体がなければ、今やどの産業も成り立たない。コアパーツは自国で調達したい。それだけの基盤を整えなければ、産業の競争力はもちろん、国の安全保障すら危うい。
・半導体を製品別にみても、日本企業の存在感は薄い。センサーでソニーが世界No.1、NANDでキオクシアが世界3位、マイコンでルネサスが世界3位、パワー半導体で三菱電機や富士電機が上位にいるというレベルで、DRAM、ファブレス、ファンドリーには存在感がない。
・台湾の半導体企業が受託生産という形の中で、大きな存在となったが、台湾に対する中国の姿勢、それを踏まえた米中対立の構図は、中期的にみてリスクが高い。中国は武力を用いてでも、自国の実質的領土にするとして、その機会を狙っている。
・台湾紛争は一瞬にして、中国の勝利となるのか。米国がアジアの同盟国を交えて、本格的に台湾を支援するのか。そうなれば、台湾有事に日本も巻き込まれる。半導体の供給拠点の確保という点で、地域分散が問われる。
・自国に一定の生産力を確保していかないと、いざという時にどうしようもない。このリスクマネジメントをどのように実践するか。安全保障というだけでは、産業としての競争優位は保てない。競争力のない産業、企業が長生きするはずもない。
・半導体はどこにでも使われる。最先端の需要もあれば、汎用な用途も広がっている。AIなどの新しい分野を中心に、市場は今後とも大きく伸びよう。まさに、成長産業である。
・半導体(IC)の設計と製造で分担が分かれる。製造でもICの前工程、後行程でさらに分かれる。かつては、1社が設計と製造を担ってきたが、自社は設計に特化して、製造はファンドリー(受託生産)企業に、という分担が主流になった。このファンドリーで台湾企業が世界をリードしてきた。
・日本の半導体企業は、かつてDRAM(メモリー)分野で一世を風靡したが、量産、最先端、大型投資の先行という点で、マネジメントの意思決定がついていけなかった。好不況の中で、相対的な遅れをとり、それが引き金となって、競争劣位が表面化、この分野は産業として衰退した。
・半導体材料では、今でも輝いている企業は多い。市場は世界にあり、半導体製造装置、前工程(回路を書き込む)、後行程(パッケージとして組み立てる)の機器や部材で独自の競争力を発揮している。
・シンボリックには、JASM(熊本)とラピダス(千歳)が注目を浴びている。TSMCの熊本工場であるJASMは、IC回路の線幅が22~28ナノの製品を製造しようとしている。線幅が集積度の重要指標で、先端性を示す。22~28ナノというのは、iPhone5のレベルで13~14年前の技術である。
・なぜ、中級品の工場なのか。当然、需要があるから生産するわけである。自動車でよく使う電子部品に合っている。カメラ用のセンサーを制御するロジックICに必要である。カメラ用のC-MOSセンサーではソニーが世界のトップである。そのソニーの工場も九州にある。
・つまり、TSMCにとっては、受託生産(ファンドリー)であるから、一定の需要があるところで、生産することは極めて合理的である。投資は大型でも、すでに手慣れた分野であり、リスクは少ない。日本のユーザーにすれば、国内立地の工場から、安定供給してもらえるなら、これも好都合である。供給不安が最大のリスクだからである。
・TSMCは、3~5ナノの先端工場をアリゾナに作る。ここでは、AIや軍需用途を狙う。これも理にかなった判断であろう。
・千歳のラピダスでは、2ナノの最先端工場を、日本企業独自で作る。最先端のICは必ず必要である。いずれ市場は爆発しよう。サムソンやTSMCも当然狙っている。彼らは製造技術という点ですでに手慣れている。
・日本は、これまでの技術、人材、資金を集めて、いきなり参入する。技術はIBMから導入する。前工程の製造装置は新しい領域のものとなる。これまでICを作っていないので、会社としての製造ノウハウはない。理屈は十分わかっていても、不安はあろう。
・大いなる挑戦である。将来、この先端分野は必ず必要となるので、市場はみえている。しかし、それをグローバルに競争の中で、スピーディに立ち上げられるか。2~3年の勝負である。そのための投資に10兆円単位の資金が必要である。
・TSMCやサムソンはすでにICの収益源を有しているが、ラピダスは新興企業である。10兆円単位のファイナンスを速やかに実行して、その後の立ち上げ期の大幅赤字にも耐えていく必要がある。巨大企業の勃興を官民あげて支援していく。成功するまで追加投入する覚悟が問われる。
・プロにとっては、サプライチェーンは見えていよう。工場を作って製品を作る技術も分かっていよう。カギは、これをバリューチェーンととらえて、どこで付加価値を作り出していくか。その価値をいかに高めて、シェアしていくか。ラピダスには何としても価値創造企業として成功してほしい。
・若林秀樹教授(東京理科大学)は、「日本の半導体産業復権シナリオ」(月刊資本市場2024年8月号の論文)で、重要な論点を指摘している。そのうちのいくつかを取り上げてみたい。
・80年代に輝いていた日本の半導体デバイス産業は、その後大きく凋落したが、ファブレス/ファンドリー型のロジック分野が大きく成長する中で、このビジネスモデルについていけなかった。
・しかし、チャンスはあるという。1)米中対立の中でサプライチェーンが変化し、2)集積度をナノで争うのではなく、3次元の積層化で実現していく、3)大型投資の限界もある中で、ビジネスモデルの変革が進む。
・積層化によるチップレットは、前工程よりは後行程が相対的に重要になり、チップレットに関するパッケージングでは、日本企業が優位である。
・大型投資を含むビジネスモデルの変革では、ファイナンス、テクノロジー、プロフェショナル人材、パートナー戦略など、マネジメントスタイルをグローバルに通用するレベルに仕上げることである。日本企業ではあるが、グローバルな仕組みに、ヒト、技術、カネが寄ってくる仕組みにしてほしい。
・チップレット化が進む中で、世界に飛躍する日本の関連企業は数多い。まずは、そうした企業に注目しながら、日本に拠点を置く半導体企業の成長戦略の行方に注目したい。