三越伊勢丹ホールディングスのトランスフォーメーション~百貨店市場縮小の中で
2016.04.10 (日) 12:23 PM
・個人的には、日本橋の三越をよく利用しているが、新宿三丁目の伊勢丹にはあまりなじみがなかった。3月の個人投資家説明会で、大西洋社長の話を聴いて、早速二人で出かけてみた。若い、ファッショナブルでセンスを感じる。いつもここに来ようと会話が弾んだ。
・百貨店業界の市場は縮小している。業界の年間売上高は1991年の9.7兆円をピークに、2015年は6.2兆円まで減少した。これは1980年頃の規模である。全国の店舗数も99年の311店から238店にまで、継続的に減っている。
・2000年以降、百貨店の再編が続き、そごう・西武百貨店はセブン&アイの傘下へ、松坂屋・大丸はJ・フロントリテイリングへ、阪神・阪急百貨店はエイチ・ツー・オーリテイリングへ、そして三越伊勢丹ホールディングスが誕生した。
・全国の百貨店の店舗(238店)は、その7~8割が赤字とみられる。普通の百貨店では儲からなくなっている。それでも地方のオーナーは不動産事業で百貨店の赤字をカバーしている。その地域の顔でもあるので、赤字だからといって簡単に止められない。百貨店が亡くなると、地域がもっと衰退してしまうかもしれない。しかし、赤字事業をずっと続けるわけにもいかない。いずれ閉店に追い込まれるかもしれない。その時期が次々とやってこよう。
・三越は340年の伝統を有する。伊勢丹も130年を迎えた。上得意客の「お帳場」に代表されるように、お客と向かい合う三越と、他社に真似できないファッション提案力を磨いてきた伊勢丹が、2008年に経営統合した。その後、業績は順調に向上し、2016年3月期は売上高1.31兆円、営業利益370億円を見込んでいる。
・現在進行中の3カ年計画では、2019年3月期に営業利益500億円、ROEで5.5~6.0%を目指している。引き続き収益力の向上が課題で、自社所有のビル(不動産)に対して、百貨店の利益が十分でなく、ここをどう高めていくかが問われている。
・2014年度の売上構成をみると、国内百貨店83%、海外百貨店7%、小売専門店4%、不動産3%、金融3%と、百貨店のウエイトが圧倒的に高い。そのうち、伊勢丹新宿本店は年間売上高2584億円、年間入店客数2500万人(入店客数当たり売上高1.0万円/人)、1店当たりの売上高は世界で№1である。
・一方、三越日本橋本店は、年間売上高1655億円、年間入店客数1400万人(同1.2万円/人)である。また、三越銀座店は、同744億円、同2000万人(同0.4万円/人)である。
・伊勢丹新宿はファッションミュージアムとしてのリモデルを実行し、成果を上げている。三越日本橋は、2016年~2017年度で大規模なリニューアルに挑戦し、新たなカルチャーリゾートを目指す。三越銀座は市中免税店をこの1月にオープンして、外国人向けグローバルストアとして売上高の大幅アップを狙っている。
・大型百貨店ではない中小型の専門店については、現在の101店を2018年度に180店へ、将来は200~300店への拡大しようとしている。地域密着型、化粧品特化型、空港ターミナル型、セレクトストア型など、特色を出していく。
・サプライチェーンでは、卸機能を減らして、企画・開発などモノ作りへの関与度を高め、SPA(製造小売業)型へシフトしていく。婦人靴のナンバートゥウェンティワン、日本の衣食住の価値を提供するジャパンセンスィズ、デジタル試着室など、工夫を一段と凝らしていく。
・大西社長(60歳)は、売上高の9割を占める百貨店の一本足打法から、将来は、百貨店以外の売上比率を4割に高めたいと考えている。2020年に向けて9:1を6:4へ、新規分野の拡大を志向している。ブライダル事業、レストラン・カフェ事業など周辺多角化にもさらに力を入れていく方針だ。
・当社のEコマースはまだ売上高の1%で、世の中の10%からみて低い。海外もかつてはアジアの成長にのったが、現状では苦しい面もある。事業構造の転換(トランスフォーメーション)にはやるべきことが多いといえよう。
・それを担う人材に対しては、販売員(スタイリスト)が十分接客できるように、営業時間を短縮したり、定休日を増やしたりしている。優秀なスタイリストを全国的に表彰するエバーグリーン制度も充実させている。若手を登用する仕組みの活用も実践している。
・大西社長は東京マラソンを4年連続で完走した。自ら走り続けることの証でもある。これまで個人投資家説明会はほとんど行ってこなかったというが、今回300人を前にした説明会は、社長の個性が発揮されて、有意義であった。何を訴えていくか。さらに改善の余地はあるが、これからも継続的に力を入れてほしい。三越伊勢丹ホールディングスのトランスフォーメーションに注目したい。