プロの経営者の経営改革~外から乗り込んで
2018.12.26 (水) 11:00 AM
・11月の世界経営者会議で、資生堂の魚谷社長とパナソニックコネクテッドソリューションズの樋口社長のプレゼンと対談を聴いた。外から伝統ある会社に乗り込んで、どのように経営改革を進めるのか。やはり興味深い。
・魚谷氏はライオンに入社し、留学した後、24年間コカコーラで働き、ブランド作りとマーケティングの腕を磨いてきた。この間、コカコーラのトップは、キューバ人、アメリカ人、オーストラリア人、ザンビア人、トルコ人へとバトンタッチした。実に多様である。
・日本企業はマーケティングが強くない。そこで、コンサル会社を作り、資生堂の相談にのっていたら、社長をやってくれという話になった。資生堂のコーポレートガバナンスがしっかりしていたので指名された。外部からの社長は、資生堂140年の歴史で初めてであった。
・日本ではプロの経営者は嫌われる傾向にある。それでも4年半走ってきて過去最高の業績を上げている。まずはどうしたのか。国内の現場に行って、多くのビューティコンサルタントに会い、課題を聴いて回った。
・その時、プレステージのサンプルが現場で足らないという話があった。サンプルをどうするかは、本社が決めるので、現場の声が反映されてこない。そこで、現場で予算をコントロールできるように即決した。
・小さな出来事から経営課題がみえてくる。中央集権のヒエラルキーだと、現場の声が上がってこない。顧客とのタッチポイントがビジネスの要であるから、分権化(エンパワー)する仕組みに変えていった。
・パナソニックで、B to Bの企業向けシステムを担うカンパニーのトップについた樋口氏は、もともと新卒でパナソニックに入社した。留学後に辞めて、ボストンコンサルティング、アップル、ヒューレットパッカード、ダイエー、マイクロソフトと渡り歩いた。そして、25年ぶりにパナソニックに戻った。
・戻ってみると、内向きの仕事が多いことに驚いた。業務報告である週報を書くことに、みんなが一生懸命になっていた。やめるように指示したが、すぐには止まらなかった。習性ともなっている同質カルチャーを崩す必要があった。
・顧客第一に回帰して、顧客の力をかりることにした。筋肉の落ちていない人を外部から入れることにした。そのためもあって、カンパニーの本社を東京に移して、フリーアドレスや服装の自由化も取り入れた。
・組織の縦割りの壁が邪魔になっていたので、それを取り払うようにした。書くよりもしゃべるようにした。コミュニケーションは格段によくなったという。
・魚谷氏は、資生堂のグローバルブランドを圧倒的に強くする必要があると判断して、すぐにブランドマネージャー100人を採用した。仕事のやり方を変えるように、書類を半分に減らせと指示した。とにかく生産性が落ちていると感じた。
・日本は“一丸となって”が好きである。この共感に火をつけることが大事で、そうすると縦割りを超えることができる。わくわく大作戦と称して、トライ&エラーを認めるようにした。TET目標をかかげさせるようにして、トライしてエラーとなっても次のトライがあるようにした。エモーションに訴えている。
・外部から人(経営のプロ)が入ってくると、社内はお手並み拝見となる。樋口氏の場合、ダイエーに入った時は、プロが言っても現場は言うことをきかなかった。苦しみを共有していないので信じられない、腹落ちしないので動かない、となる。
・ヒトとしてアクセプトされないと、言うことをきいてくれない。そこで、とにかく好感度アップに力を入れた。
・一方で、全社一丸はいいけれども、日本はそれをいいすぎるきらいがあると指摘する。個の力を引き出して、誰が責任を持つかをはっきりさせないと、単なるもたれ合いになってしまうからである。
・魚谷氏は、生産性というと効率化に目がいくが、もっと重要な付加価値の向上に取り組むべきであると強調する。アイデアを出して、イノベーションをもたらすことが重要である。
・アジャイルと共に、コミットメントがカギである。ヒエルキラーが壁となって、上司が動かないのでは話にならない。上司のために書類を書いているようでは問題外とみる。
・社長になった時に、マーケティング投資を1000億円増やすと宣言した。利益が減っても必ずやると約束した。言ったことを実行し、実現しないと人はついてこない。
・昔ながらの同じ釜の飯ではなく、遠くを見てダイレクションを与えることが重要である。そこに社員の共感を得て、巻き込んでいく仕組みを作っていく。巻き込むには、あなたの意見を聴きたいという姿勢が何よりも大切であると述べた。
・世界の景色をみると、技術の競争ではなく、ビジネスモデルの競争になっていると、樋口氏は強調する。今、このビジネスモデルを新しいステージにもっていく戦略が問われている。
・企業の再生には、投資家との対話以上に、社員との対話を重ね、その内在力を活かしていくことが重要となる。投資家としては、会社におけるトップマネジメントと社員による対話のコンテンツ(中味)を知りたい。そこに価値共創の本質があろう。