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コーポレートガバナンス改革で業績は上がるか

   2017.02.02 (木) 8:22 PM

・12月に金融庁の田原企業開示課長の話を聴いた。コーポレートガバナンス改革のフォローアップ会議の内容について、論点を整理した内容であった。「ガバナンス改革が効くなら、業績は上がるべし」という命題に対して、どのように考えていくか。筆者が注目する点について、いくつか取り上げてみたい。

・PBR=ROE×PER、これは1つの関係式であるが、その意味は重要である。今の株価がフェアであるとは限らないが、現時点におけるマーケットの評価である。PBRとは、純資産の何倍に株価がついているかを示すので、財務的なバランスシートに載らないその会社の無形資産を示したものである。人的資産、知的資産、組織資産、関係資産など、通常のB/Sでは測れない資産価値を反映する。

・これが、①そもそも陳腐化しているか、②十分創られていないか、③創られていても活用されていないか、あるいは④投資家に分かってもらっていない時、PBRは1を割る低い水準となる。即ち、企業価値創造のビジネスモデル(BM)が不十分であり、BMの再構築が問われているといえよう。

・逆に、無形資産(非財務情報)の価値が高まるほど、PBRは2倍、3倍、4倍と上がっていく。その推進にコーポレートガバナンス(CG)がどのように効いているかが問われる。

・ROEを上げるには、ROS(売上高純利益率)を向上させることが第一義的である。そのためには、BMの差別化とともに、事業ポートフォリオの見直しも求められる。それを実行する経営力という点では、トップマネジメントの意思が要である。営業利益率10%が当たり前と考えるか、5%で十分と考えるかによって、経営行動が全く変わってしまう。

・日本電産は10%を通常の水準(実質的な採算ライン)とするが、従来の日本型製造業は自社だけで大儲けはできないと、5%をメルクマークにしてきた節がある。これは世界からみると、いかにも低い。安くていいものを売って何が悪いのか、という考え方が強かった。それで売上を伸ばそうとした。しかし、それでは世界で戦えない。

・CGはこの企業ビヘイビアをチェックし、あるべき方向に修正する必要がある。つまり、もっと高付加価値を目指す必要がある。

・PERは、今の利益の何倍まで株価は織り込んでいるのか、という指標である。利益の成長をみている。成長ポテンシャルを評価するには、勝負するマーケットの伸びと、そこでの競争優位が問われる。

・ここでも本当に伸びるマーケットを狙っているか、そのためのBMは万全か、についてCGを機能させる必要がある。

・つまり、攻めのCGを発揮するための助言と監督について、突っ込みが必須である。①マネジメントの能力は十分か、②社外取締役はその資質を備えているか、そして③十分機能しているか、を見定める必要があろう。

・これらの視点を踏まえて、企業のCGは1)形だけのコンプライになっていないか、2)対話は建設的に行われているのか、3)取締役会は企業価値創造に機能しているか、を問う必要があろう。

・その場合、CGと企業の財務的パフォーマンスをいきなり結びつけようとしても無理がある。財務パフォーマンスはCGの一次関数ではないので、そのプロセスや構造を解明して、課題とする仕組みの改善に寄与する方策とそのアウトカム(結果)をみていくことが求められる。これは、無形資産の新たな構築である場合が多い。

・この点は、社外取締役が1人か2人か3人かということより重要である。取締役会への出席率より重要である。また、取締役会の評価にあたって社外の第三者機関を活用するかどうかも、まずは自ら取締役会の仕組みや運営を自己点検してから、次のステップとして検討すべきであろう。

・政策保有株についても、その意義やパフォーマンスを検証し、今後の対応について明解にエクスプレインできるかどうかを再考してほしい。その上で、企業価値向上へのアウトカム(結果)を示せるなら何ら問題はない。

・中長期の企業価値向上を反映した報酬制度も明示してほしい。今の報酬総額を増やしてかまわない。価値向上に見合って株式報酬を増やすという方式が望ましい。一方で、中長期の企業価値をどうやって測るかもよく議論して、自ら定める必要があり、それを株主総会で説明する必要があろう。

 ・CGは、上場企業だけの問題ではない。アセットオーナー(AO)や、アセットマネジメント会社(AM)、監査法人のガバナンスも、利益相反やフィデューシャリー・デューティ(忠実義務)に基づいて見直す必要があり、それを開示するべきである。それを強化する方向に政策は動いている。

・企業のフェアディスクロージャーについても、新しいルールを作るべく動こうとしている。インサイダー情報の範囲は今までよりも広がることになろうが、企業のIR活動に支障が出て、十分な対話ができないようでは困る。

・ここ数年のCG改革は画期的であり前進している。これが財務パフォーマンスの向上に結びついてくるには、形だけではない実質を伴った改革の実践が求められる。これが進み始めた。CGを組織資産として作り上げ、そのアウトカムを納得できる形で示してほしい。

・その次のステップとして、1)それが財務パフォーマンスに結びついてくればROEが上がり、2)非財務資産のアウトカムを反映してPBRが上がり、3)利益の持続的成長を織り込んでPERも上昇してこよう。目先の業績から株価パフォーマンスばかりを求めるのではなく、中長期的な企業価値創造とその評価にまさに全力投入してほしいと願う。

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