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ガバナンスと収益力~本当に機能するのか

   2016.02.07 (日) 5:00 PM

・コーポレートガバナンスがしっかりしてくると、日本企業の収益力は向上するのか。この問いに改めてどう答えるか。1月に日本証券アナリスト協会で、「コーポレートガバナンスと日本企業の収益力向上」というセミナーが開かれ、3人の識者が意見を述べた。

・その問題意識を筆者なりに捉えると、1)経営者は安定株主に頼っており、本物の経営革新に取り組まないのではないか、2)機関投資家は本当に対話をして会社の価値向上を共有したいと思っているのか、3)安定株主に頼らない本当の経営を追求する力はどのように身につけるのか、というテーマになろう。

・企業年金連合会の濱口大輔CIO(運用執行理事)は、株式の持ち合い比率が高いマーケットでは、経営者が安定株式を選んでいるので、株式(エクイティ)によるガバナンスの向上といっても、実質的には機能しにくく、空洞化している可能性がある。これを解消しない限り、コーポレートガバナンスが収益力の向上に結びつかないのではないかと指摘する。

・データをみると、株式の持ち合い比率は下がっているが、まだまだ高い。その実態をよく見る必要があり、機関投資家と安定株主は利益相反することにもなりかねず、それではいかに対話をしても、機関投資家の意見が真剣に受け止められないと警鐘を鳴らす。

・株主によるコーポレートガバナンスの確立を目指すのであれば、1)安定株主を減らす、2)年金を扱う株主が本当に独立した投資家として行動できるようにする、3)大株主の開示をさらに充実する、ということが必要であると強調した。

・株式の持ち合いは減少する方向にある。しかし、経営者はよくわからない第三者に経営権を左右されたいとは思わないので、どうしても防衛的になる。また、ビジネス上、株式を相互に持ち合うことで事業運営が上手くいくこともある。株主としてのパートナー意識が高まるからである。

・何よりも、持ち合いの意義を投資家に説明し、資本効率としてのパフォーマンスをきちんとみせる必要がある。説明できないなら、やめるべきである。数年の時間を要するとしても、意味のある安定株主と意味のない持ち合いを区別していく必要があろう。すでにその動きは始まっている。

・起業投資(株)の代表取締役である山本功氏は、機関投資家は本当に対話をしたいのだろうか、と問題提起した。機関投資家はポートフォリオの運用を本業としているので、個々の企業の投資価値は知りたいが、経営に関与するレベルまで建設的な対話をしたいとは必ずしも思っていないのではないか、と指摘する。

・米国のアクティビストは、経営改革のカタリスト(触媒)となるような提案(戦略、オペレーション、財務、トップマネジメント、インセンティブ、取締役の選任)を行って、会社を変えようとする。そのために、持株比率を意味のある一定水準まで高めたりする。

・経営にもの申すアクティビストをポジティブに受け止めるか、ネガティブに受け止めるか。経営者にとってうるさい存在かもしれないが、株主にとっても本当に企業価値の向上に資するかどうかを見極める必要がある。

・投資家は多様でよい。機関投資家もそれぞれの持ち味があってよい。しかし、投資対象が企業である場合、その企業の価値向上にフォーカスして、納得できるところまで会社と対話するという姿勢はぜひとも貫いてほしい。短期のモメンタムで勝負するファンドであっても、そのモメンタムを生み出す企業の中身について一家言あってしかるべきであろう。

・オムロンの安藤聡常務は、オムロンの安定株主は極めて少ないと強調した。48%が海外機関投資家、20%が国内機関投資家、14%が個人投資家である。よって、常に経営の自立と他立のバランスをとって、価値創造に邁進する。

・1)企業理念で長期的な経営の視点を鍛え、2)社内外への透明性を保つためにガバナンスの実効性を高め、3)自発的な情報開示でエンゲージメント(対話)を実践していく。オムロンには社長指名諮問委員会があり、現在の社長が自ら後任を選ぶということはできない。常に外部の社外取締役の目を通して選任される仕組みを持っている。

・中長期の企業価値向上を目指しつつも、今般のような世界経済金融の変調の中で、オムロンは業績の大幅下方修正を余儀なくされ、株価はかなり下がっている。この1年の局面でみれば、株価パフォーマンスはかなり割り負けている。オムロンの組み入れをどうすればよかったかと再考している投資家もいると思う。

・価値創造のビジネスモデルが崩れたのであれば、それは目利き力がなかったといえよう。当面のマーケットの中で業績下方修正を読んでいなかったとすれば、それも不十分である。その上で、中長期のポートフォリオにオムロンをどう位置付けるかが問われる。そのためにも対話を続けていく必要がある。

・対話を続けると会社の価値創造の仕組みがよりよくわかってくる。そこから投資チャンスも生まれてくる。短期の変動に一喜一憂しない自信も生まれてくる。企業価値を創るのは会社であり、社長である。何といっても経営者のリーダーシップが一番である。社外取締役の活躍で、会社が突然儲かるようになるわけではない。

・しかし、企業のサステナビリティ(持続性)を支えるコーポレートガバナンスがしっかりしていなくては、トップマネジメントの経営力にも信頼が置けない。もう一度、ガバナンスとは企業価値創造の4つの仕組みの大事な1軸であるという認識を深めたい。念の為にいえば、4つの軸とは、①経営者のマネジメント力、②成長のためのイノベーション、③持続性を支えるESG、④業績変動のリスクマネジメントである。

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