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アナリストの情報価値はいかに~ビジネスモデル再構築に向けて

   2017.02.12 (日) 8:42 AM

・アナリストの存在価値が問われている。投資に役立つ早耳情報が禁止された中で、どのような価値を提供すべきなのか。そもそも早耳情報で勝負することに無理があったのだが、そこにビジネスのネタがあるということで群がったふしがある。

・アナリストは企業を分析して、将来を予測する。分析は論理的である必要があり、中長期のシナリオを描き、シミュレーションを行う。これには手間がかかり、力量も問われる。それよりは目先の数字を、人より早く聞いてくる方が簡単で、とりあえずニュース性はある。

・1年の業績予想は会社側が出してくるので、それより上になりそうだ、下になりそうだとコメントするだけで、投資のヒントになった。短期情報でマーケットを泳ぐ投資家にはいいかもしれないが、もう少し長く落ち着いて投資したい人々にとっては役に立たない。そこが問題となった。

・企業も足元の動きばかり取材され、コメントを出され、それで株価が上下していては短期指向になりかねない。もともと企業経営は中長期を見据えて手を打っていく。目先はマイナスになっても、先への布石が必要な時も多い。打った手がはずれ、十分でなかったら逐次修正していく。

・本来投資家は中長期の視点で企業をみていくので、アナリストも中長期投資に役立つ深い分析・予測レポートを出していくのが本業である。この基本動作が疎かになっていたため、その再構築が求められている。

・ところが、中長期重視のベーシックレポートをしっかり書くということは、アナリスト1人ではできない。経験が十分でない若手にとっては、それを指導する人が必要である。ベテランでも、しばらくそういう分析をやっていないと、筆力は落ちているかもしれない。

・もっと重要なことがある。経営の仕組み(ビジネスモデル)がそれをサポートするようになっていないと、組織目標と違った行動を1人のアナリストがとることは難しい。セルサイドアナリストのビジネスモデルとは何か。それは深い分析レポートを書き、情報を発信し、機関投資家と面談して、投資に役立つ価値を提供し、満足してもらうことである。そのためには、企業経営者とも大いに議論して、一目置かれる必要がある。

・機関投資家が深い分析のベーシックレポートを評価しなければ、そういうレポートは発行されない。ニーズのないところにビジネスは生まれないからである。年金や投資信託の顧客は中長期投資を望んでいるはずである。年金のアセットオーナーが運用機関に中長期投資を強く求めれば、アセットマネジャーもその姿勢を強めてくる。よって、証券会社のリサーチ(セルサイド)にも、中長期のベシックニーズは高まってくる。

・これまでは、ポートフォリオの構築や見直しに伴って、株式を売買する注文が、証券会社にとってビジネスのネタであった。このオーダーのフィー(手数料)には、ベストエグゼキューション(よい価格での執行)とアナリストの提供する価値ある情報に対する対価がまとめて入っていた。アセットマネジャーはブローカー評価を通して、特定の証券会社への発注量を、アナリスト情報の価値を勘案して決めていた。

・オーダーに伴うこの情報価値と最良執行と分けて明示化すべし、という動きが欧州で始まっている。ベストエグゼーションとアナリスト情報を分けて(アンバンドリングして)、ビジネスを遂行しようという動きである。

・そうなると、アナリスト情報の価値を何らかの形で測って、それをプライシング(価格付け)して取引することが求められる。さて、アナリストレポートはいくらの価値があるのだろうか。

・簡単な試算してみる。アナリスト1人のコスト(本人の報酬だけでない)を2000万円とする。1人が20社をカバーいていると、1社100万円である。そのレポートを機関投資家20社に売るとすると、レポート1社の年間コストは5万円となる。粗利益率50%でこれを販売すると、機関投資家には1社10万円となる。

・機関投資家は200~300社の会社情報をほしいとすると、2000~3000万円の情報費用となる。1社から購入するだけでは不十分で、最低でもセルサイド3社から必要であろう。そうすると、6000~9000万円のコストがかかる。

・これはコストから逆算したものであるが、アナリストのレポート(面談を含めて)にそれだけの価値があるだろうか。短期のファクト情報では勝負できない。やはり中長期の深い分析・予測レポートが必須であろう。それにはそれなりのコストがかかる。

・それに値するアナリストレポートを、この3年で業界スタンダードにしていくことが求められる。3年あればできる。その時、インベストメントチェーンに参加するアセットオーナー、アセットマネジャーがセルサイドアナリストの役割を認識し、評価してほしい。

・証券会社のマネジメントは、一流のアナリストを育て、揃えるための人材教育、人材マネジメントを、R&D投資という視点を強くもって実行してほしい。新たなヒューマンキャピタルへの投資である。投資なくして、目先の収支に捉われるだけでは、人材は育たない。それでは、いずれアナリスト不要論が現実となろう。アナリストは企業の価値創造を支援し、証券ビジネスの根幹を支える一つの大黒柱である。大いなる挑戦に期待したい。

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