アセットビルディングに向けて
2024.02.05 (月) 8:32 AM
・カーボンニュートラル(CN)を目指すには、新しい技術開発とその設備やシステムを動かすための投資が必要である。これが有力な成長機会となる。社会的な善に貢献することで、自らも価値創造ができれば、これこそが最高のビジネスであろう。
・日本の貯蓄投資バランスをみると、政府は大幅な赤字であるが、民間は企業も家計も大幅な黒字である。貯蓄が投資に向けられ、それが成果を上げればリターンの分配が可能になる。企業が働く人々の報酬を上げれば家計は潤ってくる。
・もう1つのルートは、個人金融資産が現金預金から、株式、投資信託などのリスク資産に向かえば、そのリターンが直接個人(家計)に入ってくる。
・企業にとって投資機会はないのか。機械がないから、投資をせずに現預金を貯めているのか。投資にはリスクを伴う。リスクを回避して、ビジネスで勝負していないのか。そのような企業はいずれ衰退するので、早めに経営者を交替させる必要がある。
・個人は老後を心配し、お金を貯めるだけで使わなければ、経済はまわらない。貯めたお金がリターンを生むように投資すれば、それは好循環となって、国全体の成長にも寄与する。2100兆円の個人資産のリターンを年間+1.5%上げれば31.5兆円の金融所得が生まれる。名目GDP560兆円に対してのインパクトも大きい。
・こうした成長と分配の好循環を生むには、資産運用セクターの抜本改革が必須であるとの認識のもと、政府の政策が動いている、どうやって個人の預貯金と金融資産の投資にまわすのか。損をしたら身も蓋もない。そう思えば大きな動きにはならない。
・デフレからインフレに向かうと、預貯金の価値は目減りしていく。2つの課題がある。1つは、企業がしっかり儲けてくれるか。そうならが投資したくなる。もう1つは、金融機関が本当に信頼できるか。顧客本位の経営を実践し、親身に相談にのって、商品・サービスを提供してくれるなら、リターンに対して手数料(報酬)を支払うには当然である。
・では、日本を代表する5つの金融機関のトップはどう考えているのか。10月に日経のシンポジウムで講演とパネルディスカッションを聴いた。印象に残った点をいくつか取り上げてみたい。
・大和証券グループ本社の中田社長は、変化の条件が揃ってきたと強調した。1)バブル崩壊後のデフレがようやく終焉する、2)日本株の長期下方トレンドが変わるという認識が広まっている、3)顧客が望んでいる商品サービスを提供できるようになる、4)長期の運用に対するインセンティブが整ってきたからである。
・消費者物価はプラスに転じており、日銀のゼロ金利政策も変わりつつある。日経平均は4万円を目指すこともできそうである。企業業種が伸びること現実味が出てこよう。NISAやiDecoへの税制インセンティブが本格化する。
・三井住友フィナンシャルグループの太田社長(当時)は、円安とインフレが進行する中で、価格転嫁が進んでいる。企業業績は好調で、賃上げにも結び付いている。成長と分配が上手く回りそうである。世界景気はスローダウンするとしても腰は強い。日銀の金融政策も正常化してこよう。中小企業はどうか。サプライチェーンの中で、パートナー戦略が重要になっていると強調した。
・みずほフィナンシャルグループの木原社長は、金利がつく世界では経済が活性化してくる。運用商品の多様化も出てくると指摘した。グローバルサプライチェーンの中で、サステナビリティが問われている。インフレトレンドが続くのでマイナス金利は修正されよう。そのタイミングには注意を要するが、いずれ預貯金金利も動かすことになろうとみている。
・野村ホールディングスの奥田社長は、オールタナティブ商品はインフレに強いので、ここが多様性をもって広がってくるとみている。適切なプライシングを金利プラススプレッドできちんとみていく必要がある。日本でのオルタナのチャンスは大きいといえよう。
・三菱UFJフィナンシャルグループの亀澤社長は、欧米の金融緩和、日本の金融正常化はそのタイミングがポイントで、インフレの粘着性とその不連続性をよくみておく必要があると述べた。金利がついてくる中で、改めて金融機能の強化が求められている。
・資産運用アドバイスの高度化では、①リサーチ、②投資戦略、③商品戦略、④販売戦略の各エンジンを強化し、ウェルネスマネジメントのデジタルプラットフォーム作りに力を入れている、MUFJとモルガンスタンレーとの連携も効果的である。
・大和アセットマネジメントでは、オルタナティブ・ファンドとして、プライベート・クレジット・ファンドに投資する公募投信「ダイワ・ブラックストーン・プライベート・クレジット・ファンド」を国内で初めて提供している。
・また大和証券では、セキュリティトークン(ST)の販売で実績を上げている、ケネディクスの不動産を裏付けとして、公募不動産ST(ケネディクス・リアルティ・トークン)の募集でトップクラスである。STについては、不動産、再エネ、社債などに広がっていこう。
・SMBCグループでは、「幸せな成長:Fulfilled Growth」への貢献に向けて、資産形成を通じたマテリアリティ(重点課題)の解決に取り組む、1)環境(グリーンローン、SDGsボンド、移行金融)、2)DE&I、人権(人的資本経営推進、なでしこ推進向け融資)、3)貧困・格差(インパクトファンド、マイクロファイナンス)、4)少子高齢化(資産形成、資産継承)、5)日本の再成長(スタートアップ支援、ベンチャーデット、グロースファンド)などである。
・家計に対して、「Olive」を軸としたデジタルサービスで若年層、現役世代のエントリーバリア解消に力を入れている。SBIとの連携も効果を上げている。
・各社のPBRをみると、12月26日時点で、野村0.58倍、みずほ0.62倍、三井住友0.66倍、三菱UFJ0.78倍、大和0.90倍である。三井住友はROE6.7%、PER9.8倍、みずほはROE6.7%、PER9.3倍である。各社ともROR10% 、PER10%にもっていって、PBR1.0倍が達成できる。
・資産形成という軸からみた時に、それぞれ手を打っているが、収益性と成長性が十分でないとみられている。PBRが1.0倍を割っているということは、各社の新しいビジネスモデルが、それを構成する人的資産、組織資産などでまだ、リソース不足があるので、いかに戦略的に構築していくか。
・グローバルに戦う基盤という点との格差も大きい。流れはフォローである。いかに差異化、特化戦略で個性を発揮するか。類似のサービスの中の差別化戦略に期待したい。