アジアで成功する条件
2015.04.06 (月) 9:34 PM
・アジア経営者ビジネスサミット(アジア経営者連合会主催)で、いくつかの話を聴いた。その中で、アジアで成功する条件についてまとめてみた。一般論としては当たり前のような内容だが、多くの中堅サービス企業がアジアでビジネスを拡大しようとしている。その時に先行した日本企業のトップのアドバイスは参考になろう。
・H.I.S.の澤田会長は、日本の人口は1.2億人だが、アジアは38億人(世界70億人の54%)、その中で富裕層、中間層が伸びてくる。日本と比較できないくらいビジネスチャンスがあるという。しかし、注意すべきことが3つあると指摘する。1つは、法律を知ることである。規制や税制で思わぬ落とし穴に落ちることがある。2つは、文化や環境が違うことである。日本で正しいことがその国では正しいといえないことがある。3つは、インフラが全く違うので、その水準に注意すべきである。それでも、中小企業やベンチャー企業にも成功の確率が高まっている。IT、飲食サービス、不動産などで新しい動きがみられる。
・成功するには、5つの条件があると澤田会長は強調する。1つは、情報を十分収集することである。とりわけ、その国が日本のどの時代に当るのかをよく考えて検討すべきであるという。早すぎても上手くいかず、遅すぎては潰されてしまう。
・2つ目は、組むべきパートナーをよくよく選ぶことである。どんな人と組むかが成否を分ける。澤田会長によると、個人ではなく、必ず会社と組むようにすべしという。会社を見る時には、その会社が発展しているかどうかをまず見る。次に、その会社の社内に入って、現場が整理整頓されているかを見る。会社が清潔で、綺麗な会社は信頼できる可能性が高いと強調する。1つの経験則として興味深い。
・3つ目は、まずはチャレンジすることである。チャレンジすると必ず問題が発生する。これを克服するように努力する。上手くいかなくても事業を継続することである。継続は力なり。すぐに諦めずに、石の上にも3年。3年分の資金は持って現地に乗り込めという。
・4つ目は、それでも失敗することはままある。その時致命的な失敗をしないことである。日本の会社が潰れてしまうようなリスクはとらない。もう1つは失敗にめげないで、明るく元気に振る舞うことである。失敗の教訓は、次の成功の母になると断言する。
・5つ目は、海外進出の目的を明確にしておくことである。何のために、何に貢献するのかを具体的にしておく。5年後にどういう会社にするのかを描いておく。ゴールがなくては走れない。夢を大きく持って志を高く掲げることである。アジアでは、今後10年で数千社が上場してくる。そのくらいの勢いがある。最後は運もあるが、それが向いてくるようにチャレンジせよ、と若き経営者を鼓舞していた。
・ニトリホールディングス(コード9843、時価総額1.0兆円)の似鳥社長は、事業成功の条件として、5つ挙げた。①ロマン(大志)、②ビジョン(20年以上の長期計画)、③意欲、④執念、⑤好奇心である。社員には、社長のため、会社のために努力せよとは全くいわない。自分の人生のため、自らの成長のために努力せよと常に話している。
・似鳥社長の執念は3000店、売上高3兆円にある。札幌から東京に居を移して8年、車のナンバーも3000に拘っているほどである。27歳の時に米国を視察して、人生観が変わったという。当時の日本は50年遅れている、今でも20年は遅れているという認識である。いかにコーディネートできる家具を提供するか。その流通革命に取り組んできた。
・ニトリのビジネスモデルは、売価と品質をいかにリーズナブルに提供するか、を追求する中で形成されてきた。世界初の製造物流小売業である。バーティカルマーチャンダイジング、すなわち垂直型のバリューチェーンを作る中で、海外進出は必然であった。1986年の台湾に始まって、インドネシアに工場を作り、アジア各地からPB商品として調達する仕組みを作ってきた。商品の90%は自社開発である。工場はインドネシアとベトナムにあり、アジアの15拠点と取引している。
・これからはアジアの市場が最も伸びる。よって、アジアで1番になれば世界でナンバーワンになれる、と確信をもっている。現在(2014年度)は売上高4200億円、経常利益660億円という水準にあるが、これを2017年度には、同5500億円、同800億円にもっていく。これは当面の計画で、この時の500店、5500億円を、2022年に1000店、1兆円、2032年に3000店、3兆円に拡大する方針である。
・日本の家具・ホームファッション市場は今の3兆円が2032年でも4兆円にすぎないが、アジアは10兆円が25兆円に拡大するとみている。この10%をとれば3兆円はみえてくるという構想である。3000店の時、日本が1000店、北米700店、中国800店、台湾300店、欧州300店という内訳である。
・ビジョンというのは、100倍の規模をイメージする。絶対に無理そうな目標への挑戦である。1000億円を超えてきたら、10倍のイメージでもよいという。ポイントは、社会貢献にある。アジアの人々が頑張れる仕組みを作って、彼らが自分のために努力する経営を行うことであると主張する。ニトリは、その国の社員を自己成長させて、経験を積む中で経営を任せていくという。台湾のニトリは上場をめざしている。
・致命的な失敗は避ける。会社が潰れてしまうようなチャレンジはしないということである。これには、その事業が失敗しても十分吸収できるレベルで行うこと。もう1つは悪いことは絶対にしないことである。
・ニトリが企業規模を拡大する中で、最も障害となったのは社内の経営陣にあったと似鳥社長はいう。似鳥社長のロマン、ビジョンに付いて来ることができないからである。最大の抵抗勢力は社内にあり、大きく新しいことをやろうとすると社内で反対が起きる。結果として、役員は5回転したという。古参の役員には交替してもらったわけだが、一方で、コーポレート・ガバナンスの充実は今後の課題であろう。
・澤田会長は、H.I.S.を大きくした。現在H.I.S.は世界60カ国に186店を有し、アジアで急拡大を図っている。澤田会長はいくつもの事業をてがけてきたが、その中で失敗や苦労も経験している。一方で、成功している事業も多い。国内では9年も赤字であった証券会社を再建させたが、ベンチャー企業の上場という点では法令上のミスも起こした。モンゴルでは4位の赤字銀行を支援して、現在ではモンゴル№1の銀行に成長させた。ハウステンボスは、それまでの経営が上手くいかなかったのとは対照的に、数年で見事に再建した。ハウステンボスの場合、再建の引き受け手がいない中で、市長が3度も頼みにきたという。3度目はアポなしでお願いにきた。3度頼まれると、ノーと言えないのが澤田会長の性分らしい。そこで、本気で取り組むことにした。
・澤田会長も似鳥社長も、人材が決め手と強調する。社内で足らない人材はスカウトしてきたが、よい人材は少ない。目を凝らしても外れることが多いので、内外とも人を育てていくことに最も力を入れていると強調した。