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イネーブラーになれるか

   2023.05.18 (木) 6:50 AM

・イネーブラーとは、何らかの目的の遂行に向けて、それを支え推進するリーダーを意味する。必要不可欠な仕組み創りや運営において、強力な推進役として機能する。周りを巻き込んで働き、しっかり方向付けをする力量を発揮する。今、そういう企業になれるか、そういうリーダーになれるか、が問われている。

・1月にNTTデータのイノベーション・カンファレンスが催された。本間社長のプレゼンテーションのセッションに、宇宙飛行士の山崎氏(スペースポートジャパン代表理事)とNRI(野村総合研究所)の此本社長が登壇した。同業のコンペティターともみられる企業が登場し、両社長が対談するとは珍しい。

・本間社長は、持続的な未来を実現していくには、DXの連携で繋がる社会づくりを行っていくことが大事であると強調した。そのために、4つのDをバリューサイクルとしてまわしていく。Discover(目利き)、Design(企画)、Develop(つくり)、Drive(活用)である。

・あるべき姿を変化の中から読み解いて、しっかり設計していく。それを仕組みとして開発し、運営していく。このサイクルをまわして成果をあげていくことを実現する。

・SPACEPORT CITY構想とは、スペーストラベルに向けて、宇宙にふれ、宇宙に行く空港をつくり、未来と遊ぶ街づくりを行う。地域創生に向けた拠点づくりとして、NTTグループもその支援に加わっている。ビジョンの実現に向けて、いかに共感を創っていくか。その具体的な活動が始まっている。

・NRIの此本社長は、未来創発を強調する。未来は受動的に受け入れるものではなく、能動的に創っていく。そのためには、デザイン力を高めていく必要がある。3つの社会的価値、①活力、②最適、③安全安心、を共創によって作っていく。ものづくりを超えたデジタル社会のあり方を問うている。

・NRIの「知的資産創造」(2023年1月号)で、デジタル社会の未来が特集された。そこでの興味深い論点を取り上げてみる。

・「生活者1万人アンケート調査」(NRI)によると、スマホの利用頻度の高い人は、自分の生活レベルは高いと答えており、生活満足度が相対的に高い。デジタル活用が生み出す付加価値(消費者余剰)が、通常の経済的価値(GDPのような生産者余剰)にオンされていることによる。

・GDPでは測れない満足度を、消費者余剰としてマクロ的に推計すると、2020年で実質GDP 528兆円に対して、消費者余剰は263兆円に達する。2020年のGDPは前年度比-4.5%となったが、消費者余剰は+15.2%も伸びている。人々の暮らし向きは、GDPでは十分捉えられないとみている。

・生活満足度の向上に寄与する要因として、世帯収入以外では、①生活の自由度(ワークインライフ、ワークライフインテグレーション)、②安心安全、③人間関係、④仕事の満足度の順に影響すると分析している。

・企業活動はどうか。通常、ものづくりは設備に依存し、設備は減価償却していく。つまり、設備は経年劣化していく。一方、情報をデジタル化し、それを蓄積し、利用していくデジタルサービスは、アップデートによってその価値が高まる。つまり、減価償却ではなく、「増価蓄積」していく。

・DXのカギは、企業の価値創造の仕組みを、デジタルでアルゴリズム化し、次にアップデートし、AIを使って学習し、進化させていく。その時、組織の非財務目標を設定するが、KPIの上位項目として、NSM(North Star Metric)におく。

・このNSMが上手く設定できるか。組織の中で、シンプルに機能するか。これによって、本物のDX企業かどうかが分かる。

・例えば、音楽のスポティファイの場合、目標は会員のサブスク収益の増加にあるが、これよりも大事なNSMとして、「月間コンテンツ再生時間」をおく。これこそが提供価値を測るメトリックスであると定義する。

・此本社長は、社会課題の解決に当たって、4つのプレーヤーが必要であるという。①フロント(現場)、②ITプラットフォーマー、③ルールメーカー(市場メカニズム)、④イネーブラー(推進するリーダー)である。

・みんなが挑んでも、バラバラでは成果がうすい。ルール作りの仕組みが必要である。例えばカーボンニュートラルに向けて、カーボンプライスの仕組みは極めて重要である。

・さらにイネーブラーとして、NTTデータとNRIは互いに推進役になれる。ITプラットフォーマーとして、競合相手とみるだけでは大きな発展はない、ということであろう。日本をデジタル後進国といわせないような活躍を、両企業に期待したい。

 

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