アクティビストのエンゲージメントとは
2023.02.13 (月) 1:43 PM
・昨年、3Dインベストメントパートナーズは、富士ソフトに社外取締役として4人の独自提案を行い、2人が承認された。富士ソフトの経営にどんな問題があったのか。
・彼らの分析レポートをみると、1)一定の収益をあげていても資本効率が著しく低い、2)もっと事業の収益性を高めるポートフォリオ戦略がある、3)それを担うガバナンスを強化するために社外取締役を独自に提案した、ということである。
・3Dは株式の20%超を保有して、筆頭株主となっていた。取締役会の専門性と独立性をもっと高める必要がある。こうした提案はもっともらしい。システム開発会社がこれまでの収益で自社ビルを所有し、これを利用することは投資効率がよくない。ここをどう説明していくのか。さらなる改善が求められよう。
・RMBキャピタル、ダルトン・インベストメンツ、AVIなどのアクティビストの話を聞く機会があった。あるアクティビストは、監査等委員会設置会社に反対してきた。なぜかといえば、指名・報酬委員会がないのでガバナンスが十分機能していない。日本では「攻めのガバナンス」がテーマとなってきたが、海外からみると必ずしも評価にされなかった。機能が徹底していないからである。
・東証の市場再編も大きなインパクトはなかった。上場基準を上げるといっても大きな変化はおきていないが、上場企業は対話を受け入れるようになってきた。課題はあるが、よい方向になりつつある。しかし、対話が通じない会社も多いという。
・アクティビストは、1)低PBR、2)コングロマリットディスカウント、3)キャッシュリッチ、4)経営陣の争いや不祥事、5)親子上場や敵対的M&Aなどに投資機会を見出す。
・アクティビストは、よい経営になる会社を発掘して投資する。その会社がどのようなステージにあるかは、さほど重要でない。どのステージ、どのサイクルにあっても企業価値創造はできる。それが十分でない会社があれば、改善によって価値は上がる。ここにエンゲージメントしていく。
・よい経営は、経営者のリーダーシップ次第で、結局は経営者に投資することになる。よって、ガバナンスが大事になる。よい経営者の選定がカギを握るからである。日本では、CEOを支えるCFOの地位が低い。その資質も十分鍛えられていない。日本企業はROICが低い。これを上げるには、よい経営者を選ぶ必要がある。そのためのガバナンスである。
・企業は、ターンアラウンドできるのか。決め手の戦略を実行せず、漫然と怠慢の経営を続けていないか。こういう企業をアクティビストは狙っている。結局、日本には経営のプロが少ない。①プロの経営者になること、②プロの経営者を育てること、③それを選ぶこと、④交代させること、が問われている。
・アクティビストはどんな要求を突き付けてくるのか。単なるいいがかりか。ちょっとした不都合を過大にとりたてて、マーケットでの値上がり益を短期的に狙っているだけなのか。アクティブストは、ハゲタカかハイエナか。弱った企業を食い尽くそうとしているのか。
・米国では尊敬されているアクティビストも多い。アクティブ運用はパッシブに勝てない。勝つには、不合理な会社を立て直して、そのパフォーマンスでがっちり稼ぐ必要がある。まともなアクティビストが運用するファンドには、大手も年金基金も積極的に資金運用をまかせる。アクティブ運用ではアクティビズムが当たり前でもある。
・では、アクティビストは、どんなアクションをとるのか。割安株の5~10%を所有して、株主提案を行う。ここでモノを言う。その提案がまともなら、既存の株主の賛同も得られる。
・これによって、会社のマネジメントにプレッシャーをかける。経営陣はこれまでと違った意思決定で経営効率の改善を図るようになる。それがまともであれば、株価は反応する。経営トップの行動変容をおこせるかどうかが最も重要である。
・アクティビストの提案は、企業の弱点をついてくる。強みを活かして、弱みは減少させようとする。甘えは許さずに、思い切った手を打たせようとする。一方で、中長期といいながら、目先の効果を狙うことも多い。
・できるところからやるとすれば、短期指向となる。もうからない事業はすぐにやめて売却せよ、現金が余っているなら配当や自社株買いで還元せよ、社長を交替させよ、社外取締役に特定の人をいれよ、など今の経営陣にとって不愉快な提案がされることも多い。
・ソニー、セブン&アイ、花王、ファナックなどに対しても、グローバル企業と比べて違っているところを突いてきた。これに的確に反論し、内実をみせると同時に、指摘された点で妥当なところにはきちんと手を打っていく必要がある。手を打つことで、企業価値が上ることも多い。
・株式の持ち合いはやめよ、買収防衛策はやめよ、経営陣の株式報酬のウエイトをもっと上げよ、などさまざまな提案が出される。要求が株主の短期的利益のみを最優先しているのか。経営陣が従来の延長線上のなま温い経営を続けて、中長期の企業価値向上を図っていないのか。ひいては、それが今の企業価値を破壊していないか。
・アクティビストが提案してきそうなことは、ほとんど分かっている。それを十分認識しているか。手を打つべく準備をしているか。すでに手を打って、成果が出るのを待っているか。どのレベルにあるのか。必要に応じて開示していけばよい。
・最も困難なことは、今の経営トップでは、会社のカルチャーを壊すような厳しい手は、分かっていても打てない時があろう。この時、もしトップの資質が十分でないと自ら分かればよいが、そうでない時は取締役会のガバナンスを機能させる必要がある。これが難しい。
・日本の株式市場を取り巻く社会経済に、魅力はあるだろうか。そこでがんばる企業に投資をしたい。一方で、なま温い企業は、覚醒させる必要がある。ポテンシャルがある企業は多いので、まともにやればターンアランドする企業も多い。アクティビストに言われなくても、自ら動くことが求められよう。
・アクティビストに狙われないように、戸締りをしっかりせよというだけでは何の役にも立たない。3年、5年かけてもよいから、ビジョンをかかげ、具体的な実行戦略を打って、その進捗を開示していく。そうすれば、狙われることはない。別の言い方をすれば、洗練された投資家に株主になってもらいたいものである。