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IRの個性をいかに発揮するか

   2018.09.17 (月) 12:03 PM

・IRの開示資料がワンパターンになっている。これで、本当にビジネスモデルを語っているのか。この問いに対しては、2つの点でチェックする必要があろう。1つは数字だけの説明資料になっていないかという点である。決算説明の資料で大事なのは財務データなので、数字を並べて、それに簡単な見出しやコメントがついているだけというタイプである。

・もう1つは、複雑な図表を多用して、1枚の図に多くを語らせようとするパターンである。多くを語らせようとするから、いかようにも解釈できるようになり、理解しにくい。また、誤解を招きかねないようになる。つまり、勝手解釈が成り立ってしまう。

・その説明資料を使って、どう話したかがポイントであるから、よく知るには音声が必要になり、表情が大事だとすれば映像も見たくなる。一番よいのは、生で参加することであるとなっていく。

・説明資料のテキスト化を行っている企業もある。事前に用意したものは公式見解で、行間のコメントが抜けている。生の説明のテキスト化は有用であるが、それでもどこを重要と捉えるかは受け手次第である。

・やはり財務数値の持つ意味(インプリケーション)を、会社のビジネスモデルの中で正確に位置付けて、そのつながりを話すことが最も重要であろう。CEOやCFOのプレゼン能力が問われる。

・統合報告を作ろうとしているが、とかく寄せ集めになってしまって、解説型になってしまう。これをどうしたらよいか。最も良い方法は、社長がわが社の企業価値創造をまずは自らが語ってみることである。

・その時、対談の相手が大事である。社内の部下では十分でない。かといって、外部のコンサルタントや投資家、アナリストであってもうまくいかないことが多い。では、誰がよいか。一般論でいえば、社長と相性の良い聴き上手、話させ上手を選ぶことである。

・このインタビューや対談はメインストーリーの骨格作りであるから、特に準備はいらない。企画やIR部門が資料や文章を用意すればするほどよくない。本音を自由に語ることがポイントである。

・筆者の知る限り、社長は誰よりもわが社のことを考えている。この思考の中で、外部に対して、分からない、決められないとは絶対に言えない。一方で、通常、どうしたらよいか、どうすべきか、という課題については答えをもっている。実行案をどこまで具体化できるかには差があるとしても、対策は思考実験している。

・この社長のストーリーをベースに、全体を構成し編集していけば統合報告(Integrated Reporting)の原案はできる。その上で、本来統合報告に求められる内容について、1)付加すべきもの、2)具体化していくもの、3)今回は載せないものを決めていけばよい。このプロセスを3年ほど実践していくとかなり良い内容のものができてこよう。

・なぜ時間がかかるのか。会社の中に出来ていない仕組みを経営として作り込んでいくには時間を要するからである。その作り込んで動き出した内容を織り込んでいくと、統合報告書のレベルが結果として上がってくる。つまり、統合報告は経営の実践と対になっているのである。

・ESG、CSRは、IRとしてどこまで取り込んでいくのか。Gのガバナンスは議決権行使と密接であるから、議案になりそうな案件についてはよく議論して投資家の理解を得ておく必要がある。Eの環境には、どの企業も長らく取り組んでいるので、それなりの知見を蓄えている。Sの中では、働き方改革が問われている。自社グループだけでなく、グローバルな取引先にも目を配っていく必要がある。

・CSRは企業の社会的責任として、経済的価値を超えて果たすべき内容をもっている場合も多い。どこまで取り上げるかは、企業自ら範囲を決める必要がある。SDGsとの関わりも同じで、わが社の企業価値創造に結びついているものをまずは取り上げて、活動を実践する。次に、企業価値創造の中で、経済的価値の範疇には属さないが社会的価値として重視するものについては、その意義について的確に把握してアピールする必要があろう。

・投資家は、経済的価値を含む企業価値創造に第一義的関心を寄せるので、そうでないCSR活動の部分については、重要であっても無視するかもしれない。IR部門としては、そこをよく分かった上で、実はみるべきものがあるとすれば、その内容を投資家に訴求していく必要がある。

・アクティブ運用よりも、時代はパッシブ運用時代である。とすれば、さまざまなインデックスに入ることが重要である。インデックスに入るための活動というのは本当に意味があるのか。これに対しては、ROE重視のインデックス、ESG重視のインデックスなど、今やETFも含めて多様なインデックスが開発されている。そのインデックスに採用されれば、自社の評価が高まり、安定した株主となってくれるケースも多い。

・当然、IR部門としては、さまざまなインデックス、ファンドを検討して、そこに採用されたいとすれば、その基準を満たすように社内改革を進めて、採用を働きかける必要があろう。これも1つの有力な株主作りである。当然対話を通して、わが社の価値創造をレベルアップしていくことが求められる。

・日本の平均ROEが10%、米国が15%として、海外の投資家は米国並みのROEを求めているのか。ROEの水準をどのように考えるのか。これにも2つの見方がある。1つは資本コストをよく検討した上で、わが社のROEが株式の資本コストを上回っているかどうかと検討する。下回っているとすれば、どのようにして資本コストを上回るようにできるかを経営の問題として手を打っていく。

・もう1つは、資本コストをクリアしているとすれば、次はどの水準を妥当と考えるかを検討する。ROEは高ければ高いほどよいという極大化を狙うのか。一定水準を超えて、安定的に維持することを望むのか。この点についても、わが社の企業価値創造との結びつきを考慮して、重要な財務的KPIの内容を固めるべきである。

・さまざまな企業のIR部門の担当者との話題はつきない。筆者の意見も所詮1つの意見である。IRの在り様は多様であってよい。なぜなら、投資家も実に多様だからである。共通するのは、企業価値を共有できると互いに認識できるならば、対話は弾み、株主として長い付き合いができるようになろう。IR担当者が個性を発揮し、活躍することを期待したい。

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