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ESG説明会~日立製作所のケース

   2019.12.22 (日) 1:38 PM

・10月に恒例の「日立ソーシャル イノベーション フォーラム」が催された。毎年聴きに行っているが、日立の新しいビジネスモデルである“社会イノベーション”の中身が充実していると感じる。東原社長のプレゼンの中で印象的であった点をいくつか挙げてみる。

・日立の社会イノベーションモデルのキーワードは、①協創と②デジタル技術である。社会の課題に対して、参加型の課題解決を図っていく。ルマーダ(AI活用のデジタル分析システム)をコアにCPS(サイバーフィジカルシステム)をまわしていく。

・三井不動産との新しいオフィス作り、アマダホールディングスとの機械生産における新しい生産計画の立案運営、福岡市との地域包括ケアのための情報プラットフォーム作りなどを通して、社会イノベーションと実践している。

・さらに、スマートシティ作りでは、松山市、国分寺市や、タイのワン バンコク プロジェクト、スマートシティを応用した米国ディズニーとの協創へと発展している。

・では、企業としての日立製作所は、どのような展開をみせているのか。9月に「グローバル企業のグローバルガバナンス」(METI-RIETI主催)で、日立の中村豊明取締役(元CFO)がコメントした。

・日立は過去に何度も赤字に陥ったが、経営が後手に回りうまくいかなかった。これを克服すべく経営改革に取り組み、ガバナンスも抜本的に組み替えた。2018年度の売上高営業利益率は8.0%まで上がってきた。

・2021年度に向けた中期3ヵ年計画では、ルマーダをベースにした社会イノベーション事業を核として、社会価値、環境価値、経済価値の3つの価値を高めていく。財務的には営業キャッシュ・フローの拡大、不用な資産や事業の売却、格付けAクラスの確保を推進する。各事業部門に初めてROICをKPIとして導入し、資本コストを明確に意識した経営を行う。

・事業ポートフォリオの見直しでは、事業がどうしようもなくなってから見直すのでは遅い。それでは、全ての人々が不幸になる、自力で営業利益率5%が上げられないのであれば、社外役員の目も入れて、誰がベストオーナーかを常に検討していく。

・持続的な成長ができるのか。ダイベストした方がよいのか、ものさしの統一を進めている。グローバルな人材の評価やIFRSの導入もその流れにある。日立を、グローバルな経営者がマネジメントできる会社にしていく、というのが基本方針である。

・22社の上場子会社については、自力で持続的成長ができるか。親子間の取引が5割もあると、利益相反の影響が大きいので、100%子会社にする。親会社が上場子会社の成長を妨げるようなことをやってはならない。子会社の内部統制が親のレベルに合っているかどうかも重要である、と指摘した。

・さらに、9月に催された初の「ESG説明会」では、日立のESGがどのようにマネジメントされているかについて、具体的に話した。ESGについては、サステナブル戦略会議で方針を決定している。

・環境(E)について、2016年に既に環境イノベーション2050を決めている。社会(S)については、人材のマインドセットが大事なので、人材戦略を一新している。ガバナンス(G)については、11名の取締役のうち8名が社外であり、グローバルリーダー経験者も入って活発に議論している。情報共有がカギである。

・環境(E)価値では、1)低炭素、2)高度循環、3)自然共生、について3年毎に計画を作っている。従来は、各事業の中で、環境の課題とどう折り合いをつけていくかという所に力点をおいたが、今回の中計では、どのように事業を変えていくか、が中心テーマとなった。この変化は興味深い。

・CO2削減では、インターナル カーボン プライシングを導入して、インパクト分析を行っている。5000円/tとして、設備投資の基準に入れていく。日立の5つの事業分野でその影響は異なるが、各ビジネスユニットが自ら検討することが重要である。

・水資源のリサイクルでは、サーキュラーシステムをいかに作っていくか。水の単位使用量を下げていく。プラスチック、鉄スクラップ、鋳物砂などのリサイクルもバリューチェーン全体のリソースサイクルとしてみていく。

・環境イノベーションでは、Eだけが独立して存在するわけではないが、目先のトレードオフではなく、思いきった最適化が求めていくという。

・社会(S)価値では、人材マネジメントのプラットフォームを作った。30万人の社員のうち13万人が海外にいる、グローバルな視野で、社会の課題をとらえられる人材を、共通の尺度でみていく。

・ダイバーシティ&インクルージョンでは、多様な人材の活用を一段と求める。ABBの買収で3.5万人の海外社員が2020年にさらに入ってくる。人材本部は現在52名中17名が外国人であり、ワンチームのオペレーションを行っている。マネジメント層の女性比率はまず10%(現在外人8.8%、女性5.0%)を目標とする。

・環境、社会、経済の3つの価値を追求できる経営リーダーの育成では30~40代からフューチャー50(50名の候補者)を選んでいる。また、デジタル人材の育成にも力を入れている。AIはツールなので、AI人材ではなく、もっと幅広くデジタル人材として捉えている。

・ガバナンス(G)では、8名の社外取締役のうち、4名が外国人(うち女性2名)である。取締役会は年間12回、指名委員会9回、報酬委員会6回、監査委員会17回が催された。

・カギとなるテーマは、1)グローバルリーダーになるにはこの業績でよいのか、2)本当に投資をしているのか、3)コンペティターと比べて劣っていないか、4)5%にとどかない低収益事業をどうするのか、という点にあった。

・これからの課題は、①グローバル人材、②デジタルシステムのパートナー作り、③ワン日立としてのポートフォリオマネジメント、そして、④ESGの価値向上にある。

・改めて日立の統合報告を読んでみると、「2021中期経営計画」の内容がよく分かる。財務的KPIとして、営業利益率10%超、ROIC10%超というのも明確である。

・5つのセクター(IT、エネルギー、インダストリー、モビリティ、ライフ)の2021年度のROICの目標を各々15.0%、7.5%、10.8%、13.1%、15%超と出しているのも画期的である。統合報告として素晴らしい内容である。

・あとは実践がついてくるか。内容の充実は自信の現れでもある。社会イノベーションを、あるべきビジネスモデルに据えた日立の将来に大いに注目したい。

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