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ESGの先を目指す~次はイノベーション

   2017.09.03 (日) 5:31 PM

・CSR(企業の社会的責任)とESG(環境・社会・企業統治)は何が違うのか。企業の倫理的な側面や社会貢献を重視するか、企業のサステナビリティ(持続性)を支える3つの側面をとりわけ重視して、企業価値の向上を目指すのか、とういう点に差がある。

・ESGが中長期的な企業価値創造に結びつくのであれば、ESG投資は意味を持ってくる。中長期の投資リターンの向上、あるいは投資リスクの低減が見込めるからである。

・企業に対するESGの評価を、どのように展開するのか。投資対象をポジティブにスクリーニングするか、ネガティブにスクリーニングするかで、スタンスが異なってくる。環境汚染、虐待労働、軍需優先、健康被害などに着目して、それに関わる企業を外していくのがネガティブスクリーニングである。

・逆に、生態系・エネルギー改革、社員の働き方やダイバーシティ(多様性)改革、コーポレートガバナンス改革など、ESGを通した企業のサステナビリティに関して、プラスに加点して評価するのがポジティブスクリーニングである。

・GPIFが採用した3つのESG指数(FTSE Blossom、MSCIジャパンESG、MSCI日本株女性活躍)は、いずれもポジティブスクリーンをベースにしている。

・ESGを軸にした一次元評価だけで、投資のパフォーマンスが出るのであろうか。ESGの評価が高い企業は、ROEが高く、株価のボラティリティは低いと本当にいえるのだろうか。その因果関係を株価と単純に結びつけるわけにはいかない。ESGは重要であるが、企業がESGに特化すれば、持続的な成長が保証されるとはいえない。

・企業価値には経済的価値と社会的価値があり、企業価値とは直接結びつかない社会的価値もある。また、目先の経済的価値が中長期の企業価値と相反することもよくある。

・一方で、ESG投資がESGインデックス中心に投資されるならば、このインデックスに選ばれることが、市場価値を高めることに結びつく。ESGインデックスに入ることを目的に、自社のESG活動を磨くという企業も増えてこよう。目標を明確にして、ESGに力を入れることは望ましいが、それで企業価値の向上に結び付くかは十分検討してほしい。

・企業の価値創造をESGも含めて、もっと広く深く捉えようとする議論も進んでいる。伊藤レポート第2弾(「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス」)は、企業と投資家の対話を財務情報と非財務情報に分けて、議論するのではなく、長期投資(ESG無形資産投資)の観点から統合的に捉えようとしている。

・企業サイドにおいて、1)社会的課題にソリューションを提供する、2)社会的価値にフォーカスして、社員が自立的に動かないと本物の企業価値創造はできない、3)ESGを軸にグローバル経営を進化させる、という気運が高まっている。

・投資家サイドでも、1)パッシブだけでなく、アクティブ運用においてもESGファクタ―を評価に取り入れる、2)グローバルにESG評価を行い、企業にレーティングをつけて、一定水準以上を投資対象のガバレッジとする、3)アナリストガバレッジの全銘柄にESGレーティングを付与して、既存の投資プロセスに組み込んでいく、というケースが増えている。

・ここで2つの課題があろう。1つは、投資判断におけるESG評価の重みをどのようにおくか。もう1つは、ESG優先の投資判断が何らかの偏りを生まないか。いずれも今の段階で計量的に分析できていないので、実証的な論評は難しい。

・ただし、経験則に基づき、次のような方策を検討すべきと考えている。企業レーティングを、①経営力(マネジメント能力)、②成長力(イノベーション力)、③持続力(ESG)、④業績のリスクマネジメント、という4つの軸に沿って3段階評価するというのが、これまで筆者がとってきた方式である。これはビジネスモデル(BM)の頑健さ(ロバストネス)を4つの視点でみたものである。

・ところが、企業価値創造に優れた企業においても、このBMの構築がまだ弱い。統合報告(Integrated Reporting)においても、既存のBM1を次のBM2にトランスフォームしていく時、1)BM2 の描き方と、2)その実現のための戦略、が今1つである場合が多い。

・そこで、企業評価のレーティング軸として、新しいBM作りの戦略のコネクティビティ(結び付き)の評価を第5の軸として導入したい。コネクティビティが弱いと戦略の実行性が不十分となり、新しいビジネスモデルが実現できないからである。

・企業評価に、⑤新しいBMと戦略のコネクティビリティ、を入れてみると、目標水準が一段と上がって、上位、中位の差がよりはっきり出てくる。

・5軸を3段階で評価するので、企業レーティングは5点(1+1+1+1+1点)から15点(3+3+3+3+3点)までばらつく。15~13点をA、12~8点をB、7~5点をCとする。

・そうすると4軸(4~12点)ではAクラスであった企業が、Bクラスになってくるケースが出てくる。大企業でも中堅企業でも、Aで変わらない企業もある。ここで、何が差になってくるかというと、ESGの軸ではなく、イノベーション(成長力)の軸である。イノベーションを企業価値創造の新しいBMに結びつけるコネクティビティに、差が出てくるように感じられる。

・改めて企業のイノベーションの強さや、新しいBMと4つの軸のコネクティビティに注目したい。もしそこが十分できているなら、統合報告でより一層開示してほしい。そうでないならば、新しいBMの構築に向けた戦略をコネクティビティの観点から練ってほしい。例えば、エムスリーや東祥はAクラスとみているが、今一歩の企業も多いといえよう。 

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