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経営者交代をどう評価するか~セブン&アイの教訓

   2016.05.23 (月) 2:18 PM

・投資家として会社を評価する時、最も重視すべき軸の1つは経営者(トップマネジメント)である。創業者が健在の時は、トップの言動と業績をみていれば、その会社の状態はかなり分かるような気がする。

・しかし、会社が大きくなってくると、そういうわけにもいかない。トップは最も大事だが、一人で全てを決めることは不可能であり、必ず権限を委譲していく。さらに、創業者といえども年をとってくる。社長を交代する必要があるが、これを決めるのが難しい。

・ある上場会社では、創業者が70歳を超えてきた。創業の頃から一緒にやってきた仲間は同世代であり、次の世代の後継者には適さない。ところが、40代ではまだ力量不足、50代には適任がいない。どうして後継者が育っていないのか。その社長は自分の眼鏡に適う部下がいなかったという。私は、ちゃんと育ててこなかったのでしょう、とやんわり聞いた。いや、そうしようとしたが、残念ながら出て行ってしまったと嘆いていた。

・別の上場会社では、創業者の息子がいた。いずれ後継ぎにしようと20代後半に自分の会社に入れた。そして70代の時に社長を譲って自分は会長になったが、経営環境がガラリと変わって、今までの延長では上手くいかなくなった。経営方針の転換とリストラが必要になった。そこで、会長から社長に復帰し、息子を降格して手を打った。その後さすがに年をとってきたので、50代の息子に再び社長を託した。

・創業者はいつまでも創業者である。社内のタイトルがいかに変わっても、創業者の精神は一緒に過ごした経営陣に息づいており、またオーナーであるから、それなりの株式を所有している。資本の論理もあって、後継者を自分で選ぶことができる。

・問題は、創業者が個性溢れるイノベーターであればあるほど、会社の中でのリーダーシップはフルに発揮される。別の言葉でいえば、ワンマンになり、いつのまにか裸の王様になりかねない。ピカピカに輝いていた頃の先を見る力や皆を鼓舞するオーラも、自分では気がつかないが衰えてくる。それを周りに知られてきた時が危ない。

・創業者の一族が後を継ぐ場合は、後継者争いが一族の中で起きるかもしれない。しかし、一族以外の人に社長の出番はない。一族の場合は社内が比較的まとまりやすい。ところが、後継の息子、娘の能力が不十分であった場合、優秀な家老や番頭が付いていないと会社はもたない。一方で、2代目は苦労しながら、経営環境の変化に手を打ち、創業者の事業や戦略を否定して、新しい路線を作ろうとする。こんな息子で大丈夫かと思った人が、20年を経て立派な2代目経営者になっている例はいくつもある。

・逆に能力不足のまま、ワンマン先行でファミリーが継いだが故に、経営の危機に陥った会社はこれまた数多い。日本を代表するある企業では、一時代前の話であるが、一族からその会社に入っても、本人が優秀なら親会社に残して育てていくが、そうでない時は親会社から外して、しかも早く偉くする。社会的地位はあるが、マネジメントの権限は与えないようにして会社を守り、本人には対外的な社会活動で大いに力を発揮してもらうというやり方をとっていた。

・多くの企業に見られるが、創業者が亡くなって30年程経つと、創業者精神の継承が難しくなってくる。創業者と一緒に働いた人々がほとんど引退して、創業者に直接薫陶を受けていない人が社長になる。まして社員にとって創業者は遠い存在となる。こうなると会社は緩んでくる。‘会社の寿命30年’というのは、ここに一因があると、ユニチャームの高原社長(2代目)はいう。

・創業家に優秀な人がいない場合は、ファミリーとは関係ない生え抜きを抜擢して社長に据える。この社長が優秀できちんと会社をリードしていく。そして、一族の若手にバトンタッチしていく。この代表例がトヨタ自動車である。トヨタイズムは脈々と継承されている。

・では一族の手を離れて、サラリーマン経営者が社長に就くようになった会社はどうであろうか。日本の大企業にはこのパターンが多い。創業者精神を綱領に掲げていても、それを本当に実践しているかとなると、抜けがでる場合がある。会社は時のリーダーに依存するが、一人のリーダーや一人のイノベーターにのみ左右されない組織能力(オーガニゼーショナル ケイパビリティ)を培っていくことが求められる。

・会社の運営において、小さな穴から水が漏れないように、突然想定外の爆発が起きないように、細部にわたって組織を動かす仕組み作りが必要である。それは大変なことである。しかし、人々がきちんと訓練され、カルチャーとして身につけていれば、その基本動作は苦痛でもなんでもない。いつもの仕草である。その組織能力を作り上げるのは、ロケットで成層圏に出る時のGのように大変な圧力がかかるが、成層圏に出てしまえば何ら問題ない、と京セラを創業した稲盛氏は諭す。

・しかし、強いといわれる組織も絶えず磨いていないと劣化してくる。特に、リーダーが人選を誤って、それが3回くらい続くと、会社はガタガタになってしまう。したがって、会社の組織能力を、経営力(マネジメント)、成長力(イノベーション)、持続力(ESG)、パフォーマンス(リスクマネジメント)の観点から評価していくことが、投資家にとっては基本動作となる。

・今回のセブン&アイの鈴木敏文氏の場合は、会社の創業者ではない。しかし、コンビニのセブン-イレブンを世界に冠たる企業に作り上げたという点では、イノベーターであり、創業者の伊藤雅俊氏から任された後継経営者であった。伊藤名誉会長は自分のファミリーは会社に入れても、次期社長には指名しなかった。

・伊藤名誉会長は、人の話を聞く優しい面はあるが、実はかなり厳しい人でもある。鈴木氏はものごとを演繹的に見通す人で、その言動には一段と厳しい面がある。このタイプのリーダーがトップに立つと、イノベーター故に戦略の立案を一人で担い、あとはいかに実行するかという布陣になる。

・強烈なワンマンリーダーからみると、自分に替わる後継者を見出すのは極めて難しい。みんな劣ってみえる。自分の戦略にそって動く人材は評価しても、自分に替わる人材としては評価できない。しかも、このタイプのリーダーの下では、次のリーダーは育たないかもしれない。リーダーの候補者は必ず意見をいうから、それが気に入られず、居場所がなくなることも多い。

・鈴木氏のいないセブン&アイが動き出す。強烈なリーダーの指示待ち世代、忠実な実行部隊から、次のイノベーターあるいは新しいリーダーが育ってくるか。これは事業における鈴木路線を継承するとしても、企業経営におけては鈴木路線を否定する必要がある。

・100円ショップ、セリアの河合社長は、新しいセブン&アイの経営行動にどういう変化がでてくるか、に強い関心を持っている。セリアがヨーカ堂の中にもっと入れるようになるかどうか、という意味である。セリアが入れば、若い女性を動員する力は高まる。つまり、ヨーカ堂の再生の変化に一段と注目が集まろう。

・井阪新社長がどういう経営体制を作っていくか。ガバナンスのあり方、取締役会の運営方法、グループ戦略の抜本的見直し、執行部門の人材の入れ替えなど、大きな変革の行方が注目される。筆者が他の企業を見てきた過去の経験に照らすと、ここで人材の抜擢を誤ると、思わぬ苦難が少し先に顕在化する。伊藤ファミリーから自立しつつも、創業者精神をどう組織能力として継承するか。トップの手腕が問われるところである。投資家としてはここを見極めつつ投資判断をしたい。

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