ホーム > ブログ一覧 > 国際会計基準採用300社に向けて

国際会計基準採用300社に向けて

未分類   2014.07.23 (水) 2:50 PM

・2年前のIFRSの適用に関する企業会計審議会の議論では、2つ点が気になった。1つは、日本の一定数の大企業が強制適用の動きに反対したことである。コストがかかるという理由もあったが、国際会計基準の在り様が日本的経営の良さや競争力にネガティブに働くのではないかということが懸念された。もう1つは、IFRS推進派と日本基準擁護派の間で、議論がかみ合わないことであった。何が本質的な課題であるかを明確にしたいと思いつつも、双方が納得するところまでは必ずしもいかなかった。2013年6月にまとめられた当面の方針では、IFRS任意適用要件の緩和と日本版修正IFRSの策定方針が出された。

・それから1年が経過したところで、日本企業の国際財務報告基準(IFRS)の採用を促進するためのセミナーが7月に催された。その機運は次第に盛り上がっているが、まだ満足すべきところまでは至っていない。その促進に向けて、IFRS適用の必要性を認識してもらうという主旨であった。印象に残った点をいくつかまとめてみた。

・金融庁の池田局長は、昨年の6月にIFRSの任意適用の基準が緩和される方向が示されてからほぼ1年を経過した現在、44社が適用を明示しており、その時価総額は61兆円、全体の13%まできたと説明した。6月に出されたアベノミクスの成長戦略第2弾にも、IFRSの拡大促進という文言が入っており、国の方針としても力強さを増している点を指摘した。

・44社はIFRSをそのまま適用するピュアなIFRS採用企業であるが、それとは別に、IFRSの考え方を十分取り入れつつ、日本の独自性を盛り込んだ日本版IFRSについても、近く公開草案が出される予定である。ピュアなIFRSの一部に修正を加えた日本版IFRSは、わが国の主張を明示するもので、そこに意味があると池田局長は強調する。

・日本版IFRSは1つの基準としては評価できるが、そのままグローバルに通用するかどうかはわからない。いかに調和を図っていくかが問われている。住友商事の島崎元副社長は、IFRSの採用は国際競争力と経営基盤の強化に不可欠であり、今は冷静に判断できる時であると主張する。

・日本取引所グループ(JPX)の斉藤CEOは、東証の国際的地位は大幅に低下しているので日本独自の主張をしても無視されてしまうのではないかと警鐘をならす。1989年に世界の株式市場の時価総額は10兆ドルであったが、その時日本は4兆ドルを占め、世界シェア40%、圧倒的NO,1であった。当時はバブルの絶頂期であったが、確かに存在感はあった。それが今では、世界の時価総額は70兆ドルに拡大しているのに対して、日本は依然として4兆ドルにとどまり、世界シェアは6%まで落ちてしまった。日本の株式の3割を外国人が所有し、日々の売買の6割を外国人投資家が占める中で、日本の会計システムにその良さは認めるとしても、世界に通用するとはいえない。よって、世界基準の中に入って自己主張をすべきであると強調する。

・藤沼IFRS財団副議長は、このIFRSは海外から押しつけられるものではなく、今でも日本人の有力メンバーがいくつもの重要な組織に入って活動している、と説明する。国際基準は、日本も主張しながら、一緒になって作っていくものであるという認識を持ってほしいという。

・公認会計士協会の森会長は、IFRSは米国会計基準(US GAAP)のような外国基準ではない、時価が全ての資産負債アプローチでもない、あくまでもグローバルな比較可能性を中心に考えていると解説する。議論になっているのれんの償却をするかしないかについても、どちらがよいと一方的に言えるものではないという。日本のASBJ(企業会計基準委員会)では、日本の主張を盛り込んだ日本版IFRSを策定中であり、のれん、当期純利益、OCIのリサイクルなどについて方向性が出てくる。これらの点をよくみてほしいと強調する。

・実際、池田局長は、当期純利益のあり方について、国際的な意見発信の場であるIFRS財団会計基準アドバイザリー・フォーラム(ASAF)において、日本の提案が明示され、その論旨は高い評価を得ていると指摘する。

・自民党の吉野衆議院議員(企業会計小委員長)は、任意適用の社数を2016年までに300社に増やすことを提言した。ものさしを1つにして国際比較し、その中で日本企業の収益力を高めていくことが必要である。任意適用の数を顕著に増やすことが、成長戦略の目指すべき方策であると強調する。また、IFRSを適用した企業が、その実態や良さについてレポートを出し、それが採用促進の引き金になることを求めている。

・IFRSは世界105カ国で採用され、14カ国で任意適用が認められている。日本も任意適用の社数を大幅に増やして、その存在感を高めていく必要がある。それによって日本の発言力も高まる。そのためには、多くの日本企業がその必要性を得心し、コストパフォーマンスを納得することが求められる。

・日本版IFRSが具体化すると、日本には4つの会計基準(日本基準、米国基準、ピュアIFRS、日本版修正IFRS)が並存することになる。いかにも多い。どれかを任意に選ぶという所から、早晩収斂が必要になろう。日本の多くの企業は、大企業に限らず、中堅企業においても世界市場を目指して海外に出ていき、それぞれの地域で現地化を図っていくことになろう。海外企業とのJVやM&Aも一段と増えていこう。その時、共通の物差しは必須である。グローバル市場で活躍するにつれて、否応なくIFRSを採用することが求められよう。日本版IFRSがよい意味での呼び水になって、IFRS採用企業が加速し、300社を超えてくることを期待したい。アナリストとしては、当面4つのものさしを使い分けていくが、早く一本化してほしいと思う。

Blog Category