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営業から価値生産へ~オーナー買いから社員への株式贈与

   2019.06.19 (水) 7:23 PM

・PCデポ(コード7618)の野島社長は「ステークホルダーの皆様」へという自らの考え方をまとめた4ページの書簡を、2018年5月に公表した。その骨子は、第1に、事業が長期的価値創造に対して、生産的であることと位置付けた。AI・ロボットが注目される中で、「人間としての生産領域の拡大」を掲げた。

・第2に、会社としての価値観として、①Social(社会性、社会貢献)、②Environment(環境)、③Education(働き方、学び方)、④Entertainment(楽しさなど人間発信の新たなる価値創造)、⑤Governance(企業統制、運営統制)の5つを挙げた。ESGに2つのEを加えて、EEESG(トリプルESG)という。

・第3に、Educationでは、生活の安定×生産性、人間性の向上×生産性を考慮して、新しい働き方へのシフトを提案した。大事なことは未来デザインと位置づけている。第4は、Entertainmentの重視である。顧客が店に来て楽しい、自社のスタッフも楽しさや未来創造に共感し、提供できるようにする。

・ゲームをして楽しい。新しい使い方を学んで楽しい。自分のIT機器が点検されているのを見て楽しい。家族と来て、将来のデジタルプランを一緒に作っていくのが楽しい。そういう楽しさを提供する場にしたいと考えた。

・ビジネスモデルの進化では、従来の困った時の解決サポートから、未来のデジタルライフに必要な商品・サービスを計画的に織り込んでいく。これから先、どんなものを、いつ、どこで揃えていくか。これを本人及び家族を入れて練っていく。

PCデポは、「デジタルライフプランナー」の商標登録を取得した。この名称は当社しか使えない。1人の顧客会員(プレミアムメンバー)に、デジタルライフプランナーの専任担当が、3~5名のチームで編成される。

・これから先のデジタルライフをプレミアムメンバーと一緒に考えていく。どんなデバイスについても、ファミリー中心に、計画的に生活のデジタル価値を創っていく。それを友人や隣人などの紹介に広げていく。

・この計画を「デザインシート」にまとめていく。3~4年先までの計画を具体的に図式化したもので、チームで共有していく。プレミアムメンバーのファミリーにチームで対応していくので、コンサルは丁寧できめ細かくなっていく。リレーションが密になるほど、本当に必要なもの、価値あるものが提案できるようになり、それが計画需要として顕在化してくる。

・まず、ユーザーのベネフィットを優先する。それが需要創造を通して、当社のプロフィットに結びついてくるというフローである。ここ10年培ってきたメンバーシップ制(会員制)に、デジタルライフプランナーとしてのチームが計画的にコンサルを行う。これをビルトインして、サブスクリプション型ビジネスのサイクルをより強固なものにしていく。

このトランスフォーメーションの推進で、業績が一時的に伸びなくなる要因が2つある。1つは新しいビジネススタイルに変えていくので、顧客に的確なソリューションが提供できるようになるには少し時間がかかる。もう1つは、メンバーシップの構造を3年から4年へ長期化していくので、初年度の売上、利益の貢献が鈍ってくることである。

従来のビジネスモデルは10年かけて定着してきたが、2016年に一部の顧客から会員の仕組みにクレームがついた。違法ではなかったが、顧客に合ったメンバーシップの運営を図っていく必要があると判断し、1年かけて新しい体制を作ってきた。内部の品質管理体制はでき上がったが、野島社長はすぐに次の改革をスタートさせた。

・店舗を、商品やサービスを提供する営業の場ではなく、顧客にとっての長い目でみたIT活用の価値を生産する場であると再定義した。その活動を実践に移した。困った人を笑顔にするだけでなく、顧客の将来価値にも関わっていく。

・社員はプレミアムサービスを提供するデジタルライフプランナーになっていく。金融分野ではファイナンシャルプランナーという仕事があるが、将来のデジタルライフを安心して楽しめるようにコンサルしていく。

社長のリーダーシップのもと、新しい価値創造のコラージュ(頭の中を整理したふかん図)を作り、お客とは一人一人に合った計画書(デザインシート)を作り上げていく。新しいスマホが出たから、買い換えて、ということではなく、今後4年のデジタルライフを互いに検討して、それに対して計画的提案を行い、計画的に価値創造をしていく。

・会社としては、社員のES(満足度)を上げるように仕組みを作っていく。そのためのインセンティブも報酬につけていく。70歳まで働けるようにして、50歳を過ぎても社員として採用していく。つまり、働き方を多様にして、ステークホルダーとのつながりの中で、信用、信頼を作り、やる気を引き出していく。

 組織は逐次変えているが、営業ではなく、生産という名称に変わった。従来の営業統括本部は2018年3月から運営生産本部と名称を変えた。店舗を運営するのは同じであるが、売るための営業ではなく、客の楽しさ、客の価値を生み出すための生産が大事であるという発想である。

・品質管理生産本部も、生産という言葉が入った。従来の品質、総務、人事に対して、品質を作り出すのは人、総務・人事も人材を作り出して社内の仕組みを作り変えていく。新しいことを創出するという意味を込めて生産するという。

・営業から生産へ、売ることから価値を作ることへ、PCデポはここに本格的に取り組もうとしている。野島社長の本領発揮である。

 野島社長は、個人として、社員に自社株を贈与すると決めた。グループの役員および正社員に、5月14日の株価(386円)に対して最大6億円(155.44万株)を贈与する。8月より順次株式贈与契約を締結する。

・8月に創立25周年を迎えるが、当社のビジネスモデルを大きく変革させる中にあって、社員のやる気を引き出すために、株主としての立場も踏まえられるように、インセンティブを付与することとした。

・通常自社株買いというのは、会社の資金を使って、市場から株式を買う。これは株主還元になる。自社株の買い入れ額が株式の価値を高めるからである。

・今回は、オーナー(野島社長、3月末現在の資産管理会社分も含む持株比率31.13%)が、自分の資金でマーケットから10億円ほど買い付ける。そのうち6億円分を社員に分配、贈与する。会社とは関係のない個人としての贈り物である。会社のP/Lとは何ら関係ない。

・野島社長は考えた。社員が、会社が進もうとするデジタルライフプランナーに本気で取り組んでもらうには、社長自らインセンティブを出して、それを目に見える形にすることが必要であると。

・既存の株主にとっては、オーナー買い(10億円)を踏まえて、社員が株主になり、やる気を高めるのであれば、まさに同船に乗った気分となる。丁度ビジネスモデルが切り替わる時で、その方向もみえてきた。ここで勢いが加速すると、企業価値は大きく高まってこよう。

・この自社株のオーナー買いと社員への贈与インセンティブは、本邦初である。野島社長のアイデアはまことに画期的でユニークである。その成果に期待したい。

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