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ライザップとガバナンス

   2019.08.11 (日) 11:53 AM

・ライザップの株主総会に参加してみた。大幅な業績悪化と株価の下落で、株主から怒号が飛ぶのかと思ったが、全く静かなまま終わった。

・なぜか。瀬戸社長がひたすら恭順の意を示し、反省に反省をしつつ、責任をもって本業に邁進すると丁寧に説明した。松本晃取締役は、とにかく変な経営を止めたと、淡々と語った。

・瀬戸さんは、三顧の礼で松本氏を招聘した。松本さんも瀬戸さんをナイスガイと思い、若手経営者を応援しようと決めて、ライザップのマネジメントに入った。しかし、経営内容はとんでもないことになっていた。

・瀬戸社長を健康コーポレーションの頃からフォローしてきた。健康食品ビジネスに力を入れて、通販におけるマーケティングのやり方や大胆な広告宣伝費の使い方、それが次第に身についていることに良いセンスをしていると思っていた。

・それがライザップになって、数年前から変な買収をどんどん始めた。決算説明会で質問したこともある。何の意味があって、そんな会社を買っているのか。本業に何の関係もないではないか。シナジーをどこに出そうとしているのか。

・当時の答えは、1)問題のある会社は必ず経営が十分でない、2)ライザップの信用をベースに、経営をまともな方にもっていけば必ず黒字化できる。そう見込める会社しか買っていない。3)黒字化した後、グループとのシナジーを発揮させて、成長路線にもっていく、というものであった。

・会計的には、IFRS(国際会計基準)を採用して、被買収会社を簿価よりも安く買い、そこから生じる負のれんを表面上の利益にオンして、連結決算をよくみせるようにした。簿価より安い売り物には、通常それだけの理由がある。

・どうしようもない負の遺産をもっていることが多い。それをわが社に入れば、すぐに再建できるとして、安物買いに走った。外部からは負ののれんというみかけの利益で成長している砂上の経営ではないかと批判された。

・個人投資家は、ライザップという知名度と思いきった広告宣伝、瀬戸社長の経営プレゼンテーションを信用したようである。豪華な株主優待や派手な株主総会も魅力となったのであろう。瀬戸社長にすれば、株主にはみな顧客になってほしいので、株主作りと顧客マーケティングは連携したものであった。

・松本氏は、伊藤忠、ジョンソン&ジョンソン、カルビーで各々卓越した経営成果をあげており、日本の代表するプロの経営者である。カルビーでの経営革新については、話を聞くたびに感銘を受けた。

・松本氏は、経営は簡単であると、飄々と語る。ステークホルダーである人々を喜ばせて、トップは責任をとる。そのためには、十分稼ぐ必要がある。①この指に止まれというビジョンを作り、②具体的なプランを練り、③リーダーシップを発揮して実行していく。この実行が難しいのだが、松本氏はそれを難無くやり切っていく。

・ライザップにきて、松本氏はM&Aにストップをかけた。毎月のように会社を買うことが常態化していた。ライザップにもっていくと、会社を買ってくれるぞ、という風潮になっていた。当初のM&Aには意味があったかもしれないが、M&Aそのものが目的化し、ルーチン化していた。

・そこで、ストップをかけた。止めないなら、自分が会社を止めるという覚悟を示して、瀬戸社長に迫った。瀬戸社長はストップをかけた。M&Aを凍結して、これまでに買収した会社を精査し整理に入った。

・松本氏は、ライザップは成長と膨張を履き違えていたと指摘する。当たり前だが、経営とはキャッシュ・フローを伴う利益を追うのであって、売上拡大に伴う見かけ上の利益(キャッシュ・インの無い負ののれん)は何の意味もない。

・ここを直すために、代表取締役COOをおりて、構造改革に専念することにした。大リストラを実施して、どうにもなりそうにない会社の売却や減損を一気に行い、大幅赤字に転落した。

・新しいライザップグループのコンセプトを、健康+医療におくことにした。ライザップ事業はコアのビジネスであるが、株主総会で、瀬戸社長はダイエットのライザップではなく、健康づくりのライザップに方針を変更したと宣言した。

・ライザップの株主は10.7万人、当日はニューオータニの会場に4000人近くが来ていた。さすがに飲食はなしであった。事業報告では、バランスシートの大リストラ、本業への集中、次なる成長への布石という説明があった。前期大赤字、今期黒字化、来期V字回復というパターンを描けるように、松本氏がその布石を打った。

・松本氏は取締役を退任したが、特別顧問として残る。次の外部から入る経営者として、中井戸氏が選任された。中井戸氏は社外取締役であるが、取締役会議長を務める。議長というのは、取締役会で議論すべき内容を選んで、それをリードしていく。瀬戸社長の経営に、もしワンマン的なことがあれば、それに対する明確なブレーキ役となろう。

・中井戸氏は住友商事の元副社長で、CSCKの元社長として企業の働き方改革をリードした名経営者である。瀬戸社長は人の話を聴くタイプなので、妙な対立にはならないとみてよい。

・総会で株主からは、さまざまな質問が出た。1)資産売却で大赤字となったが、この後も続くのか。(大きなうみは出したので、すぐにはない。) 2)松本取締役はなぜ退任するのか。(M&Aにストップかけてもらい一区切りがついた。)

・3)札幌アンビシャス上場だが東証には行かないのか。(その方向はかわっていない。) 4)次の成長はどうするのか。(来年5月に新中期計画を発表する予定である。) 5)アクセルを踏み過ぎて暴走したが、今期黒字にならなかったらどうするのか。(社長をやめる覚悟で黒字化を目指しており、達成する自信はある。)

・義憤をもって会場に来た株主も、1つ1つの丁寧な対応に矛を収めたようで、①もう少し様子を見る、②頑張れ、期待している、という雰囲気に変わった。総会後の新任役員紹介で、中井戸取締役が取締役会議長として、きちんと対話して会社を正常の方向にもっていくので見ていてほしい、という挨拶をした。

・松本氏が、瀬戸社長の暴走を止めた。瀬戸社長の人物は評価したが、走っている路線がおかしいと疑問を持ち、一気にブレーキをかけて、会社の危機を救った。その松本氏を熱心に招聘したのが瀬戸社長自身であったというのも何かの因縁かもしれない。

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