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プレミアム会員を軸としたソリューションサービスの再点検~PCデポのケース

   2016.09.04 (日) 10:35 AM

・一人の高齢者の契約内容が本人の利用状況に合わないのではないか、という疑念がネット上に拡散した。高齢者の子息がサービスの解約を行い、その時の解約料金と受けていたサービスの実態が不当ではなかったか、という主旨である。

・これに対して、「高齢者を対象とした詐欺まがい」ではないか、「違法ではないが悪意があった」のではないか、という疑念が噂として広まった。

・ここで確認すべきことは、次の6点であろう。①高齢者がサービス内容を十分理解できたのか、②理解を得ていないまま契約を結んだのか、③そのサービス内容は本人にとって妥当だったのか、④会社は今回の事案にどのような説明と対応をとるのか、⑤その対応の内容は十分な説得性をもつものなのか、⑥そうした状況は今後の業績にどのように影響してくるのか、という点である。

・顧客の中には、プレミアムサービスに加入して、一家5人でPC 5台、スマホ5台を利用して、そのサービスを重宝している人もいる。例えば、PCがダウンした時に、その復旧をすぐにやってもらった。データを取り出して再利用できるようにしてくれた。また、PCを買い換えた時にはデータを全て移して、前と同じ状態ですぐに使える所まで準備してくれた。そしてスマホを買い換えた時も、同じようにすぐ使えるようになった、というユーザーの声もある。

・このタイプのオールデバイス10台サポート「ファミリーワイドプラン」に加入しているのは、全会員40万人のうちの9%である。

・こうしたサービスには二面性がある。1つは、ハードが壊れたり、ソフトがうまく動かなくなったりした時、本人では分からないから専門の部署に直してもらうというサービスである。もう1つは、自分でやろうとすれば十分できるが、マニュアルを読んだり、電話で問い合わせしたりして、時間を使うのが面倒である。誰かに任せてやってほしい、というサービスである。いずれも、何かあった時に助けてもらうというメンテナンス型サービスである。ただし、これにはかなりの個人差が伴う。

・さらに、別のサービスがある。分割払い型の商品購入にサービスがついているというタイプである。会社側ではこれをサービス一体型商品とよんでいる。加入者によっては、PCは商品として一回払いで購入し、分割払いにはしていない。スマホは一回払い購入ではなく、分割払いである。スマホの分割払いは一般的である。

・家でWi-Fiを使いたいので、ルーターのサービスを入れる。1階と地下1階では、ルーターの無線が届かない。従来は2回線、2台のルーターを使っていたが、家までPCデポの担当者が来てくれて、電波の状態を確認し、中継器を適切に置けば1台ですむことがわかり、そのように対応してくれた。すべてがサービス内容に含まれるので、追加の費用は一切かからなかったという事例もある。

・今回の高齢者の場合、一人で生活していて、ファミリーワイド10台プランに入っていたとすれば、それは不用であったろう。シングルプランの1台なら月2500円なので、月5500円を払う必要はない。

・ただ一人でも、PCとスマホ、それにタブレットも使い、家でもWi-Fiを使いたいとなると、パーソナルプラン3台となり、これは月4000円である。また、10台プランに入るとiPadが追加料金なしで使える。高齢者にはこれがよかったらしいが、追加料金なしでiPadを使うには、契約に入って長く使う必要がある。

・解約の時は、1)入会してその月に止める、2)1年後に止める、3)3年後に止める、というケースで料金が異なる。3年の分割払いを前提に、会社側では回収を考慮しているので、それより短くなった場合は、使用しているハードの料金の未払い分を払ってもらう必要がある。これも普通にある方式である。

・サービスにどういう工夫をして、どういう価格をつけるかは会社の政策であり、顧客のニーズに合わなければ売れない。余計なサービスはいらないというのであれば、顧客は必要なサービスだけを選択していけばよい。

・筆者の長年の経験で、金融業界においては、高齢者の金融取引には十分な注意が必要である。その時に分かったということで同意を得ても、後でそんなことは聞いていなかったということが起きるからである。

・それとは別のIT業界にあって、デジタル機器に慣れていない人を助けるというサービスの本質に対して、それに合わない事案が発生したことで非難を集めたといえる。

・会社側では、プレミアムサービスの契約について、顧客の使用状況に合わないサービス提供があったことを重く受け止めて、適正化推進の実施策を具体化した。

(1)当社のサービスを契約している加入者(約40万人)に対して、使用状況にそぐわない場合、コースの変更、契約の解除を無償で対応する。但し、提供している機器については返却してもらう、

(2)従来から75歳以上の顧客が新規加入する場合は、1ヶ月以内のコース変更及び契約の解除は無償であったが、これを70歳以上の顧客が新規加入する場合は、1)家族もしくは第三者の確認を行い、2)3カ月以内のコース変更、契約解除を無償にする、

(3)75歳以上の新規加入者は、加入時期に関係なく、コース変更及び契約の解除を無償で対応する、こととした。

・ポイントは、70歳以上の高齢者に対しては、新規加入する場合、家族や第三者の確認をとることにした点にある。なお、40万人の会員のうち75歳以上は全体の6.5%であり、中心は40代~50代のミドルシニア層である。

・さらに、具体的な取り組みとして、①全会員にダイレクトメールとダイレクトコールを行い、サービス利用の実態把握と確認を行う、②店頭に会員専用カウンターを置いて、対面での説明、案内、確認も行う、③店舗にプレミアムサービス品質管理スタッフを新規において、必ず店舗スタッフとは別に、契約内容の確認をするダブルチェック体制をとる。そのための店舗品質管理スタッフは100名を用意する。こうした活動を9月より順次開始している。

・社長直轄の300人規模のプロジェクトで、サービスが顧客のニーズに合致しているかをチェックしていく。40万人に対して行う。作業としては3カ月から6カ月を要しよう。

・社員教育も徹底して、品質管理スタッフによるチェックも入れていく。よって、ニーズに合わないプレミアムサービスの見直しが大きく進むことになろう。

・そこで最大のポイントは、現在PCデポのサービスを利用していて、すでに不満をもっており、今回の問い合わせで、改めてサービスを見直す人、解約する人がどのくらいいるだろうか。通常、月間の解約率は0.6~0.8%程度である。

・これは調査の結果を見なければわからないが、①ここ数年サービス需要は年20%ペースで伸びてきた、②3年を経るとサービス期間は一巡して更新期に入るが、その頃には機器の入れ替えもおきてくる、③この間サービスメニューも逐次新しくなってきた、という点は考慮しておく必要があろう。

・2017年3月期の業績は大きく落ち込もう。今回の事案の影響は8月半ばからスタートする。2Qの半分からなので、本格的な影響は下期からになろう。前期の売上高517億円、営業利益43億円に対して、今期当初の会社計画は同540億円、同49億円であった。

・これに対して、4つのシナリオが考えられる。

1)現状のまま特にさほど影響が出ない。この可能性はありえないので、今期の会社計画は達成できないとみてよい。

2)サービスの伸びが止まる。この可能性はかなり高い。今後1年間サービスの伸びが止まるとすると、売上高520億円、営業利益40億円程度となろう。

3)加えて既存の解約で売上が減少する。この可能性が最も高い。既存の会員の解約が従来の比率に比べてかなり高まるとすると、売上高490億円、営業利益30億円程度となろう。

4)ビジネスモデルが崩れる。この可能性はほぼないとみているが、もしそうなると、売上高400億円、営業赤字-20億円程度となろう。

・出直しで体制を強化し、信頼をいかに取り戻すか。今から3カ月から6カ月かけて全ての顧客に確認をとり、ニーズに合致したサービスのみがきちんと残り、そこをベースに新たなる営業活動に入るという流れになろう。

・今下期が業績のボトムであり、来期からは営業に力が入ってこようが、業績が前年同期で上向いてくるのは、来下期からになろう。よって、順調に乗り切って、これまでより一段と強い体制になるには2年を要しよう。

・好業績を反映して、株価が1500円を超えた時には、今期の業績(会社計画)をベースにPERで20倍水準まできた。それが今回の事案を契機に、当社のサービスを抜本的に点検するということになった。既存の解約が増えるという業績のケースでみると、営業利益は当初計画を3割ほど下回る。PERも切り下がるので、妥当株価ゾーンは600~700円程度となろう。

・顧客の会員化がどうなるか。信頼を取り戻して、ストック効果をどのように高めていくか。一人でいくつかのハードを所有する、ファミリーでいろいろ使うなど、さまざまなパターンがあるので、こうしたユーザーをメンバー化することによって、サービス提供の効果を高めていく余地はこれからも大きい。

・PCの販売からサービスで稼ぐという仕組みに切り換えると決断したのが2005年である。それから8年をかけて、ビジネスモデルの転換を進めてきた。今回の問題を乗り越えて、当社のビジネスモデルがニッチな存在として続くのか、野島社長の対応が注目される。

・デジタル機器に慣れていない人を助けるというサービスの本質が、一つの事案を契機に疑われた。しかし、ビジネスモデルが崩れたわけではないので、今回の抜本的対応をベースとして、どこまで回復できるかに注目したい。

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