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シンガポールを歩く~肌感覚を養う

   2016.10.15 (土) 11:12 AM

今年初めからアセアン経済共同体(AEC)がスタートした。10カ国の人口6.2億人でGDP 300兆円である。貿易の自由化や市場統合を進めて、経済発展を一層進めようという狙いである。シンガポールのような先進都市国家、人口が多いインドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、これから国作りが本格化するカンボジア、ラオス、ミヤンマーなど、その格差は大きい。

・株式市場としては、シンガポール、インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナムなどが注目される。インドネシアのジャカルタ総合指数をみると、昨年前半の高値から大きく下げた後、今年半ばから急速に戻し始めて、昨年末の高値水準は近づいている。一方、インドネシアの投信を円ベースでみると、そのパフォーマンスは冴えない。米国の金融政策が利上げを伺う中で、新興国の通貨はドルに対して下落し、円はドルに対して上昇しているからである。

・最近は、米国の利上げ観測もほぼ織り込んで落ち着いてきた。ジャカルタ総合指数の業種別時価総額ウエイトをみると、金融と消費財で半分近くを占め、この2つセクターのパフォーマンスが全体の戻りをリードしている。

・一方で、シンガポールの株式の戻りは鈍い。シンガポールST指数は昨年3割近くダウンしたが、直近までの戻りはボトムから10%の上昇に留まっている。ST指数は銀行と不動産で全体の5割強を占めるが、その中で不動産市況の低迷が響いている。これは住宅ローンに鈍化は結びつくので、銀行株にも影響している。

・シンガポールは人口550万人の都市国家で、面積も東京23区と同じくらいである。小さいといえば小さいが、いろいろ見て回るとそれなりに広い。名目GDPは3000億ドルで、人口1億人のフィリピンをやや上回り、人口3000万人のマレーシアに近い。一人当たりGDPは2014年で5.6万ドルと断トツで、マレーシアの1.1万ドル、フィリピンの0.3万ドルを大きく上回る。日本が3.6万ドルであるからそれよりはるかに高い。

・9月に5日間ほどシンガポールに滞在して、いろいろ見聞した。何度か訪問したことはあったが、住んだことはないのでとにかく歩いてみた。日系企業1100社が進出しており、日本人も3.7万人が働き生活している。中華系が人口の74%、マレー系13%、インド系9%、という人口構成なので、どこでも中国語が聞こえてくる。英語も公用語であるが、マレー系はマレー語、インド系はタミール語を話している。いずれも公用語である。

・市街のフラトンホテル前のバス停から郊外のカトンへ向かう。事前にバス停で調べて、現地の人にも聞いてみた。が、観光客が路線バスに乗るのはなかなか難しい。バスに乗っても、バスの中にバス停の表示がない。地元の利用者は状況が分かっており、停車ボタンを押しているが、当方は外の景色がわからない。運転手は、次は停車場所を案内しない。仕方なく途中で降りる所を伝えたので、そのバス停で止めてくれた。20分くらいでカトンに着いた。予想外に早かった。

・カトンはプラナカン文化の街である。マレー系が多い。プラナカンとは中国系、インド系の移民の子孫がマレー系と結婚した人々で、独自の融合文化を作ってきた。プラナカン博物館に行くと、刺繍やビーズに特色があって、実に鮮やかである。

・バス停のそばのSC(ショッピングセンター)のようなビルに入ってみると、職業紹介所がずらりと並んでおり、マレー系、フィリピン系の女性たちが大勢いた。赤ちゃんのおむつの取り換え方の練習をしている部屋もあった。シンガポールに出稼ぎにくる人たちがこういうところで訓練を受けて、仕事に就いていくものとみられる。

・カトンの中心駅であるパヤ・レバは、チャンギ空港と繋がっている電車の途中の駅で、高層ビルが建ち始めており、これから大きく発展しようとしている。そこから都心の方向に向かい、アラブストリートのあるブギス駅で降りる。ここはもっと発展しており、日本企業が買収したサービス会社の店舗もあった。都心は地下、途中から地上を走る電車の沿線は開発が進んでおり、それぞれが駅を中心に発展し、その周りにオフィス、商業、住宅が形成されている。

・シンガポールはすでに出来上がった都市国家であるが、都心での高層ビルから周辺へ、スプロール化が一段と進んでいる。不動産ビジネス中心の都市形成であるが、今後とも伸びる余地は十分にある。

・ez linkというカードを購入すると、電車でもバスでも乗れる。初期費用も入れて50ドルをチャージした。日本のパスモでいえば4000円をチャージした感覚であったが、これがほとんど使い切れなかった。バスも電車も、とにかく安い。シンガポールはタクシーも安いので、ふつうの観光客やビジネスマンはタクシーを使う。地下鉄も便利で安い。バス路線は発達しており、都心で働く人々を周辺地域へきめ細かく結んでいる。

・ネットを活用した新しいバスシステムが9月からスタートした。しかし、バスの中、バス停での表示・案内という点では十分でないと感じた。もしこれをすべてスマホだけで対応するのであれば、それは徹底した方法ともいえるが、全体の表示方法には改善の余地が大きい。バスの料金システム、運行システムは日本の企業も担当しているので、今後の展開に注目したい。

・マリーナ・ベイ・サンズとセントーサ島はどちらも観光の目玉であるが、これまでゆっくり見たことはなかった。SC、ホテル、レジャー、リゾートを一体化した複合施設であり、都市国家の魅力を高めている。ガーデンズ・バイ・ザ・ベイにある巨大な木をイメージしたスーパーツリー・グローヴは、ユニークで発想が面白い。このツリー間に架けられたスカイウェイは地上22メートルの渡り橋で、下が見え、少し揺れるので足がすくむ。巨大な3本のビルの上に舟形をした造形を乗せたマリーナ・ベイ・サンズは、地上200メートの屋上からシンガポールを360度見渡せる。

・セントーサ島のUSS(ユニバーサル・スタジオ・シンガポール)は、アジア初のUSである。日本のTDLやUSJを見ているので珍しくもないが、シンガポールに来た中国やアセアンの観光客にとっては楽しみの1つであろう。ただ、施設の管理、サービスの仕方を見ると、日本のレベルとは比較にならない。

・2つのカジノへ出かけてみた。マリーナ・ベイ・サンズのカジノは、規模は大きいが、金曜日の昼間ということもあり、中はガラガラ、客は中国人中心で、ルーレット、スロット、大小、バカラ、ブラックジャックなどを楽しんでいる。何かけだるい感じが漂っている。

・マリーナ・ベイ・サンズのカジノは中国語で「賭場」、セントーサのカジノは「娯楽場」と表示してあり、日本語感覚ではイメージが随分違う。セントーサの方が先にできたので、サンズの方は賭場色を強めたのかとも感じた。セントーサの方は少し明るいように感じたが、ルールは同じで中国人がほとんどである。

・少しだけ体験してみた。ルールをよく知っているルーレットをやってみた。両替場で現金をチップに換えた。1枚10ドルからである。1枚を赤へ、1枚を数字列へというケチくさいかけ方から始めた。トレーダーはポーカーフェイスながらあきれ顔で、当方は二人でポツポツやっていると負けない。

・途中から中国人の中年婦人が入ってきた。札束を出して、その場でチップに交換した。そんな風に張るのかというくらい、ピンポイントに幅広く賭けていく。本人には何か勝算があるのだろうか。しかし、1度もとれずに3回で全額を使っていった。さすが、中国人と思った。

・ルーレットを10回やると、1ラウンド終了。そこでやめてチップを換金した。元手より15%増えていた。普通はありえないことだが、今回は赤と黒でみると、10回中赤が9回出た。ここに8回赤をかけて、当たったのが効いた。ベイジアン効果とでもいえよう。

・この手のゲームで、客は中国人中心ということを考えると、日本でのカジノ運営は難しい。このタイプのカジノをモノマネ的に日本に作るというのなら、日本にカジノはいらない。欧米流のゲーム中心で、中国人相手、投機的遊びを助長するだけでは、中国人以外は来ないであろう。

・もしカジノをつくるのならば、日本らしいイノベーティブなものがよい。日本が強いゲーム、アニメで大人が遊べるようにする。フィンテックを入れて、少額でも正確に遊べるようにする。それならば、大型のレジャー・リゾート施設に付設することも意味はある。但し、そのマネージを誰がやるのか。そこが課題である。できそうにないなら、カジノはいらない。

・シンガポールはアセアンのハブである。シンガポールに地域統括本社を置く会社も多い。しかし、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム、フィリピンを攻めるとなると、それぞれの国に拠点を作り、人材を発掘・育成し、また現地企業と組んでいく必要がある。今からアセアンを攻める日系サービス企業は多い。ジャパンテイストをどこまで出せるか。まさに人材マネジメントが鍵である。

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