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シニアからプロの腕を磨く

   2015.07.14 (火) 2:45 PM

・75歳からを後期高齢者という。この辺りから病気になる人が増えて、一人で生活することが難しくなることが多い。今は年金が65歳からになりつつあるが、将来は75歳くらいまでは元気に働いてほしいという時代になりそうである。

・若い時には自分の仕事に忙しく、金融について学ぶ機会が少なかったという人も多い。50歳を過ぎて、あるいは60代の定年になってから、株式投資を学ぶといっても遅すぎると思うかもしれない。しかし、そんなことはない。シニアから株式投資のプロの腕を磨くことは十分できるのである。

・プロといってもいろんな投資家がいる、若くしてデイトレーダーを本業としている人、大手の投資運用会社でファンドマネージャーをやっている人、事業家でありながら株式投資に熱心な人など多様である。そこで、まず自分はどんな投資家になりたいかをイメージしてみよう。

・1)自信はないが、自分で投資判断をして投資してみたい、2)よく知られた大物投資家のようになりたい、3)特に尊敬する人はいないが、慎重に着実に投資したい、4)せっかく投資するなら、時に思い切って勝負することがあってもよい、5)自分ではよくわからないので、誰か信頼できる人に全部お任せしたい、などいろいろな考えがあろう。

・まずは自分の人生を振り返って、一番の決断は何であったかを思い出してみよう。人生で重大な決定をした時に、何を最も重視したか。何か偶然に流されたという人もいよう。それでも自分なりには必死に考え、その上で決断をしたはずである。何か自分なりの根拠を持って、納得したはずである。それがうまくいった場合もあれば、いまだに後悔していることがあるかもしれない。そういう決断に比べて、株式に関する投資判断というのは、随分性格が異なる。訓練して、腕を上げていくことができるからである。

・すでに株式投資の経験をある人は、①うまくいった時は、読みが当たったのか、予想しないことがいい方向に作用したのか、②うまくいかなかった時は、同じように何が原因であったのか、を考えてみてほしい。予想したことが外れた場合、なぜ外れたのだろうか。予想しないことが起きた場合、なぜ予想できなかったか。それは、本当に自分の判断による責任だろうか。何か言い訳がしたくなる。しかし、くよくよ後悔しなくてもよい。

・これから株式投資をやってみようと思う人は、1)その会社の社長と同じ気持ちになれるか、2)顧客としてその会社の商品やサービスを素晴らしいと感じるか、3)もし尊敬する人がいるとすれば、その人の何が優れていると思うかを考えてほしい。その上でもう一度、自分はどんな投資家になりたいかを問うてみたい。

・資産運用のプロにはどんな能力が必要なのだろうか。しばらく前に、プロのファンドマネージャーであった依田孝昭氏と話したことがあった。彼が書いた本「外資のアセットマネジメント」には、プロに求められるいくつかの必要条件があげてあった。①意思決定ができる判断力がある、②論理的なものの考え方ができる、③間違いを恐れない、④間違いは素直に認める、⑤旺盛な知的好奇心を有する、⑥他人の意見を聞くことができる、⑦思考の柔軟性がある、⑧精神的なタフさを有する、⑨実行力がある、という点である。

・なるほどと思いつつ、よく考えてみると、これは普通のサラリーマン、キャリアウーマンにとっても当り前に必要なことである。何らかの組織で10年、20年、30年と働いたことのあるシニアなら、仕事のおけるこのあたりの厳しさや必要性はよく分かっていると思う。それができない人と一緒に仕事をして、人間関係で悩んだことも多いと思う。長い人生でさまざまな苦労をしてきたので、思い当たることがいろいろあろう。そう考えると、個人差はあるとしても、プロの腕を磨くのに特殊な才能が必ずしも求められているわけではない。

・事業家であり、個人投資家でもある竹田和平氏は、「徳」のある投資を心がけよ、とよく言っていた。徳というと難しそうであるが、そう深刻にならなくてよい。徳には仁義礼智信などがあるが、人としての大事なことを踏まえて、その視点で投資する会社をみていけばよい。竹田氏は、1)株主になれば、自分で事業をしているのと同じである、2)将来への確証はないが、頑張っている会社を見つけて長期的に育てていくという気持ちを持つ、3)この投資が会社を通して世の為、人の為になるかを考える、4)過去の成功体験や人情といったしがらみを取り払って自分で判断する、5)1社がダメでも他の会社でカバーするように積極的に攻める、という点を強調した。感謝の心を忘れずに、徳のある投資を心がける。そうすると、投資の腕が上がり、成長への道が開ける。投資をしてワクワクすることが、投資の原点であるという。確かに共感できる。

・大事なことは、自分で判断することである。そのために、何らかの判断材料が欲しい。専門家を活用してもよいが、頼りすぎないことである。将来を予測するのは難しいが、その範囲を広くとれば、予測の蓋然性(確からしさ)は十分考えることができる。人の意見を聞いて、当たったか外れたかで判断するのは得策でない。但し、自分の見方と違った予想外のことが起きたら、さっさと出直しの行動をとるべきであろう。

・会社を見る時には、ビジネスモデルをはっきりさせ、納得できるように心掛ける。ビジネスモデルとは、企業価値創造の仕組みであり、「儲ける仕掛け」である。どうすると儲かるのか、そのためにどのようなリスクをとっているかを知っておくことが大事である。会社の話を聞いた時には、①社長の経営力、②事業の持続力・成長力、③組織としてのリスクマネジメント力について、自分なりに評価してみる。難しくはない。1)A社、B社、C社と、3社以上を比較してみる。2)同じ会社について、前回と今回と違いは何かを比べてみる。そうすると、経営力、持続力・成長力、リスクマネジメント力が何となく分かってくる。そういう視点で会社を見ることが、次第に身についてくるからである。

・次に株価を見る。その時には、①まずROEの水準を見る、②次にPBRを見る、③そしてPERをみる。通常、株価はすでに妥当な水準にある場合が多い。そこで、EPSが大幅に下方修正される可能性を検討する。その上で、長期的に利益が2倍、3倍になりうるかどうかを判断する。よくわからない時には急ぐ必要はない。機会を見つけて会社の話を聞きながら、判断できるまで待てばよい。

・人は合理的であることを求めているが、時として非合理的で感情的になる。しかし、怒ったり、嘆いたりする必要はない。自分の儲けだけを考えて一喜一憂しても、ストレスが溜まるだけである。「人々には好機を逃すことで、リスクを回避している」(ロバート・シラー)という見方がある。「会社にも冬眠すべき時がある」(堀場雅夫、堀場製作所創業者)という名言もある。“投資にも休む時がある”というゆとりを持って、中長期の視点で構えていれば、タイミングをとらえることができよう。

・自分の知っていることは、人も知っていると考えておいた方がよい。投資は美人投票である、人を出し抜くことが常套手段である、という見方に与する必要はない。なぜなら、企業は新しい価値を創造していく。そういう企業に投資しておけば、価値創造のリターンは株主にもしっかり返ってくる。信頼できる企業を応援していくことで、プロの腕を磨くことが十分できるのである。

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