ホーム > ブログ一覧 > カーボンニュートラルに向けた成長戦略

カーボンニュートラルに向けた成長戦略

   2021.05.06 (木) 11:41 AM

・野村アセットマネジメント資産運用研究所では、ESG投資に関わるセミナーを継続的に催している。そのセミナーに参加して、識者の意見を拝聴していると、新しい動きがみえてくる。

・カーボンニュートラルに対するメガトレンドが、全く新しいステージに入ってきた。従来のイメージだと、世の中の課題に対して、それが深刻化してくると政府が重い腰を上げて、経済界の反対にあいながらも規制を強化し、インセンティブをつけて、生活者や働く人々を味方につけていく。

・その中で、企業が前向きの活動を始め、そこでようやく投資家もついていく、というイメージであった。この流れが、この10年は、投資家が他のステークホルダーに遅れることなく、むしろリードする形で、社会的課題へのソリューションに取り組む動きが顕在化している。

・従来型のリスク・リターンではなく、もっと社会的インパクトを重視する。新しい投資スキームでNGOのニーズにも対応していく。投資家を動かす方が、企業の戦略変更にも近道である。こうした傾向が高まっている。

・建前として社会的価値といっても、所詮は経済的リターンを優先して、これが成り立つところしかやらない、という金融の仕組みから、社会的インパクトが本当にあるところに、経済的価値も両立するようにビジネスモデルを創っていこうとしている。

・投資資金がバリューチェーンをどのように流れていくかを、公正かつ透明に見える化していく。それができると、広義の投資パフォーマンスの納得性が高まってくる。そのようなビジネスに資金が集まって、事業が発展していく。関わっている人々のやりがいも大いに高まる。

・リスクのオン・オフ、有事対平時という二項対立ではなく、テールリスクや不測の有事も想定において、投資環境を中長期でみていく視点を共有したい、というニーズも高まっているようだ。

・このような認識の下に、昨年12月に経産省が出した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を再考してみたい。中長期の投資アイディアがいろいろ沸いてこよう。

・地球温暖化を防ぐことは、経済への制約やコストではなく、成長の機会と捉える時代に入っている。そのためには、ビジネスモデルを根本から見直していく必要がある。

・2050年カーボンニュートラルに向けたグリーン成長戦略では、1)電力部門の脱炭素化、2)産業や家庭での電化、蓄電を基本とする。2018年で日本は10.6億トンのCO2を排出しているが、これを2030年で-25%、2050年で-100%に持っていく方針である。容易ではない。

・再エネなどの脱炭素電源を増やし、CO2の回収を最大限図り、新しいエネルギー源も大いに活用していく。回収したCO2はどのように処理するのか。原子力発電はどこまで利用するのか。蓄電池の活用はどのくらい当たり前になるのか。全く新しい社会生活の基盤が形成されてこよう。

・こうしたグリーン戦略の遂行を、現在の産業連関に入れて試算すると、2030年で年間90兆円、2050年で同190兆円の経済効果がある、と経産省はみている。波及効果が大きいというのは確かであろう。

・この戦略を遂行するには、1)R&D投資、2)実証投資、3)導入拡大投資、4)自立商用投資が必要である。政府の基金、民間の協調投資、規制や標準化の推進、民間ベースの自立的商用化が、それぞれのフェーズで進められよう。

・政府は、1)グリーンイノベーション基金を用意し、2)カーボンニュートラルに向けた税制インセンティブも創設する。金融分野では、3)脱炭素に向けたイノベーション、ファイナンス、低炭素化に向けたトランジション・ファイナンス、4)10年以上にわたる長期計画推進のための長期ファイナンス(成果連動型利子補給など)に加えて、5)TCFDをベースにした情報開示が必須である。

・規制改革・標準化では、1)カーボンプライシングなどのメカニズムをどのように活かすのか、2)排出量取引の市場は機能するのか、3)炭素税は公正、公平に導入できるのか。4)CO2対応の国家間取引に公平な関税(国境炭素税)が設定しうるのか、などがテーマとなろう。

・2050年に向けての成長分野として、本レポートでは14の産業をあげている。まず全体を3つに分けて、1)エネルギー関連産業、2)輸送・製造関連産業、3)家庭・オフィス関連産業とした。

・2030年までの10年で伸びてくるのは、エネルギー関連では、①洋上風力(風車本体、部品、浮体式風力)、輸送・製造関連では、②EV、FCV、次世代電池、③データセンター、省エネ半導体、家庭オフィス関連では、④次世代型太陽光(ペロブスカイト型)とみている。

・2050年までみると、エネルギー関連で、⑤燃料アンモニア(発電用バーナー)、⑥水素(発電タービン、水電解、運搬船)、⑦原子力(小型炉心のSMR)が注目される。

・輸送・製造関連では、⑧船舶(新エネルギー)、⑨スマート交通・物流ドローン・FC建機、  ⑩スマート農業、⑪ハイブリッド航空機、⑫カーボンリサイクルが期待される。

・家庭・オフィス関連では、⑬バイオ・再生・廃棄物発電、⑭地域の脱炭素化ビジネスがあげられる。

・多くの企業にとってビジネスチャンスはありそうだが、カーボンニュートラルに向けたグリーン成長戦略をものにするのは容易でない。成長領域とわかっていても、イノベーションで先行し、ビジネスモデルに仕上げるにはかなりの先行投資が必要である。

・それを担う経営力が勝負となろう。しかも、この分野はグローバルな競争が強いられよう。オープンイノベーションが重要になるので、ベンチャー型企業にもチャンスがあろう。こうしたメガトレンドを視野に入れて、イノベーティブな企業に注目していきたい。

 

Blog Category