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よい経営を見抜く10の対話~どんな質問をしたいか

   2016.02.15 (月) 10:59 AM

・IRの場で通常聞くのは業績の話である。この四半期はどうだったのか。次の四半期はどうなるのか。足元の月次データはどんな動きか、など気にしだすときりがない。

・では、中長期の話を聞こうとしても、会社のビジョンや中期計画を杓子定規に説明されるだけでは、言っていることが分かっても、腹落ちはしない。なるほど分かった、納得したとはなかなかならない。

・筆者の長年の経験では、次の10の質問を社長やIRの責任者にしてみたい。そうすると会社の組織能力や、対応してくれる会社側の人物像がよく分かってくる。

・社長なら何でも答えられそうだが、そうでもない。IRの責任者は立場上、1)知ってはいるがしゃべれないこと、2)そもそも知らないので答えられないこと、がある。その時、質問に対して、答えられないと言ってはいけない。会話がストップして、不安感や不信感だけが残ってしなうからである。質問者の意図をよく勘案して対応することが求められる。

・Q1 :「どういう会社になりたいか。社長は自分の言葉で語っていますか。」企業価値創造のストーリーには、必ず社長の思いが入ってくる。その社長の思いは必ず自分の言葉で話すはずである。そこに、その会社固有の表現が入ってくる。投資家はそこを聞きたい。IRの責任者は、社長になり替わって、ここを滔々と語ってほしい。

・Q2 ;「M&Aを実施した企業をマネージできる仕組みはありますか。」M&Aなど一度もしたことはないし、その予定もないという会社でも、オープンイノベーションでいろんな会社と組んでいく可能性がある。M&Aは経験なので実績がものをいう、というだけでは不十分である。シナジーをどのように創出していくのか、そのリソースと方法について実効性を問いたい。

・Q3 :「投資家の声を取締役会に報告して議論していますか。」IRミーティングではさまざまな質問や、会社に対する要求が出される。投資家が勝手なことを言っている、困ったものだ、何とか軽く往なしておこう、というその場しのぎではなく、何故そのような要求が出されるかについて、よく吟味をした方がよい。それを社長や財務担当だけでなく、事業担当の役員も自分の身になって検討するという姿勢が大事である。

・Q4 :「今持っている投資採算基準を上げたら、何が起きますか。」事業の投資採算を考えない企業はない。儲かると思って投資をする。その時の基準について、もう一段厳しくしたらどうなるかを聞きたい。基準を上げたら、儲からないのでやめるとか、基準を上げるという問いが無意味であるという答えを聞きたいわけではない。投資に対してどのくらいのリターンを要求しているか、そのリターンを評価する基準をどこにおいているのか。その時、資本コストをきちんと考えているかを知りたいのである。

・Q5 :「社長は後継者をどのように選んでいますか。」創業者で20年間社長という人もいれば、大企業では4年できっちり交替していく人もいる。普通、社長は後継者を自分で選びたい。当然であろう。しかし、サクセッションプランをきちんと作って、社長一人以外の別の仕組みで、選任プロセスの客観性を高めるというやり方が広がりつつある。企業の置かれた局面によって、次の5年、10年の経営を担う人材は異なる。社長の交替が企業価値の持続性に関する信頼をどう担保するのか。そこを知りたい。

・Q6 :「今、どんなイノベーションに取り組んでいますか。」イノベーションは狭い意味の技術革新ではなく、広義の仕組み革新である。すぐできる場合もあれば、10年かかることもある。できそうもないことを実現するのがイノベーションである。他社がすぐに真似できないような、組織としての強みになるものである。今もっている強みもいずれ色あせてくるので、次の準備が必要である。

・Q7 :「部下が上司に意見をいえるカルチャーがありますか。」ピラミッド型の組織だと、官僚的になって上位下達となり。自由に発言できない会社もある。一人ひとりの提案を否定せずに、聞く耳を持ち、闊達に議論し、アイディアを活かそうとする会社は外からみていてもいきいきしている。その上で、リーダーシップを発揮し、提案を実行に移すことが求められる。

・Q8 :「もうからない事業をどうして続けるのかですか。」かつては儲かっていたが、今は儲からなくなった事業、循環的局面で今だけ不採算になっている事業、スタートしたばかりでまだ儲かっていない事業などいろいろある。そこで、儲かってないという基準をはっきりさせた上で、どうするのか。そこで働く社員もいるので、迂闊なことは言えない、というのが普通である。しかし、価値破壊事業を続けることはできない。それが主力事業である場合、その会社の存立に関わる。でも、絶対的な危機に追い込まれない限り、抜本的に手を打たないという習性では困る。その方策を聞きたい。

・Q9 :「KPI(重要経営指標)を社内の現場までどのようにつなげていますか。」わが社は予算をきちんと作っているので、それを積み上げていけば、KPIの達成に結びつく。よって、ROIC、ROEという指標は本社がもっていればよく、現場は別に管理していく、という会社が多いかもしれない。しかし、それでは企業価値創造のプロセスを共有したい投資家からみると、全く不十分である。もっとマテリアリティ(重要性)とコネクティビティ(連結性)を上げて会社を動かしてほしい。

Q10 :「業績にマイナスとなる悪い情報がすぐに上がってきますか。」世の常で、いい話はトップにすぐに上がってくるが、悪い話はそれぞれのポジションで何とか手を打とうとする。それがマネジメントであるが、得てして手遅れになることも多い。まして、隠そうとする文化が蔓延るようでは、時として深刻な事態を招く。悪い情報が上がってくる仕組みと文化を持っているかどうか、トップの姿勢が問われる。

・この10項目について議論をしたら結構時間がかかろう。しかし、これらの問いに、自分の会社の仕組みを踏まえて、自分の言葉で語ることのできる会社は、よい会社である蓋然性が高いとみて間違いない。筆者は会社説明会や個別インタビューで、こうした質問を取り交ぜていく。IRの責任者には、ぜひこれらの内容について吟味して頂きたいと願う。投資家としては、こうした問いを自分で考え、会社にぶつけて価値創造企業を見抜きたいと思う。

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