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『追われる時代』の政策~雇用を増やす企業に注目

   2017.04.04 (火) 3:43 PM

・久しぶりにリチャード・クー氏(野村総合研究所主席研究員)の話を聴いた。独自のバランスシート不況論を軸にしながら、最近の政治経済情勢を読み解いている。そこから考えられる投資戦略について検討したい。

・トランプ大統領はなぜ当選したのか。東海岸と西海岸発の論調が見事に誤った。フライオーバーピープル(flyover people:飛行機で飛び越えてしまう中部の人々)を見逃した。米国の強いところばかりを見て、米国の弱いところ、見捨てられたところに目を向けなかった。トランプはここをフォーカスし、大統領になってからも有言実行の姿勢を貫こうとしている。根強い一定の支持者を掴んでいる。

・トランプ大統領の政策、①インフラ投資、②規制緩和、③税制改革は、お題目として全く正しいと、クー氏はいう。米国はバランスシート不況からまだ立ち直っていない。つまり、貯蓄投資バランスからみて、企業と家計がお金を使うようになっていない。リーマンショック後の最悪期からは改善しているが、十分でない。こういう局面では、政府がお金を使うのは正しい政策であると強調する。

・しかし、保護主義の外交政策は限りなく危ういと懸念する。1930年代のネオナチの台頭を招いた時のような、保護貿易が再来するのではないかという点が心配される。米国ファーストと保護貿易が、同じように欧州やアジアに広まったら、大不況になりかねない。

・EUはバランスシート不況がより厳しい状況にある。にも関わらず、財政健全化の制約(マーストリヒト条件、財政赤字GDP比3% 以内)を盾に、財政政策を十分使っていない。政策当局のトップクラスに、バランスシート不況論が理解されていないと嘆く。

・アジアでは、中国が拡張政策をとり、日本は難しい立場に追い込まれつつある。ここで、米国が内向きになるならば、日本は自己防衛力を高めざるを得ない。米国の軍事力強化、保護貿易政策の行方は注意深くみていく必要がある。

・世界経済をみると、先進国の企業サイドはどこも金を借りて投資をするというマクロ的動きには入っていない。つまり、いくら金融緩和を行っても、投資を促進するという効果は十分出ていない。量的緩和で株式市場だけが喜んできたが、実態経済には火がついていないという見方だ。

・日本の資金循環をみても、企業も家計も貯蓄を優先している。バブル後の不況、デフレ経済、リーマンショック後の苦しみに懲りて、民間はなかなかお金を使わない。よって、日本においても、政府がもっとお金を使う必要があると、いつものように指摘する。

・先進国はもはや「追われる時代」に入ってしまった。かつての黄金時代から追われる時代への転換、というのがクー氏の見立てである。産業が発展して設備投資が拡大し、生産性が向上する中で、勤労者の所得が上がってくる。これが需要を押し上げるというルイスの転換点を越えてくると、経済は黄金期に入る。この局面では政府は小さいほどよく、中央銀行の金融政策はインフレ抑制に目配せすればよい。

・しかし、追われる経済にはいると、輸入が入ってきて、生産は海外へシフトし、賃金は上がらなくなる。物価も上がらず、インフレにはならない。設備投資のニーズは減ってくるので、金融政策は効かなくなる。

・先進各国は、いずれもこうした追われる経済に入っているので、投資が十分顕在化しない。一方で金利は低く、安い金利が使えるので、政府が公共投資を行えばよい。そこそこの投資効率を考えれば、投資案件はいくらでも出てくるのではないか。

・では、米国はなぜ金利を上げてくるのか。インフレ抑制への早めの対応と、商業用不動産の上昇が目立っていることへの対応であると、クー氏はみている。

・企業にとって、お金を使わない経営はいいことなのだろうか。フリーキャッシュ・フローがプラスになり、それが続けば、配当や自社株買いを進めることは合理的である。が、やはり将来に向けて投資を拡大してほしい。十分な投資案件のない企業は魅力に乏しい。

・トランプ大統領はフライオーバーピープルにフォーカスしている。国境の制約が強まってくるのは間違いない。しかし、雇用を作るにしても、生産性の向上が見込めなければ、その雇用は長続きしない。

・AI、IoT、ロボットの時代にあって、それらの先端技術を活用しつつヒューマンキャピタルに投資する会社は、良い会社になる可能性が高い。やはり、雇用を増やす企業が良い会社である、という原則は重視する必要があろう。

・政府がお金を使うという政策は、バランスシート不況のもとでは必須の要件である。しかし、政府の使うお金に無駄はつきもので、資本効率はよくない。民間の投資に期待したい。ヒューマンキャピタルへの投資が、次の時代を担う企業づくりの根幹である。まずはグローバルに雇用を増やす企業に注目したい。

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