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ESG情報の基準はどこに

   2021.02.01 (月) 4:32 PM

・ディスクロジャー&IR総合研究所(宝印刷)の調べによると、2020年3月期の有価証券報告書(日経225平均株価採用企業)186社中65%の121社にROEやROICの記載があった。資本効率についての記載が3年間で4割増えているという。これは財務情報であるが、ESGなどの非財務情報についても、その充実が一段と求められている。

・実際、2020年のスチュワードシップ・コード(SSC)の再改訂では、機関投資家は、ESG要素を含む中長期的な持続可能性(サステナビリティ)に基づいて建設的な対話を行い、企業の中長期的な価値向上を促すべし、という内容が明示的に盛り込まれた。ESGに関する情報が一段と重要になっている。

・海外の運用会社では、株式運用に関わる議決権行使において、ESG情報の開示が十分でないと、総会議案に反対するという方針を出しているところもある。Eでは温暖化ガス、Sではサプライチェーンにおける人権、Gでは取締役の属性や報酬など、運用サイドが納得できる開示を求めている。

・株式だけでなく、債券投資においてもESG債の発行が増えている。環境対応、感染症対応などのESG債、サステナビリティ債の発行は、企業サイドに有利な発行条件でも投資家に受け入れられている。投資家サイドがサステナビリティへの貢献を評価するからである。

・ESG投資に役立つESG情報とは何か。さまざまなニーズがあるが、どこまで広げて深堀りすればよいのか。投資家が多様なうえ、それ以外のステークホルダーからの要求もあって、限りがないようにみえる。どこまで意味ある使い方がなされているのか。こうした声は高まってきた。

・非財務情報を求める報告フレームワークがグローバルに乱立して、企業にとっては負担が重くなっていた。そこで、2020年9月に、世界の5つの団体がこれまで独自に活動していた非財務情報、ESG情報、サステナビリティ情報の開示について、統一的な行動をとると表明した。

・財務情報と非財務情報が適切に関連付けられるように、包括的な企業報告(comprehensive corporate reporting)の基準作りを目指そうというものである。5つの団体とは、CDP、CDSB、GRI、IIRC 、SASBである。

・1)CDP(前身はカーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)は、温室効果ガス排出削減、水資源保護、森林保護など、環境関連のNGOである。2)CDSB(クライメット・ディスクロージャー・スタンダード・ボード)はCDPなど8団体のパートナーシップで構成され、気候変動に関する情報開示の標準化を目指している。3)GRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)は、サステナビリティに関する報告書の基準を作り、その理解促進を促ししている。

・4)IIRC(国際統合報告協議会)は、統合報告のフレームワークを策定している。5)SASB(サステナビリティ会計基準ボード)は企業が財務的にマナリアルな(重要な)サステナビリティ情報を業種別に特定し、企業が活用し投資家に伝える活動を展開している。

・各機関は、それぞれのスタンダード(基準)を作り、それを啓蒙してきた。企業にとっては、異なる基準でさまざまな要求が出される。投資家サイドからみると、情報が多種多様で必ずしも十分活用されていなかった。そこで、包括的に統合するという動きが顕在化した。

・その後、2020年12月に、包括的企業報告のプロトタイプとして、気候関連財務開示基準に関する企業価値報告(reporting on enterprise value)が出された。企業価値を引き出し、作り出すサステナビリティの重要項目を特定して開示するという観点で、5団体に最も共通している気候変動を取り上げて、その包括性・統合性を議論したものである。

・サステナビリティレポートと、サステナビリティ関連財務情報開示は、相互に関連しているが、範囲が異なる。企業価値向上に関わる財務情報といえば、通常の財務会計の領域で、これがスコープ1である。

・次に、企業価値に関わる中で、従来の財務情報を超えた非財務情報について、ESGをベースにサステナビリティを追求し、その情報開示を求めるのがスコープ2である。

・さらに広くサステナビリティを捉えたものがスコープ3である。環境、社会、経済など、企業の枠を超えた人類、地球に関わる内容を含む。政治的な役割も重要で、各国の政府あるいは国際機関の活動も入ってくる。ここでの共通価値の認識、利害調整のあり方は極めて重要であるが、個別企業の範囲を超えている。

・先進的な企業では、統合報告書において、既にスコープ1とスコープ2を包括的な企業価値創造活動として記載しているが、今回はスコープ2とスコープ3をより明確にして、グローバルに透明性と比較可能性を高めようという狙いがある。

・さらに、ESGの内容で何かがマテリアル(重要)かという点は、経営環境の変化や時代認識の進展によって異なってくる。スコープ2とスコープ3は、その内容をみるとダイナミックに変化してくる。つまり、時間とともに変化するものであり、固定的ではないという意味である。

・一方、同じ時期の2020年9月に、IFRS(国際会計基準)財団は、サステナビリティ報告に関するコンサルテーションペーパー(意見を求める報告書)を出した。ESGなどの非財務情報について、財務会計基準と同じように何らかの世界標準を作るべきではないか。その母体としてIFRSが活動するのはどうか、というものである。

・これに対して、日本からは9団体(経団連、公認会計士協会、アナリスト協会、東証、金融庁、経産省、法務省など)の連名で、提案に賛成すると11月に公表した。今後、議論が深まることになろう。

・いつものことではあるが、どんな組織においても利害がからむ。国際的な組織運営において、1)誰がリーダーシップをとるのか、2)コアのメンバーは誰になるのか、3)どんな議論を経て基準が決まるのか、4)その基準が企業経営にどう影響してくるのか、5)投資家の意見はどこまで反映されるのか、などが注目される。

・企業サイドとしては、自らの企業価値向上を進めるにあたって、サステナビリティ(持続性)を追求するのは当然である。そのためにESGを強化して、自社の強みにしていくことが求められる。

・決められたから実施するのはではなく、常に先進的に取り組んで、そのための仕組み作りを投資として捉えてほしい。投資であるから、当然リターンを得ることが目的となる。その実行戦略を投資家にみせてほしい。

・投資家は、サステナビリティを織り込んだバリューレポーティング(価値報告)の国際的動向に注目しながら、その変化を先取りして企業経営の変革に取り組む企業に投資したい。今後5年の新しい投資テーマとして実践したい。

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