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求められるエンゲージメントのあり方~監査の視点から

   2020.03.15 (日) 4:52 PM

・監査法人の依頼で、社外監査役の方々に話す機会があった。筆者自身も2社の独立社外監査役に就いている。投資家、アナリストの立場かたらみた時、エンゲージメントについてどのような姿勢で臨んでいるのか。いくつかのポイントについて触れてみたい。

・6つの視点から議論を進めた。第1は、アナリストの役割の変質である。アナリストといっても多様で、その存在感は人によって異なる。企業アナリストは、産業・企業を分析して、業界予想や企業の業績予想を中心に行う。30年前のアナリストの姿である。

・次の世代の証券会社のセルサイドアナリストは、業績予想をベースに株価評価を行い、目標株価を算定し、株価の割安・割高をレポートする。運用会社のバイサイドアナリストは、ポートフォリオマネージャーのサポート役で、運用スタイルに合った企業評価を行う。

・世界にはさまざまなファンドがあるが、ファンドアナリストは、そのファンドを1つの会社のように見立てて、年金用、投資信託用、プライベートファンド用に分析して推奨を行う。そして、昨今、ESGアナリストやSDGsアナリストが脚光を浴びている。セクターを超えて、ESGやSDGsの観点から企業を分析し評価していく。

・上場企業はさまざまなステークホルダーと対峙することもあるが、いかに調和を図りながら、企業価値を上げていくか。その中で、投資家はどう位置付けられるのか。

・最も大事なことは、少数株主としての立場を損なうことのないように対話をして、企業の意思決定を行っていくことである。筆者のこの基本姿勢は、投資家であろうが、アナリストであろうが、監査役であろうが、全く変わらない。

・第2は、企業価値創造に当たって、日本企業に足らないものは何か、という視点である。CEOの気合なのか、将来ビジネスモデルの構想力か、それを実現するための実行戦略か。企業価値を上げるのは、第一義的に執行担当のトップマネジメントである。社外役員はそのサポート役に留まる。

・CEOはもちろん、企業の執行担当の幹部は、わが社の企業価値創造を自らコンパクトに語れるはずである。同時に、しっかり書き下ろしてほしい。これができそうでありながら、必ずしも十分でないと感じる。なぜ十分でないと分かるか。それは、企業価値創造の仕組みであるビジネスモデルについて、明確に語れないからである。

・今のビジネスモデルではない。次にこうしたいという将来のビジネスモデルと、それを創り上げるための戦略が投資家サイドに伝わってこないことによる。ビジネスモデルの構成要素はいろいろある。社内に足らないものもあろう。組織、人材、知財など、無形・有形資産などをどう構築していくのか。すぐに実現できないものもある。

・ないものねだりでは意味がない。挑戦し、試行錯誤が続くとしても、そのターゲットとプロセスを知りたい。CEOには、ビジョンを将来のビジネスモデルに具体化、実現させる力が求められる。CEOから、このパワーを感じたい。

・第3は、投資家サイドの課題である。パッシブ投資が広がっている。ESGやSDGsが重視されるようになっている。インデックス投資が急拡大する中で、アクティブ投資はどうなるのか。個別企業の中身をしっかりみるアクティブ投資が十分でないとすれば、企業価値創造を牽引する力が十分発揮されなくなってしまう。

・アクティブ投資は、インデックスに勝てない「敗者のゲーム」に成りやすい。インデックス投資に入っているだけで、それにスライドするだけでは、自社の企業価値が的確に評価されるとはいえない。最近、スマートインデックス投資が注目されている。ESGインデックスはパッシブながらアクティブな側面を確かにもっている。

・ピュア(純粋な)アクティブ投資は、インデックス台頭の中で、独自の情報を活かすことができるならば、チャンスがある。そのためには、従来とは異なるイノベーションで、コストをかけて高付加価値に挑戦していく。この動きもこれからいろいろ出てこよう。

・そうなると、プロとアマの違いはどこにあるのか。個人投資家はアマで、機関投資家はプロというのはあまりに形式的である。一方で、ESG投資なのだから、インデックスに負けても許容されるといえるのだろうか。FD(フィデューシャリーデューティ)の基本が問われよう。

・第4は、コーポレートガバナンスの改革は、パフォーマンスに結びつくのかという視点である。企業統治として認識されているが、その中身についてはCGC(コーポレートガバナンスコード)に明示されているとしても、経営者、投資家によって、さまざまに解釈されている。

・海外、M&A、新規事業の経営スタイルによって、グループ・ガバナンスをどう考えるのか。グループ・ガバナンスの弱さが守りのほころびになっている例も多い。親子上場も課題となっている。上場子会社に投資する少数株主にとっては、ガバナンスが十分働いていないという覚悟も必要である。

・攻めのガバナンスというが、独立役員が企業価値向上に役立つには、それが機能できるだけの仕組みに仕上げる必要があり、その上で、独立役員の資質が問われる。これから伸びる産業として、DXやSDGsが注目されるが、企業は本気で取り組んでいるのか。それらを自社の企業価値創造に取り入れて、儲かるようにできるかを投資家はみている。

・第5は、IR(統合報告)を中長期投資に活かすという視点である。カギは将来のビジネスモデルを描き、その実現に挑戦することである。日立製作所の統合報告書は、その中身が飛躍的に改善した。経営の実態を投資家とのエンゲージメントも取り入れて、改革している。実態が良い方向にあるので、統合報告書も充実してくる。

・統合報告書は会社が用意するベーシックレポートである。これに対して、アナリストは自らの深い分析によるベーシックレポートを出してほしい。

・ここから本格的な対話が始まる。投資家、アナリストの企業評価に当たっては、統合報告書に盛り込まれたESG、SDGsの観点も含めて、企業価値創造の評価を行うことが必須となっている。その時、ESGインテグレーションによる総合評価が有効であろう。

・第6は、対話の活発化に向けてやるべきことをまとめたい。FD(フェアディスクロージャー)に委縮することなく、企業情報開示の充実を図ってほしい。オープンイノベーションへの嗅覚も問われる。内部成長、外部成長を問わず、トラックレコードが組織能力の現われである。

・深い分析レポートは、それを通して会社の意思決定と五分になれる。ここまできて、本物のエンゲージメントができよう。その時、アクティビストといっても、敵対的か友好的かによって、その後の展開は異なってくる。

・付加価値をいかに創り出すか。KDS(経営デザインシート)を活用しながら、新しいデジタルデータ経営を求めて、労働生産性、資本生産性、デジタル生産を高めていくことを期待したい。

・社外監査役には、以上のような視点を確認して頂きながら、もっと外に出てほしい。自らの目でよく見てまわり、二人称としての対話を共同注視してほしい。そこには、もう一人の客観的な自分が必要である。

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