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日韓中の国際関係リスク

   2015.05.16 (土) 5:41 PM

・尖閣諸島問題、慰安婦問題など、双方の認識があまりにも違い、歩み寄れない課題が日中間、日韓間にはある。経済的には、日本企業が中国、韓国に進出して事業を活発に行っており、両国からの観光客は日本の内需にとっても大きな効果をもたらしている。しかし、政治外交問題が経済交流にいつ影響を及ぼすとも限らない。

・4月の読売国際会議で4氏のパネルディスカッションを聴く機会があった。「歴史問題と東アジア」をどう考えるか。戦後70年を迎える中で日本の活路をどう見出すのか、というテーマであった。さまざまな論点や立場があろうが、私がユニークという印象を受けた内容を中心に考えてみたい。

・鄭大均氏(テイ・タイキン、66歳、岩手県生まれ、首都大学東京特任教授)は、日本は韓国との関係において、いつも逃げてきたという。逃げの日本、攻めの韓国というアブノーマルな関係が常態化している。韓国は、北朝鮮との関係において反共であったが、その後経済が発展する中で民族ナショナリズムが高まり、今や反日が柱になったと指摘する。反日を基軸とするので、教科書問題、靖国参拝問題、竹島問題、慰安婦問題と、事態は次々にエスカレートしている。韓国の自己顕示が暴走しており、反日という日本バッシング行動が、実は韓国の退廃に繋がりかねない、ということを懸念している。

・石平氏(セキ・ヘイ、54歳、四川省生まれ、北京大学卒、2007年に日本国籍を取得、拓殖大学客員教授)は、中国の歴史観は2つから構成されているという。1つは、屈辱の近代史の禍根を晴らすことであり、もう1つは、歴史を外交カードとして都合よく使うことである。近代史の中で、中国は西欧列強に潰された。特に最も許せない国が日本で、とんでもない屈辱を味わった。何としてもその歴史的屈辱を晴らしたい、という思いが中国首脳の心の中にはあるという見方だ。かつて鄧小平は歴史問題を棚上げして、経済発展を優先し、日本からお金と技術を持ち込むことに成功した。

・しかし、経済が発展し世界第2の経済大国になると、歴史問題を全面的に出してきた。習近平国家主席は、3つの新しい国家記念日を制定した。①7月7日:1937年7月7日の盧溝橋事件、日中戦争の発端、②9月3日:1945年9月3日の日本降伏文書調印式、対日戦勝記念日、③12月13日:1937年12月13日の南京陥落、南京大虐殺事件である。これらの記念日は、制定されたからには取り消されることはない。つまり、歴史問題を手放さずに、永遠に続けていくという姿勢の現れである。

・もう1つは、歴史に対するご都合主義である。1989年の天安門事件は自国の歴史から抹消している。これを契機にイデオロギーの転換を図り、愛国主義を持ち出した。そうすると外敵が必要であり、反日教育を通して日本の歴史問題を煽るようになった。日本が中国を侵略し、中国はそれに抵抗し勝利したという大局的事実のもとで、それ以外の細かい学問的事象に対しては事実を曲げても全く気にしない。つまり、国内的にも対外的にも歴史認識は有効なカードであり、そのカードは絶対に手放さない、と石氏は強調する。よって、これに対して日本が謝ればよいという対応をとったとしても、実は何の意味も効果もないという。

・グレン・フクシマ 氏(65歳、日系3世、民主党系の米国先端政策研究所上級研究員、元米通商代表補代理)は、歴史問題について、米国では意見が分かれているという。法的な視点を重視する人は、さまざまな意見があってよいと容認するが、そのウエイトは10%程度。外交の視点を重視する人は、外交問題になるならば、解決すべきと考える。日韓は同盟国のはず。日中に緊張はあってもよいが領土で衝突するのはまずい。その時には米国が仲介する。このウエイトが60%程度。3つ目の人道的視点を重視する人は、戦争において日本は加害者であったはずで、それを東京裁判の再解釈をしようとでもいうなら、それは人権上大問題であるとみる。このウエイトが30%である、とフクシマ氏は強調する。ウエイトについては、彼の個人的判断である。

・北岡伸一氏(66歳、国際大学長、東大名誉教授、元国連代表部次席大使、安倍談話について検討する「21世紀構想懇談会」座長代理)は、戦後70年にあたって談話を出すとすれば、これまでの談話から逃げることなく、未来へのメッセージを出せばよいと指摘する。戦前の日本は軍国主義の中で、違法な侵略を行い、自滅の道を辿った。その後の70年は、海洋平和国家として発展してきた。この70年の歴史について認識し、未来へのメッセージを出すべきであるという。

・石氏は、中国のいう正しい歴史認識とは、中国が正しいと主張する認識の土俵に乗ることであるという。しかし、そんなものに乗る必要は全くなく、1945年以降の歴史に重点を置いて、日本の将来を語ればよいと強調する。

・北岡氏は、戦前の日本の歴史については、大いに反省すべきであるという。また、戦前、それぞれの国においてどんな事象があったのかは、学問として共同研究を続ければよい。現在の首相が1つ1つのことに謝罪する必要はない。謝罪というのは、当事者が相手に対して行うことであり、70年を経てそのことだけに拘る必要はないという。

・慰安婦問題はどうか。フクシマ氏は、韓国は効果的に国際社会に訴えているという。人権と女性という人道的立場を主張しており、今の米国では説得力があると指摘する。日本はどう効果的に反論するのか。日米での認識ギャップは著しく大きいと懸念する。これに関連して、例えば米国にくる日本の留学生はかつての4.7万人から1.9万人に減っているが、韓国は7.3万人、中国は29万人であるから、発言力の規模にも著しい差が出ている。

・北岡氏は、和解というのは外交努力である、努力は双方がしないと和解には至らない。ところが歴史的事実に関する合意ができていない。事実に立脚しないことには、和解はできない。まずは事実の積み重ねが必要であるという。

・石氏は、日本は曖昧なまま相手の言いなりになってしまうことが多いという。韓国、中国に対してもっと主張すべしと強調する。

・尖閣諸島はどうか。石氏は、中国の姿勢はそもそも歴史は利用するものと考えているので、日中間のギャップはとてつもなく大きいという。領土は絶対に守るという意思を明確に発信して、それを担保する抑止力を持つしかない。中国が信じているものは力なので、力で抑止する姿勢を見せるしかないという。

・靖国問題はどうか。これは2つに分けて考える必要がある。国内問題としては、昭和天皇がなぜ靖国に行かなくなったのか。その理由は、天皇の意向を無視して戦争に突き進んだ戦犯を合祀したからである。よって、北岡氏は一国の首相が靖国の参拝に行くことには消極的であってよいとみている。一方、外交的には、なぜ外交問題になったかをよく考えるべきであると石氏はいう。85年の中曽根首相の時に、中国側が外交問題にした。その時波風を立てたくないと中曽根首相は参拝を止めた。これで中国は味をしめた。つまり、外交カードとして使えるようにしてしまったのである。中国を無視して毎年行っていたら、外交カードにはならなかったので、靖国問題は今とは違っていたかもしれないと指摘する。

・安倍首相は、4月29日に米上下両院で、戦後初めて日本の首相として演説をした。そのスピーチで、グローバルとフューチャーについて語ることができるかが注目された。フクシマ氏は、オーストラリアのキャンベラで行った首相のスピーチは好評であったという。人権も含めた普遍的価値について語り、戦争を反省した後、70年間の平和的活動について語り、それを踏まえて未来への日本の姿勢と貢献を語れば十分評価されるはずであると指摘していた。9月に習近平国家主席は訪米するが、そこでどんな普遍的価値を語れるのか。確かに見ものである。

・石氏は、中国と日本に共通の未来はないので覚悟せよ、と警鐘を鳴らす。中国は過去の栄光を取り戻そうとますます力ずくで動いてくる。その中で、どうやって平和をキープするか。険しい道になりそうである。AIIB(アジアインフラ銀行)も新しい中華秩序を作るための中国の仕組みである。国有企業が海外ビジネスに進出するための道具でもある。日本が入る必要はないと強調した。

・4氏の提言をまとめると、1)世界を見た時リビショニスト(勝手に歴史を作り変える人)の国は、中国、ロシア、イランである、2)日本は後ろ向きに陥ることなく、前向きに普遍的な価値の共有について語るべきである、3)日本は覇権主義には加担しない、4)日本は中国、韓国以外のアジアの国と協調を図っていく、という認識の下で行動することが最善の道であろう。

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