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デジタルトランスフォーメーションのKPIはいかに

   2018.06.24 (日) 8:57 AM

・6月に催されたグローバルデジタルサミットに参加して、話を聴いてみた。テーマは、「シンギュラリティへの挑戦」であった。投資の視点からいくつかの注目ポイントをあげてみよう。

・ガートナー社のソンダーガート氏は、企業がデジタルビジネスをどう作っていくかにフォーカスした。データこそ企業が走る上でのガソリンである。しかし、顧客との結びつきであるインターコネクティビティが十分でないとみている。

・顧客の経験をどう取り込んでいくか。従来のサプライチェーンをエコシステムとみて、パートナーとAPIでつないで、デジタルプラットフォームを構築することが重要である。

・支配するのではなく、連携してリードしつつオーケストレーションをとって、全体最適にもっていく。こうしたプラットフォームビジネスを作るには、リーダーのマインドセットを変える必要がある。

・いかにつなぐか。従来のモード1から新しいモード2へトランスフォームさせるには、CEOが企業文化の重心を動かすしかない。今、これが問われていると強調した。

・IDCのデルプレテ氏は、新しいデジタルプラットフォームの台頭について話した。この10年で、FB、アマゾン、Twitterなどが登場し、プラットフォームの基盤はできてきた。デジタルトランスフォーメーション(DT)は始まったばかりで、顧客の経験はこれから変化してくる。ひいては、情報の中身も変化してくる。

・2020年以降、新しい時代が来る。今はまだ古いシステムを使っている企業が多い。従来型の競争ではなく、新しいエコシステムを作っていく必要がある。企業は、デジタル革命のKPIを設定して、それを推進すべきであろう。例えば、3年後のAI利用率30%とか、5年後にDT関連ビジネス比率が20%とか、新しい目標を掲げることが望ましいと強調した。

・テクノロジーは大きく変化し、1)AIは普通に使われるようになっていく、2)既存のアプリの大半は統合されていく。3)クラウドはスペシャルな部分は別にして、分散しつつもつながれていく、4)ブロックチェーン(BC)はさまざまな分野で使われるようになる、とみている。

・実際、AIは、人々の仕事を補完し、生産性を上げるように使われていく。手動を減らし、プロセスを自動化する。人々の判断をサポートし、問題が発生する前の予防に関する作業を自動化する。AIアプリがどんどん使われると、従来のソフトはかなりいらなくなる。

・BCはデータのセキュリティを高める。取引履歴の透明化が偽造を防ぐので、売買に革命が起きる。スマートコントラクトが当たり前になり、金融はもちろん、高級ラグジュアリーから食品、飲料、電子カルテなど、さまざまな分野でBCが使われるようになろう。

・この10年でDTが進む。これが企業のBMを変え、パワフルなAIが登場してこよう。仕事が新しくなってくるので、人々のスキルも入れかえていく必要がある。

・日本の大企業はどうするのか。日立の東原社長は、自社の社会イノベーションについて語った。DTのプラットフォーマーでは中国のスピードが速い。データの利用がカギであるが、新サービスとともに、AIシステムリスクなど、DTの影の部分にも手を打っていく必要があると強調した。

・日立の社会イノベーションは、デジタル+リアル、IT×OT(オペレーションテック)で展開する。例えば、日立が提供したコペンハーゲン(デンマーク)のメトロは、24時間無人運転、駅のセンサーで人流データを測り、列車の運行本数を最適化して、ピーク時には2分間隔で走る。

・この他にも、不良発生の未然防止アラーム、熟練技能のデジタルによるノウハウ伝承、癌の粒子線治療などにDTを応用し、デジタルビジネスを創り出していく。協創(collaborative creation)がカギである。

・NECの新野社長は、世界No.1の顔認証技術の応用を強調しつつ、DTがブラックボックスだけにならないように、プロセスと仕組みのホワイトボックス化に力を入れていくと述べた。

・それを通して、AIが人への示唆の高度化に役立つようにする。例えば、デジタルホスピタルの推進も興味深い。患者との会話、診断、治療、チームの連携、病院・クリニックのつながりなど、まさにさまざまな人々を包摂するデジタルインクルージョンに結びついていこう。

・富士通の田中社長は、これまで苦手であった分野のデータ化に先進的に取り組んでいると強調した。SNSや取引ログにあるグラフやデータは取り扱いが難しかったが、富士通はテンソル(数学)を用いて、グラフ構造のデータを学習するディープテンソルを開発し応用している。

・また、組み合わせの最適化で圧倒的強みを発揮するデジタルアニーラで、交通経路の最適化や癌の放射線治療の最適化で圧倒的なスピードと精度を実現している。

・米国ドロップボックス社のハウストンCEOは、エンタープライズ(企業)向けシステムをいかにセルフサービス型にしていくかが重要であると話した。セールスがいらない仕組みである。

・ツールはいろいろあるが、まとまっていない状況にあって、余計な作業はAIを通して自動化させる。いかにナレッジをまとめて、生産性を上げるかがポイントである。デザインも格好良くしていく。その場合、使うのは簡単だが、作るのは難しい。

・エンジニアリングには高度の人材が必要である。ベストの人材を集めるには、1)新しい技術にチャレンジする。2)世界にインパクトを与えるものに仕上げる、3)それを通してエンジニアが面白いと思う、という場を提供することである、と語った。まさに、いい文化を持つ企業に人は集まる。その通りであろう。

・かつて、コンピュータが普及して仕事のやり方が変わった。今AIが普及する中で、仕事の中身が変化していく。例えば、医者は、レントゲンを見て自分で判断する必要がなくなっていく。ほとんどの場合AIがやってくれる。画像診断という同じ作業は自動化できるからである。それでも、患者と向き合う医者の仕事はなくならない。ここが重要である。

・米クォーラ社のディアンジェロCEOは、共進化を強調した。AIは人と知識を共有しつつ、共に進化するという意味である。人類は20万年前に言葉を作り、そこから新たなる進化が始まった。600年前に印刷機を発明し、35年前にインターネットが登場した。次第に誰でも何でも表現できるようになってきた。それでもまだ限界がある。

・人の頭の中にある知識を、別の人の頭の中へ届けることはまだできない。この共有化をどう進めるかというのが、ディアンジェロ氏の起業の原点であった。AIを使って、Q&Aのプラットフォーム(Quora:クォーラ)を開発した。

・例えば、花と虫は共進化(コ・エボリューション)してきた。暖かい色が虫を引き付けるという習性が互いに働いた。同じようAIは進化する。人の知識の共有に役立つように、次世代のAIは開発されていこう。AIの進化は人と共にあるという見方である。

・米ドーモ社のハリントン氏の表現も印象的であった。データドリブンが、ビジネスを変えていく。リアルタイムデータが命ながら、普通の企業はこれができていない。「ほう・れん・そう」(報告、連絡、相談)はすばらしいが、やり方が古い。無駄な時間を減らして、働く人をいかにエンパワーするか。今、これが問われている。

・どの企業も社内にDTプロジェクトチームを作った方がよい。リーダーは社長である。そして、長期ビジョンと中期計画の柱にDT戦略を位置付けるべきであろう。そして、KPIを設定してほしい。投資家はそこを知りたいし、その中身について対話したいと願う。

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