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リスク要因に手を打てるか

・2024年の日経平均はどうなるか。史上最高を更新して、すでに4万円はみえており、次は5万円が射程に入ろう。その条件は、当然ながら企業の業績が伸びることにある。

・昨年12月末の日経平均は33464円、この時のPBRは1.30倍、PERは14.74倍、ROEは8.82%であった。3/1時点では39910円、PBR 1.52倍=ROE 9.0%×PER 16.8であった。

・株価はEPS×PERであるから、PERが15倍とすれば、EPSが年10%伸びると見込めるなら、3年で5万円が実現できよう。2024年は、3.6万円~4.3万円のゾーンで推移しよう。

・今後の変動要因は、1)為替、2)人手不足、3)戦争、4)天変地異、5)政争にある。昨年末の円ドルレートは141.4円であった。日米の金融政策からみて、円安はピークアウトしており、150円を大きく超える可能性は低い。

・むしろ、日米金利差の変化を織り込みながら、どこまで円高が進むのかに注目が集まっている。FRBの金融緩和が具体化し、日本のゼロ金利政策の正常化がスタートすれば、130円台の方向に進もう。

・どちらの金融当局もマーケットとの対話を重視しているので、マーケットにサプライズを与えないように動くはずであるが、読みと期待には絶えずギャップが生じるので、一時的な変動はありうる。

・日銀の異次元緩和からの正常化は、データとしてのインフレ率に対して、人々の期待インフレ率をどこまで織り込んでいけるかにかかっている。CPIで1~2%が定着して、賃金上昇率も2%程度が見込めるなら、セロ金利政策は変更されよう。金利のある世界がみえてくるようになる。

・国内は人手不足である。人材がいないので、需要があっても対応できないという企業が続出している。何が問題なのか。人口減少は長期的な構造的課題である。出生率を高めて、それが効果を発揮するには30年を要する。

・出生率を上げるには、若い人々が子どもを持って育てることが、人生にとって楽しいという状況を作り出す必要がある。子育てが辛いだけでは、誰も子どもを持とうとしない。そもそも、十分な所得がなければ、子どもを育てようがない。

・100万人×100万円/人として年間1兆円、これが20年続くとして、年間20兆円の子育て支援が必要になる。年間110兆円の国家予算に対して20年後をどのように想定していくのか。容易ではないが、手を打つ必要がある。

・当面の人手不足には、どのように対応するのか。まず企業間の人材争奪戦が始まっている。コロナ前と同じようなつもりで、正規、非正規の働き手を採用しようとしても、すでに通用しない。もはや転職は当たり前になっている。

・人材は流動化しつつある。これから加速しよう。働き甲斐のある職場には人が集まるが、先が見えない組織から、人はどんどん去っていく。それによって、人材不足倒産が増加しよう。

・企業がやっていけなくなっても、次の職場はあるので、働き手にとって問題はない。もちろん、地域によって、年代によって、働く場所や処遇が十分でないという問題は常につきまとう。

・新しい人材を雇うには、能力を正当に評価して処遇し、将来が描けるような人的資本の仕組みを提示する必要がある。人材を人財へ、それを育てて活かす仕組みの競争が始まっている。

・所得をあげるには、業績を伸ばす必要がある。人件費は費用ではなく付加価値であり、人材投資の源泉である。この人材投資コストを上回り、リターンを付加価値として稼ぐ必要がある。そのためには、1人当たり付加価値を上げることが必須である。

・人手をかけずに生産性を上げるには、自動化を進めることが有力な策である。製造業の生産現場だけでなく、サービス業の現場でも、本社部門でも、ロボット、AIの導入による省人化が本格化しよう。

・もう1つは、高付加価値化の推進である。安売りは続かない、低収益では会社が持たない。製品やサービスの価格を1.5倍、2倍にすることを想定すると何がおきるか。それがマーケットで通用しないとすれば、どこに根本原因があるのか。

・ここが問われている。インフレの世界では、値上げは当たり前である。適正な価格競争を追求する企業が注目されよう。

・グローバルビジネスにおいては、戦争による地政学的リスクが決定的なダメージをもたらす。ロシア・ウクライナ戦争、イスラエル・パレスチナ戦争は、まさに悲劇ではあるが、覇権争いの余波が、エネルギー資源価格の高騰や防衛産業の台頭に及んでいる。

・中国は台湾を必ず攻めると公言している。スキをみせれば紛争が戦争になり、半導体産業へのダメージを通して世界に大きな影響をもたらそう。

・気候変動や地震などによる天変地異は予測不可能で不可避であるというが、本当だろうか。いつ起きるかはわからないが予兆はある。発生した時に手を打つシミュレーションはできる。準備をし、訓練し、BCPを現実化している企業は強みをもっている。

・政争はどうか。各国での代表選びの選挙が続く。米国の大統領は十分信頼できるのか。日本の岸田首相は、なぜこれほど人気がないのか。日本の政策実行能力はかなり危うい。

・これらのリスク要因を抱えながら、2024年の株式市場は楽観的な期待先行で展開するものと予想する。予測可能なことを注視しつつ、NISAを活用しながら、投資戦略を立てていきたい。

サステナブルファイナンスへのシフト

・企業のサステナビリティを経営全体に統合していくことは、かなり難しい。先進的な企業をみていると、役員報酬にサステナビリティの成果を盛り込んでいる。

 アサヒグループホールディングスでは、ESGに基づくサステナビリティの評価項目を点数化して、中期賞与に反映させている。サステナビリティによる社会的価値を40%のウエイトで評価する。

 オムロンでは、役員報酬を短期と中長期に分け、ROEEPSなどの財務目標が60%、相対TSR(トータルリターン)などの企業価値が20%、ESGのサステナビリティが20%というウエイトで評価している。

 ・サステナビリティの成果をどのように測るか。まだ試行錯誤が続いているが、マテリアリティからKPIを定めて、目標を立て、その実行をPDCAで回していく。その上で何らかの数値化(レーティング)を用いて、評価していく。企業のサステナビリティの評価と、経営全体への統合には大いに注目したい。

 ESGにおいて、E(環境)、S(社会)G(ガバナンス)をどのように展開するのか。目標を掲げれば、その実現に向けて、投資が必要になる。戦略を立て、組織を作り、定性的な目標を計量化できるようにする。

 そのKPIが、どのように企業価値向上に貢献していくのか。経路を踏まえて、因果について何らかの実証(エビデンス)がほしい。すぐには無理としても、5年、10年かけて実効性をみせてほしい。そのプロセスを共有したい。

 D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)において、例えば女性取締役、外国人取締役をいかに増やしていくのか。事業の特性にもよるが、社内取締役、社外取締役の多様化は必須である。現状でよいという答えはまずない。いつまでに、どのように実現するのか。その実効性はどうか。形式だけではもはやステークホールダーに評価されない。

 ICGN(国際コーポレートガバナンスネットワーク)の議論を聞いていると、取締役10名の時、社内が67名、社外が34名として、まず女性を3名にする。社外から招いて増やしつつ、社内については10年かけて3分の1を女性にするくらいの実行力が問われる。

 ・その前提として、1)能力があること、2)社内昇進とともに、中途採用にも力を入れること、3)多様性が意思決定の質を高めるように選任されること、が求められる。とりわけ、経営人材については、中期的な育成が必要で、人材が育つように社内の仕組みを革新していく必要がある。人材投資について大いに議論したい。

 ・昨年10月に東京サステナブルファイナンスフォーラムが開催された。サステナビリティを実現するには、投資が必要であり、そのファイナンスのあり方が問われる。とりわけ、トラジションファイナンスとインパクトファイナンスが注目される。

 ・東京FinCity構想を推進するには、1)サステナブルファイナンス、2)フィンテック、3)アセットマネジメントの機能を大きく高める必要がある。

 CN(カーボンニュートラル)を実現するには、主要産業において、技術革新を踏まえて大型投資が必要である。CNに貢献しつつ、企業価値向上が図れるような投資案件にファイナンスがついてくるようにすべきである。

 しかし、その投資は本当に有効なのか。さらに、有望なのか。ここがはっきりしないとファイナンスに応じる投資家はいない。有望であるならば、一定のリスクをとって投資機会を活かしていくことは、ビジネスチャンスとなる。

 PRID・アトキンソンCEOは、企業のトップマネジメントは、サステナビリティをビジネスモデルに取り込んで、その実行を自らのマンデート(委任される任務)にすべしと提言した。サステナビリティはもはやコミットメントの段階ではなく、アクションが求められている。

 ・サステナブルファイナンスは、新資本主義のコアとなっている。社会的課題の解決を通して、持続的な成長を実現する。それをサポートする政策が推進されている。金融庁の堀本審議官(政策立案統括)は、3つの施策をあげた。

 1つは、GXの推進に向けたクライメットトラジションボンドの発行である。再エネ、水素、鉄鋼・化学などの先行投資で、トランジションを加速させる必要がある。新しいGX投資商品の開発を促していく。

 2つ目は、スタートアップの支援である。支援の1つがインパクト投資で技術革新やビジネスモデルの革新を求めてコンソーシアムを作っていく。

 3つ目は、サステナビリティを推進する金融機能として、アセットオーナーやアセットマネージャーの役割を一段と高めていく。

 ・ブルックフィールドアセットマネジメントのM・カーニー会長(前イングランド銀行総裁)は、4つのビックトレンドに注目している。1CNに対する企業のニーズは高まっており、テクノロジー、オペレーション、ファイナンスが必要である

 2CNに向けた政府のやる気も高まっている。脱炭素のコストも下がっているので、ギャップを埋めることはできる。3ISSBによる基準の明確化やTCFDの推進によって、金融セクターでもCNに向けて視野が広がっている。4)そのためには多額の投資が必要であり、グリーンボンドが急拡大するとみている。

 CNの実現に向けたトラジションはまさにRDと同じであり、企業戦略の中心に位置づけられる。アンモニアへのニーズは新市場をクリエイトする、とIHIの瀬尾常務は語った。

 JFEの手塚主監(地球環境担当)は、大型投資を必要とし、コストがかかるので、CNに向けたロードマップを理解してもらう必要があると話す。EV用の電磁鋼板、高炉での水素利用など、領域は広い。グリーン鉄は高付加価値である。この市場を作っていく必要がある。

 ・資金使途が特定されるグリーンボンド、特に定めのないサステナブルリンクボンドなど、ロードマップの中でのポジションが問われる。

 ・インパクト投資は、社会的価値へのインパクトを重視するが、このインパクトと収益は、トレードオフ(両立しない関係)ではなく、Win-Win(双方が満足する利益を得ること)であるという認識が必要である。経済性と社会性、すなわち儲けて、役立つという両面を目指す。

 ・ベンチャーにも、IPOにも、大企業のトランジションにも、インパクトが求められる。投資家は、両立を目指すポジティブ インパクト ファイナンスに対して、投資機会を見出す。一般的なESG投資だけではなく、個別の技術やプロジェクトが注目されよう。

・課題はある。トランジションはリスクが高そうで、インパクトは先行きが不透明であるとみられるかもしれない。リスクをとらない投資家ばかりであれば、企業再生や新しい成長は望むべくもない。

 ・インパクトをもう1つの軸とし、リスクとリターンをよく見極めながら、これら3つの軸で、各々の分野の1号ファンドへ投資するようなカルチャーを作っていきたい。

 

危機管理を見抜くには

・ありえないことがおきる。想定外であったと説明される。きちんとマネージされている会社では何もおきない。何もおきないことは、事前に、未然に防止されているからである。この何もおきないことをもっと評価していく必要がある。リスクマネジメントに、対話を通じていかに突っ込んでいくか。

 ・ビックモーターの事件が露呈した。急成長企業にはウラがあった。大手の損保会社も、バリューチェーンの中で、一枚加わっていたのではないか。そうなると、上場企業にも波及してくる。

 やっていることが、本当にユニークなのか。単に、変なことをやっていて、それを正当化してしまうようでは、ガバナンスが効いていない。そもそもサステナビリティがない。つまり、企業価値創造が長く続くはずがない。

 ・社会的事案が発生した時、どのような情報開示を行うのか。犯罪であれば、捜査の進展を待っているので、何も話せないというが、本当だろうか。

 会社として、問題事案の全体を把握できていないので、質問に答えられない。そんな状況で、会見や対話はできないという。それでよいのか。トップの責任が問われるような局面で、矢面には立ちたくないと、逃げの姿勢で通す。こんな経営者は信用できない。

 ・危機管理広報のコンサル会社「エイレックス」の江良社長は、インタビューの中でいくつか示唆的なコメントをしている

 1)記者会見の目的は、説明責任を示すことである。何が起きたのか、どこに問題があったのか、二度と起こさないためにどうするのか、を説明する必要がある。

 2)会社へのダメージを最小化することを優先して、不都合な質問をさせないことは、通常ありえない。NGリストは作らず、質問数や追加質問も限定する必要はない。

 3)代理の担当者で済ませるのではなく、トップの責任者が自らの言葉で最後まで話すというスタンスが次につながる。

 4)守りのダメージコントロールより、公益性、情報開示の中立性、公平性を保持すべし、と指摘している。

 ・これはPR(パブリックリレーション)での基本であるが、投資家向けのIR(インベスターズリレーション)においても十分包含されるべきものであろう。

 ・では、ジャニーズ問題は何が本質であったのか。日本取締役協会は。202310月に「未成年者に対する性加害も問題に関わる標準ガバナンスコード」について、提言を出した。

 ・ジャニーズ事務所のオーナーの性加害を、知っている人は知っていた。裁判でもそのような判決が出ている。でも、ジャニーズ側の取引に関する制裁を恐れて、忖度し、見て見ぬふりをした。多くの上場企業もジャニーズとビジネス上の取引を続けた。

 犯罪者がオーナーである会社と、継続的に取引をして、自らPRに使ってよいのか。よいはずがない。でも、それがまかり通ってしまった。知らなかったではすまされない。なぜか。それを疑い、懸念をもって、ジャニーズと取引をしなかった会社があるからである。反証可能性からみて、言い訳は通りにくい。

 ・未成年への性加害は、サプライチェーンのなかで、人権問題である。これは「魂の殺人」である、と位置づけて、人権の尊重を行動へ移す必要がある。国の義務、企業の責任、救済へのアクセスが問われる。

 ・「魂の殺人」に対して、契約を停止するだけでは不十分である。自らの影響力を使って、負の影響を減らすべし、と提言する。企業は、リスクを特定して、デューデリのプロセスを整備し、そのリスク管理を運用する。負の影響を是正し、救済にまで協力せよ、という。

 ・是正、救済を行動で示す必要がある。人権リスクは、企業価値に影響する事業リスクだけでなく、被害者のリスクを救済することまでを含む。この救済状況を開示せよと提案する。

 ・コンプライアンスは、法令順守に留まらない。コンプラの対象はハードロー、ソフトロー、規範を含む。「未成年への性加害」を対象とし、それを特定して、ガバナンスの原則に入れる必要がある。取協リスク・ガバナンス委員会の柿崎副委員長(明大教授)はこのように述べた。

 ・日本のガバナンス改革は本物か。改革を進めていても、反例(悪いガバナンス)が次々と出てくる。形式だけに捉われている企業も多い。ESGを軸としたサステナブル資本主義の実践という点では、イノベーション、DXCXをスピードアップする必要がある。

 ICGNの対話ミーティング(2310月)で、ノルジェス・バンク・インベストメント・マネジメントのW.モーン氏(CGのグローバル責任者)は、ガバナンスにおいては、取締役会の独立性と多様性が最も重要で、これが進むかをさらにみていくという。

 ・プライム市場企業は、グローバル企業との比較で、もう一度、自らの経営力(トップのリーダーシップ)、成長力(イノベーション)、リスクマネジメント、サステナビリティ(ESGを見直す必要があろう。

 多くの日本企業は、価値創造のビジネスモデルが弱い。よって、利益の水準(収益性)も収益の伸び(成長性)も見劣りしている。ガバナンスは形ではない。実践である。ガバナンスをよくしたら、それだけで収益性、成長性が高まるわけではない。

 その中で、ドスンと落とし穴に陥らないための仕組み作りとその運用が問われる。このリスクマネジメントについて、企業とじっくり対話して、企業の質を見極めたい。

 

 

リーダーシップをいかに発揮するか

・三菱ケミカルグループのギルソン社長が退任する。2024年4月から副社長の筑本氏がCEOとしてリーダーシップを発揮する。石油化学事業の再編が難航しているので、同事業に精通する筑本氏が相応しいと判断された。

・指名委員会委員長を務める橋本社外取締役は、石化再編の遅れが課題であったと指摘した。21年12月に、23年12月までに他社とJV(合弁会社)を設立すると公表したが、実現の目途が立たなかった。また、ギルソン社長の経営改革は人材の流出にもつながった。どこに問題があったのか。

・昨年10月のアナリスト大会で、ギルソン氏の講演を聞いた。企業再生と人的資本が全体のテーマであった。ギルソン氏の論点は興味深い。

・ギルソン氏はベルギー育ち、仕事のキャリア地は欧州で40%、米国で40%、日本で20%。日本は2回目で、化学エンジニア出身である。成長企業の文化をどのように作っていくか。保守的なやり方の中で、どのように成長軌道に戻すか。文化や意識の問題はかなり難しい。

・日本経済はこの30年伸びていない。国民も豊かになっていない。日本はソフトパワーのよさは有しているが、ビジネスリーダーのリーダーシップが十分でない、と彼はみている。

・三菱ケミカルの課題として、1)内部成長が低い、2)ROICが5%レベルで、PBRが1.0倍を割っている、3)これまで3兆円の投資をして、有利子負債2兆円を有する、4)低収益のせいで、イノベーションが停滞し、2016年以降の新製品のローンチが少ない、5)デジタル基盤が時代遅れで、新基盤の構築を急ぐ必要がある、6)グループ企業が600社と多く、複雑である、とギルソン氏は認識した。

・なぜこんなに子会社・関連会社が多いのか。優秀な社員は多いのに、業績は不振である。何かがうまくいっていない。何が原因なのか。日本企業に共通する要因として、ギルソン氏はインアクション(不作為)をあげた。アクションに対してインアクション、つまり行動するのではなく、行動をとらない。分かっていても、やらないという行動をとる。

・やるべきことに気付き、それを認識する。でも、インアクション、いつまでも様子見しているだけとなる。人は合理的であるはず、でも何もしない。そこで、なにもしないことが合理的となる。やるとしてもゆっくりやる。

・こんなことが、なぜ起きるのか。アクションの原動力は、1)緊急性~危機ならできる、2)インセンティブ~これが強く働く、3)強いコンセンサス~リーダーが駆り立てれば動く、とみた。一方で、ノンアクションの何もやらない合理性は、1)危機感がない、2)インセンティブがない、3)コンセンサスが弱い、と生まれる。

・緊急事態への対応がマンネリ化してしまう。慣れてしまうと、緊急性が低下する。期待リターンが低下して、低収益でもいいかとなってしまう。セロ金利のもとで債務が拡大し、成長が止まってしまう。業績低迷の中で、R&Dも削減されてしまう、というサイクルに入った。

・このサイクルをストップさせるには痛みを伴う。この痛みを避けようとすると、不作為がおきる。痛みを伴う改革を実行すると、社内の文化が変わってしまう。これを許容して、実行するしかない。リーダーの役割である。

・そこで、成長志向の文化を作ろうとした。アクションをとるために、“Re-establishing a Growth Culture through Action”をテーマに掲げた。1)事実を共有して、危機を呼び起こし、目を覚ます、2)財務の制約、人事の制約を見直して、インセンティブを与える、3)初期の合意形成は無視して、リーダーが変革をリードする、こととした。

・これまでの「Kaiteki」では楽すぎる。もっとBravery(果敢)に、Persistence(あきらめないで完遂)するようにハードルを上げた。スペシャルティマテリアルにフォーカスし、ベストを目指す。中程度のまあまあは受け入れない。

・不作為のリーダーが停滞の要因である。現状の調和ではなく、アクティブ調和(Active Harmony)を図る。不作為の合理性を排除して、リーダーが行動する文化(action-oriented culture)を作ろうと提言した。ギルソン氏はそれを実践してきた。

・昨年10月にこう語ったが、同12月に3年でCEO交替が公表された。5年から7年やらなければ、事業ポートフォリオを組み替えて、成果を上げ、新しい組織文化の定着は図れないだろう。その前の交替となる。

・1)石化事業の業界再編を予定通りに実行できなかった、2)トップダウンのアクションに現場のリーダーがついていけなかった、ということであろうか。日本的にいえば、信長のようなリーダーシップで、事を急ぎ過ぎたのであろうか。何か残念である。

・サッカーの岡田元監督(今治、夢スポーツ代表取締役会長、日本サッカー協会副会長)は、チームマネジメントについて、次のような体験を語った。

・新しいサッカーチームを作りたい。自律した選手が育っていない。選手自らが判断して、動くようにしたい。そこでティーチングではなく、コーチングに徹した。スペインのサッカーは、16歳までに教えて、後は自由にする。武道の守破離の精神で守(ティーチング)、破(コーチング)、離(自由)で、チームの人材を創っていく。

・いつも人のせいにする文化が制約となる。これを覆すには、クラブのオーナーとなって長期的にチーム作りに取り組む必要がある。そこで株式の51%をもつことにした。心の豊かさをベースに、理念に沿った経営を実践すると決めた。どうやって人を成長させるか。当事者意識をもつには、まず自分事と考えられるように、対話によって持っていく。

・対話の基本は3つ、1)どうしたの、2)君はどうしたいの、3)私に手伝えることは、これを何度も聞いていく。

・会社経営は、サッカーゲームと同じである。フィロソフィーを創る。エンジョイせよ。私たちのチームである。勝つためにベストをつくせ。今できることに集中せよ。しゃがんでジャンプすることに心がけよ。存在を認めて、コミュニケーションをとる。

・ゲームを楽しむ、チームは選手のものである、と言っても、試合では、半分のチームが負ける。常に必ず1人1人を見ている。一体感は目標にしない。違いを認めると、逆に一体化してくる。共通の目標があれば、そこで結果がでると1つになれる。

・非日常の場面で自分をさらけ出すと、違いを知ることができる。そうすると、チームに自然とモラルができてくる。絶対に手を抜くな。勝負の神様は1ミリの細部に宿る。リーダーシップを発揮するには、考え抜いた上で、直感で決める。覚悟を持って、ありのままの自分をみせる。失敗の中から、次の楽しみが出てくる、と語った。

・なるほど、そうかもしれない。こうみると、三菱ケミカルグループの経営改革は、狙いは良くても、実現には距離があった。組織の中で、人々がどう動くのか。リーダーとの距離がいかに縮んで、社員が自分事としてビジネスを考えられるか。

・経営戦略と人財戦略の結びつきについて、突っ込んで理解しておく必要があろう。企業価値評価の要として、大いに役立てていきたい。

 

アセットビルディングに向けて

・カーボンニュートラル(CN)を目指すには、新しい技術開発とその設備やシステムを動かすための投資が必要である。これが有力な成長機会となる。社会的な善に貢献することで、自らも価値創造ができれば、これこそが最高のビジネスであろう。

・日本の貯蓄投資バランスをみると、政府は大幅な赤字であるが、民間は企業も家計も大幅な黒字である。貯蓄が投資に向けられ、それが成果を上げればリターンの分配が可能になる。企業が働く人々の報酬を上げれば家計は潤ってくる。

・もう1つのルートは、個人金融資産が現金預金から、株式、投資信託などのリスク資産に向かえば、そのリターンが直接個人(家計)に入ってくる。

・企業にとって投資機会はないのか。機械がないから、投資をせずに現預金を貯めているのか。投資にはリスクを伴う。リスクを回避して、ビジネスで勝負していないのか。そのような企業はいずれ衰退するので、早めに経営者を交替させる必要がある。

・個人は老後を心配し、お金を貯めるだけで使わなければ、経済はまわらない。貯めたお金がリターンを生むように投資すれば、それは好循環となって、国全体の成長にも寄与する。2100兆円の個人資産のリターンを年間+1.5%上げれば31.5兆円の金融所得が生まれる。名目GDP560兆円に対してのインパクトも大きい。

・こうした成長と分配の好循環を生むには、資産運用セクターの抜本改革が必須であるとの認識のもと、政府の政策が動いている、どうやって個人の預貯金と金融資産の投資にまわすのか。損をしたら身も蓋もない。そう思えば大きな動きにはならない。

・デフレからインフレに向かうと、預貯金の価値は目減りしていく。2つの課題がある。1つは、企業がしっかり儲けてくれるか。そうならが投資したくなる。もう1つは、金融機関が本当に信頼できるか。顧客本位の経営を実践し、親身に相談にのって、商品・サービスを提供してくれるなら、リターンに対して手数料(報酬)を支払うには当然である。

・では、日本を代表する5つの金融機関のトップはどう考えているのか。10月に日経のシンポジウムで講演とパネルディスカッションを聴いた。印象に残った点をいくつか取り上げてみたい。

・大和証券グループ本社の中田社長は、変化の条件が揃ってきたと強調した。1)バブル崩壊後のデフレがようやく終焉する、2)日本株の長期下方トレンドが変わるという認識が広まっている、3)顧客が望んでいる商品サービスを提供できるようになる、4)長期の運用に対するインセンティブが整ってきたからである。

・消費者物価はプラスに転じており、日銀のゼロ金利政策も変わりつつある。日経平均は4万円を目指すこともできそうである。企業業種が伸びること現実味が出てこよう。NISAやiDecoへの税制インセンティブが本格化する。

・三井住友フィナンシャルグループの太田社長(当時)は、円安とインフレが進行する中で、価格転嫁が進んでいる。企業業績は好調で、賃上げにも結び付いている。成長と分配が上手く回りそうである。世界景気はスローダウンするとしても腰は強い。日銀の金融政策も正常化してこよう。中小企業はどうか。サプライチェーンの中で、パートナー戦略が重要になっていると強調した。

・みずほフィナンシャルグループの木原社長は、金利がつく世界では経済が活性化してくる。運用商品の多様化も出てくると指摘した。グローバルサプライチェーンの中で、サステナビリティが問われている。インフレトレンドが続くのでマイナス金利は修正されよう。そのタイミングには注意を要するが、いずれ預貯金金利も動かすことになろうとみている。

・野村ホールディングスの奥田社長は、オールタナティブ商品はインフレに強いので、ここが多様性をもって広がってくるとみている。適切なプライシングを金利プラススプレッドできちんとみていく必要がある。日本でのオルタナのチャンスは大きいといえよう。

・三菱UFJフィナンシャルグループの亀澤社長は、欧米の金融緩和、日本の金融正常化はそのタイミングがポイントで、インフレの粘着性とその不連続性をよくみておく必要があると述べた。金利がついてくる中で、改めて金融機能の強化が求められている。

・資産運用アドバイスの高度化では、①リサーチ、②投資戦略、③商品戦略、④販売戦略の各エンジンを強化し、ウェルネスマネジメントのデジタルプラットフォーム作りに力を入れている、MUFJとモルガンスタンレーとの連携も効果的である。

・大和アセットマネジメントでは、オルタナティブ・ファンドとして、プライベート・クレジット・ファンドに投資する公募投信「ダイワ・ブラックストーン・プライベート・クレジット・ファンド」を国内で初めて提供している。

・また大和証券では、セキュリティトークン(ST)の販売で実績を上げている、ケネディクスの不動産を裏付けとして、公募不動産ST(ケネディクス・リアルティ・トークン)の募集でトップクラスである。STについては、不動産、再エネ、社債などに広がっていこう。

・SMBCグループでは、「幸せな成長:Fulfilled Growth」への貢献に向けて、資産形成を通じたマテリアリティ(重点課題)の解決に取り組む、1)環境(グリーンローン、SDGsボンド、移行金融)、2)DE&I、人権(人的資本経営推進、なでしこ推進向け融資)、3)貧困・格差(インパクトファンド、マイクロファイナンス)、4)少子高齢化(資産形成、資産継承)、5)日本の再成長(スタートアップ支援、ベンチャーデット、グロースファンド)などである。

・家計に対して、「Olive」を軸としたデジタルサービスで若年層、現役世代のエントリーバリア解消に力を入れている。SBIとの連携も効果を上げている。

・各社のPBRをみると、12月26日時点で、野村0.58倍、みずほ0.62倍、三井住友0.66倍、三菱UFJ0.78倍、大和0.90倍である。三井住友はROE6.7%、PER9.8倍、みずほはROE6.7%、PER9.3倍である。各社ともROR10% 、PER10%にもっていって、PBR1.0倍が達成できる。

・資産形成という軸からみた時に、それぞれ手を打っているが、収益性と成長性が十分でないとみられている。PBRが1.0倍を割っているということは、各社の新しいビジネスモデルが、それを構成する人的資産、組織資産などでまだ、リソース不足があるので、いかに戦略的に構築していくか。

・グローバルに戦う基盤という点との格差も大きい。流れはフォローである。いかに差異化、特化戦略で個性を発揮するか。類似のサービスの中の差別化戦略に期待したい。