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社外取締役の役割と活用~コニカミノルタのケースを踏まえて

   2015.12.15 (火) 11:05 AM

・コーポレートガバナンス(企業統治)は、会社が中長期的な価値創造と持続的な成長を目指すための基盤となる仕組みを提供する。ここがしっかりしていないと、いかに社長が立派であっても次に続かない可能性がある。

・有力な商品やサービスが当っていても、次が続かないかもしれない。それでは投資家の信頼は得られない。社員がやる気を出し、働きがいのある会社となる必要がある。地域社会からは尊敬される存在であってほしい。

・そのためには、企業の意思決定の中枢である取締役会に社外の目が入って、株主の替わりに会社をよく見て、監督指導していくことが重要である。社外取締役にはそのような役割が求められる。

・では、投資家にとって、社外取締役の活動が外からよく分かるかいうと、これは難しい。社外取締役の活動について、会社が開示しないことにはよくわからない。活動のすべてを知る必要はないが、取締役会がきちんと機能して、①社長がワンマン経営にならないように、②逆に何事にも挑戦しない‘ことなかれ経営’にならないように、監督していく必要がある。

・12月に「取締役の責任と役割」に関するシンポジウムに参加してみた。そこで印象に残った論点について、いくつか取り上げてみたい。まず、アジアコーポレートガバナンス協会(ACGA)のジェミー・アレン事務局長は、日本のコーポレートガバナンスの改革は大きく進んでいるが、その仕組みをみると、まだコンセンサスが十分でないと指摘する。

・確かにコーポレートガバナンス・コード(CGC)はできたが、コンプライ・オア・エクスプレイン(しっかり取り入れるか、そうでなければきちんと説明せよ)といっても、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社、監査役会設置会社の3つが併存しており、海外からは分かりにくい。日本は、上場企業の会計方式についても現在4つ存在する。多様性を認める文化ともいえるが、一本化せずに併存させて、折り合いをつけるというやり方が得意である。

・「攻めのガバナンス」が問われているが、日本の上場企業は3年程度の中期計画を作っていても、10~20年後のビジョンとそれを実現するための戦略はいかに、と問われると答えられない場合が多い。これに応えるには、コーポレートガバナンスを充実させて、統合報告に盛り込まれるべき内容を、企業として作りあげていく必要がある。

・西村あさひ法律事務所の武井一浩パートナー弁護士は、取締役会に求められているのは、従来からあったマネジメントボード(経営執行型取締役会)の推進ではなく、スーパーバイザリーボード(経営監督型取締役会)の機能を設置する改革であると強調する。

・課題は、このスーパーバイザリーボードで何をやるのか、ここがまだはっきりしておらず、コンセンサスがとられていないという。確かなことは、社外取締役は、①マネジメントボードの利益相反を監視・監督し、②外部の目でリスクをとる経営にアドバイスを行う、という役割を果たすことである。

・コニカミノルタは2003年の経営統合の時に、合併の効果を出し、全く新しい会社を作るために、指名委員会等設置会社を選択し、以来成果を上げている。社外取締役は第三者の目で、経営戦略の立案と実行を監督する。

・月1回の取締役会に出席するだけで、そんなことができるのか。この問いに対して、松崎正年取締役会議長(前社長)は、①だからこそ誰を選ぶかが大事、②限られた条件で判断するので多様性が必要、③必要な情報を集められることが大切、と強調する。

・マネジメントボードとスーパーバイザリーボードは違うので、経営会議で議論したことを取締役会で繰り返しても、さほど意味がない。つまり、取締役会に何を報告して、どんな意思決定をするのか。活発な意見がでない、無言の賛成だけの会議では、何の意味もない。

 ・コニカミノルタの松崎議長は、3つの点を指摘する。1)まずは、会社の経営課題は何かをよく議論して、それを監督するのにふさわしい社外の人材を探し、指名委員会で決定する。2)結果として、経営トップを務めた方が社外取締役に選任されている。トップを担った方は意思決定の重みがよくわかっており、監督と同時のアドバイスもできる。3)限られた情報の中での判断になるので、議論も活発になる。

・日本語が堪能なニコラス・ベネッシュ氏(米国人弁護士、法人会社役員育成機構代表理事)は、社外独立取締役の重要性を強調した。1)取締役の責任は平等で1人1票を持っている。2)社長には社外の意見を受け入れる器が必要である。3)米国では選任されたCEOが適任でないとわかると任期の途中でも平気で解任される。

・とすると、社外取締役で最も大事なことは、マネジメントボード(経営の執行サイド)に対して、自立的に考えてもらうgood questionをいかに発するかにある、と武井弁護士は指摘する。確かによく考えてもらい、より的確な意思決定をしてもらうことが決め手である。

・日本のコーポレートガバナンスにこれから最も問われるのは、後継者の育成と選び方(サクセッションプラン)であろう。松崎議長は、サクセッションプランの実行に当たっては、1)CEOの要件を示し、2)それを議論し、3)どういうステップで選任していくか、をはっきりさせる必要があり、指名委員会の取締役はそれを監督していくと指摘する。

・社長は自分の能力が試される。よって、腹を切る基準を自ら定めて経営に当たっていた、と松崎氏は語った。素晴らしい経営者である。ベネッシュ氏は、このサクセッションプランについて、米国でも多くの企業でうまくいっていないと解説した。

・日本の上場企業にサクセッションプランの開示を求めるのは、まだハードルが高い。一方で、社外取締役がgood questionを発し、課題にフォーカスして、マネジメントに考えてもらうことは有意義である。いかにいい質問をするか。これはアナリストの本領でもある。投資家と経営者の対話もまさにそうありたい。

 

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