ホーム > ブログ一覧 > アジアの未来~ビジョンの共有と対話の促進に向けて

アジアの未来~ビジョンの共有と対話の促進に向けて

   2015.06.15 (月) 12:41 PM

・5月に日経主催の「アジアの未来」というシンポジウムが開かれた。毎年参加しているが、株式投資の視点を意識しながら、アジアの政治家の発言に耳を傾けた。いくつかの注目すべき論点について考えてみたい。

・シンガポールのゴー・チョクトン前首相は、2つの欠落について指摘した。1つは信頼と信用の欠如であり、もう1つは共通のビジョンの欠如である。国として互いに信頼できなければ、協力は生まれない。中国、日本、韓国、インドにとって、将来に関する共通の目標は何か、これが必要である。信頼とビジョンは必ず作れる。その思いをまず持つことであると強調した。

・アセアン10カ国をみれば、かつては紛争が絶えなかった。今でも対立はある。しかし、1967年にアセアンを作って以来、互いに信用できるように戦略的に取り組んできた。信頼を作るには、過去を直視し、次に和解を進め、そして前へ進むことであるが、アジアの大国は大戦の後遺症を解決できていない。これを解決しないと、この問題は何世紀も続くことになり、禍根を残すことになろう。和解をするには、過去の誤りを認め、反省し、互いに受け入れることが必要であるという。

・日本は戦後70年間、いいことを沢山やってきた。それは実績である。ゴー・チョクトン氏は、車の運転に例えて、バックミラーばかり見ても前へ進めない。前に走るには、共通のビジョンを作り、そこでは価値観の共有と原則を明確にすることである。今、アジアにはこのビジョンが必要である。アジア共通のビジョンを作るという合意をまず結ぼうと提案する。

・そんなものができるか、という発想ではなく、アジアのビジョンに何を盛り込むべきなのか、という視点で現実をみる。自国の利害を中心に摩擦を繰り返すのでは、発展のレベルが全く異なってしまう。日本の時価総額が今から2倍になることをイメージする時、アジアマーケットが3~4倍になるような展開は不可欠である。互いに紛争を起こし、摩擦を繰り返すようでは、大きな未来はない。

・カンボジアのスン・チャントル商業相は、ビジネスを遂行する上での透明性を上げていくことを強調した。9年間の免税、法人税20%、価格コントロール無し、内外投資家を同等に扱うなど、外資の導入に必死である。とにかく、インフラを作って行く必要がある。ADBに対して、AIIBが補完的な役割を担うのであれば、大いに結構というスタンスである。2つの金融機関があれば、使い易くなる。インフラ投資を急ぐので、AIIBを使ったからといって、その国に対して何らかの制裁は加えないでほしいと強調した。

・モンゴルのツァヒャー・エルベグドルジ大統領は、首相から大統領になって6年、ロシアと米国に留学してロシア語と英語が堪能である。モンゴルは1920年代から70年間共産主義の世界にいたが、1990年以降、壁のままか、自由になるかという選択の中で、1滴の血も流さずに自由を選んだ。GDPに占める民間の比率は当初の5%が今や80%になった。

・エルベグドルジ大統領は、「フォーラム・オブ・アジア」を提案した。地域を包括するメカニズムをプラットフォームとして作る。国連に入っているアジア48カ国が加盟するフォーラムを作る。北アジアにロシアは入る。モンゴルは中国、ロシアと国境を接している。4800㎞もあるが、国境に問題はないという。首都ウランバートルに集まって、共通の価値について話し合おうと提唱する。各国から平等な代表を出して、1国では解決できない課題に対して、対話を進める。かつてジンギスカンは、征服はできても統治はできなかった、という比喩が印象に残った。

・インドネシアのユスフ・カラ副大統領は、繁栄には平和が必要であると指摘した。いかに共通の価値、ビジョンを醸成できるかが重要である。それでも摩擦は生まれる。それは目標達成の戦略が違うからである。南シナ海の紛争について、いかに平和的に解決するか。マラッカ海峡に学ぶ必要があるという。

・経済的には、もはや米国やEUに頼ることはできない。アジアの自立的発展が必要であり、それにはインフラ不足を解消する投資が必要である。ADB、AIIBだけでは不十分である。民間の力を一層引き出す必要があると強調した。

・タイのプリディヤトーン・テワクン副首相は、かつては日本が先行する雁行型発展がアジアの経済成長パターンとみられたが、中国の台頭によって状況は一変している。中国は、政治外交的手段も用いてインフラ投資に関わり、ファイナンスもサポートしようとしている。これに対して、日本の民間投資やインフラ投資はアジアにとって引き続き重要である。さらに、タイをコアにして周辺国への民間投資を増やしていくことが有効である。そのために、企業はタイに地域総括本部を作ることが望ましい。それをサポートする法制、税制、仕組みも整備していくという。

・フィリピンのセサル・プリシマ財務相は、アジアは発展するが、努力すべき課題が5つあるという。1つは、自然災害である。気候変動の影響で大型災害が増えている、世界の大災害の6~7割がアジアで起きている。これにどのように連携して対応するか。2つ目は連結、互いにどのように繋がっていくか。3つ目はエネルギーで、4つ目は高齢化である。世界の人口の3分の2がアジアの集中する中で、日本を先頭に、いずれ中国でも高齢化が進んでいく。

・5つ目が海の有効活用である。紛争の海ではなく、協力の海にする必要がある。東南アジア友好協力条約(TAC)は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの5カ国で作られ、その後の中国、インド、日本、韓国、ロシア、北朝鮮、米国など28カ国に入っている。その基本原則には、主権・領土の保全、紛争の平和的解決、武力行使の放棄などを定めており、これを機能させるべきと強調する。どう心と心を結ぶかが問われている。

・マレーシアのマハティール元首相は、中国は自国が封じ込められようとしていると考えていると解釈する。中国はそれを乗り越えるためには、軍事と経済を使おうとしている。西側はいつも中国を外そうとする。そこで大国主義を強めた中国はAIIBを作ることにした。対立はよくない。小国は選択しようとしてもできない。米国と中国による別の形の冷戦が始まったともいえる。

・対立ではなく、対話が必要である。中国はいずれ№1になる。4000年の歴史もある。こことどう向き合っていくか。日本は米国のセンチメントに組みすぎると警鐘をならす。日本は米国から自由になって、自分で決めればよいという。中国の南シナ海についても、もっと対話をすべきである。米国の第7艦隊が来ても解決にはならない。軍事的対立から得るものはないとマハティール氏はいう。

・外交とは相手が受け入れられることを話し合う。日本は中国や東南アジアに対してもっとセンシティブであるべきという。アジアの国々は別の文化を持っており、多様である。経済的格差や抑圧もある。そこで、共通の価値観を持つようにすべきである。すべての人々に共有できる社会的経済的な価値である。宗教や文化は違ってよい。アジアはブロック化されて、誰かに支配されるわけではない。通貨も各国ごとに違ってよい。EUのようになる必要はないと強調した。

・フィリピンのベニグニ・アキノ大統領は、20世紀は欧米の時代であったが、21世紀はアジアの時代になると述べた。平和と安定は、発展と進歩の前提であり、紛争の中にはそれはない。過去の禍根を日本とフィリピンは乗り越えてきた。南シナ海における中国との対立は、自制心を持って、紛争をエスカレートさせないようにしていく。建設的行動をとって、中国にも再考を促すという姿勢だ。

・アセアン経済共同体AECは、今年末にスタートしよう。6億人の市場ができ、人の移動が自由になる。10カ国が自国の強みを生かして、互いに補完する。これからも課題はあろうが、意見の不一致を受け入れて、誰かに強制されるのではなく、多様化を加速させていく。これから発展するのは間違いない、とアキノ大統領は強調した。

・こうした政治指導者に共通していたのは、1)紛争ではなく、平和の確保、2)仲間はずれではなく、共通の価値、目標に基づいたビジョン作り、3)対立ではなく、対話の推進によって、新しい発展のインフラ、プラットフォームを作っていこう、というものである。建前ではなく、互いを尊重しつつ、本音で取り組んでいけるかどうか。

・民間企業においては、企業間の信頼をベースに、アジアにおける企業価値創造に邁進してほしい。摩擦や紛争は常に起こりうる、それはリスクである。リスクをマネージしながら、国家間のプラットフォーム作りに貢献しつつ、その中でさらなる発展を目指すことが求められよう。アジアの次のステージに適合したビジネスモデルに転換する日本企業に注目したい。

Blog Category