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マーケティングの極意~ネスレジャパン、YKK、資生堂、エーザイ

未分類   2014.10.11 (土) 5:19 PM

・9月にワールド マーケティング サミット ジャパンが開かれた。マーケティングの大御所であるフィリップ・コトラー教授をはじめ、多くの専門家が東京に集まった。マーケティングとは経営そのものであり、いかにリピート客を作り出すかという点について議論が盛り上がった。

・コトラー教授は、1)プロダクトを売る時代ではない、2)顧客志向でも十分ではない、3)ブランドを作るのも大事であるが、4)いかに価値を創り出していくか、5) それを顧客と一緒に創っていく時代に入っている、という認識を示した。顧客は、もっと自分に注目してほしいと思っている。自分は特別のグループの一員にな りたい。自分をもっとはっきり示したい。誰もが自らを表現して自己実現したい、と思っている。そこにいかに入っていけるかが問われている。

・ そのためには、生活の中に入ったリサーチが必要である。個人の嗜好を明らかにするビックデータの解析が求められる。人々の無意識の中にある動きを見出して いく。店舗のショールーム化、体験の機会提供、まれにしかないニーズへの対応、商品・サービスの無料化の推進など、従来と違った形で顧客との新しい接点を 作っていくことが重要である、とコトラー教授は強調する。

・ネスレジャパンの高岡社長は、ネスカフェはローテクだが、それ故にイノベーションに挑戦しているという。その1つの姿が、ネスカフェ・アンバサダーにある。これはビジネスモデルの革新である。多くの会社で何が困っているか。それは社内コミュニケーションの不足にある。そこで、コーヒーを飲むという状況を、コミュニケーションをよくする場に変える仕組みを作り上げた。

・まず、組織に属する誰かがもっとコミュニケーションを良くしたいと思う時、その人が自らアンバサダーになると決める。社内の了解を取って、一定のスペースを確保する。そこにネスレから送られてきたバリスタマシーンと貯金箱を置く。コーヒー1杯が20円 で飲める。しかも、その場所で社内のさして親しくない人とでも、ちょっとした会話ができる。このアンバサダーにネスレから給料や報酬はない。職場の雰囲気 を良くしたいというのが、アンバサダーにとってのモティベーションであり、その一翼を自分が担っているという役割が自己実現に結び付く。

・ネスレにすると、アンバサダーは給料のいらない代理店のようなもので、1杯20円のコーヒー代でも十分採算に合う。日本国内において、この1年半でアンバサダーは14万人に増え、200万人がこのコーヒーを飲んでいる。昨年は年間で5億杯のコーヒーが飲まれたが、今年は10億杯に増えるという。

・新しいコミュニティをアンバサダーが作っていく。そして、周りのみんなに感謝される。14万人がFacebookでこの活動をシェアし、今や毎日300~400人のアンバサダーの申し込みがある。ネスレジャパンは年に3回、アンバサダーの大会を行っている。一度に500人から1000人が抽選で集まって、交流を深めている。結果として、同社にとって、極めて利益率の高いビジネスモデルに育っている。日本初のこの仕組みが、今やスイスの本社でも注目されている。

・YKKはファスナーで有名であるが、建材の分野で「窓」という全く新しいカテゴリーを作り上げた。吉田会長は、ファスナーの目で建材を見た。ファスナーに最大公約となる商品はない。ファスナーは部品であって、1つ1つの商品に合ったものを作っていく。どれも同じものではない。このコンポーネントビジネスの目で建材をみると、サッシ業界やガラス業界はあっても、窓業界はなかった。全国にある4~5万件の建材店が窓を作っていた。

・そこで、2004年 に窓メーカーになると決めた。建材店では作れない窓を作るといって、多くの建材店を説得した。このビジネスモデルの転換によって、YKKは窓のパイオニア になり、窓を考える会社のリーダーになった。そして、かつてのサッシメーカーは今やみんな窓メーカーになってきた。新しいサブカテゴリーを自ら作り上げて きたのである。

・資生堂の魚谷社長は、今年4月に社長に就任した。日本コカコーラでの経験を踏まえて、資生堂をグローバルに強く、もっと稼げる会社に変えようとしている。どうするのか。4つの手を打っていくが、基本はハイブリッドにあるという。トヨタのハイブリッド車は、まさにガソリン車と電気自動車の融合で、世界のデファクトスタンダードを作った。全く新しいカテゴリーを作ったのである。

・資生堂は、第1に日本と西欧のカルチャー・考え方の融合を図る。おもてなし、もったいない、というフィロソフィーをしっかりと取り入れていく。第2はダイバーシティの推進である。多様な国籍の人をマネジメント層に入れて、経営をグローバル化していく。第3は、“Think Global, but Act Local”で、ローカルブランドの充実を図る。中国ではAupre(オープレ)というブランドを20年前から始めて、すでに年商400億円に育てている。これをもっと充実させていく。第4は、オープンイノベーションをマーケティングしていく。ハーバード大学とは肌の研究を20年ほど行ってきたが、自分の免疫で肌をよくするというULTIMUNE(アルティミューン)をマーケティングする。こういうイノベーションに訴求していくという。

・エーザイの内藤社長はコトラー教授に学びたくて、若い時ノースウェスタン大学でMBAを 取った。そして、現代産業のミッション(使命)は、イノベーション&アクセスにあると定義する。イノベーションは、少ない資源でいかによりよい性能を引き 出すか。そのビジネスモデルを追求する。アクセスとは、製品やサービスを本当に必要とする人々にきちんと届けることを意味する。どんな場所でもどんな所得 の人にでも、健康のための医療サービスや医薬品は必要とされるからである。

・熱帯病のフィラリアに効く薬を必要としている人々がいる。発展途上国で、所得も十分でない。では、どうするか。プライシングはゼロにした。価格はただで、22億錠を提供することにした。これはフィランソローピーの社会貢献ではない。内藤社長は、これは寄付ではなく、投資であるという。今役立つ投資を通して、いずれエーザイのブランドに返ってくる。株主総会でそのように説明し、了解を得た。新しいマーケティングである。22億錠も作ると、工場でのコストはかなり下がった。2020年以降に新興国として育ってくると、エーザイのビジネスが広がる可能性は高まる。将来への長期投資として、マーケティングを実践している。まさに、内藤社長がかつて学んだソーシャルマーケティングの新しいモデルである。

・ 高岡社長は、トップと社員のレベルをいかに上げていくかが重要で、そのためには投資家の目が必要であるという。魚谷社長は、商品のカニバリ(自社競合)を 恐れるのではなく、これを超えるイノベーションを実践することであると強調する。吉田会長は、全く新しいことは、あまり早くても遅くてもダメで、皆が乗っ てくるタイミングを図る必要があるという。アイディアだけではなく、それをいかにお膳立てするかが重要である。内藤社長は、顧客の喜怒哀楽を知るべく全社 員で活動するという。そのためには患者のそばにいって、患者の気持ちを知ることである。4人とも、ハートに届くコミュニケーションを、マーケティング活動として実践している。

・最後に、ユトラー教授は、マーケティングに優れた会社を格付けする9つの軸を提起した。これを5段階で評価する。軸は、①オポチュニティ、②コミュニケーション、③マーケティングストラテジー、④ビックデータ、⑤販売力、⑥組織、⑦イノベーション、⑧ディストリビューション、⑨CSRである。これに対して、5点から1点で評価する。十分対応できていれば5点、全くできていなければ1点、という具合である。

・満点が45点、すべて3点なら27点、すべて1点なら9点である。まずは自己採点してみる。対象とする会社が30点 以上なら一応の水準にあると、コトラー教授は評価する。レーティング(格付け)を通して、企業を自ら評定してみることは、投資家にとっても「企業を見る目 を養う」という点で大いに役に立とう。なによりも大事なことは、誰かが付けたレーティングを信じるのではなく、自らそれを実践して、経験を積んでいくこと である。

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