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ソフトバンクグループの株主総会~新しいパーパスの定義

   2021.08.09 (月) 10:56 AM

・ソフトバンクグループ(SBG)の株主総会はおもしろい。理由は2つある。1つは、孫社長が新しいことを話すからである。総会で、会社の将来について新しい発表を行う企業はほとんどない。2つ目は、株主からの多くの質問にかなり丁寧に答えることである。しかも、本音で自らの考えを述べるところがよい。

・今回の株主総会は、出席型のバーチャル総会であった。会社法上まだ定款は変更していないので、総会の場所は設置してあった。しかし、招集通知には、会場に来ないでほしい。来ても役員は全員リモートで参加すると記載してあった。

・つまり、会場に来てもスクリーンで視聴するだけである。PCやスマホで見ても同じである。そして、出席型であるから、決議の投票はその場で行う形式であった。

・まず質疑で面白かったものをいくつか取り上げてみる。議案でバーチャルオンリー株主総会への定款変更が出されているが、孫社長の顔が見たいので、リアルな会場も用意してほしいというものがあった。

・バーチャルオンリー株主総会ができようにする理由は、1)パンデミックへの対応であるとともに、2)世界中の株主が決議の場に参加できるようにすることである、と説明した。海外の株主には大きな意義がある。しかし、バーチャルとリアルは双方に良さがあるので、両方が可能となるように考えていくとの答えであった。

・SBGは投資会社なので、KPIはNAV(純資産価値:時価評価資産‐純負債)である。株主還元には配当と自社株買いをバランスよく考えていく。現在の株価は、NAVの25兆円より50%ディスカウントされている。NAVは日々変動しているので、ボラタイルな面はあるが、これが最も重要なKPIであるという見方は変わらないと強調した。

・AIのユニコーンに投資している中で、投資の失敗もみられるが、出資企業同士のシナジーはどのように出していくのか。キャッシュバランスをみながら、果敢に投資しているが、出資比率は10~40%で、51%以上を所有する投資は少ない、各々の企業にアドバイスし、緩やかな連携は促すが、あくまでも個々の企業の経営陣のリーダーシップに委ねている。

・ファーストリテイリングの柳井氏が昨年社外取締役を辞めたが、どうしてか。20年ほど社外取締役を務めてきたが、そろそろ自社の経営に専念したいので降りたい、ということであった。柳井氏は取締役会でいつもノーから入ってきた。孫社長は柳井氏を尊敬しているが、柳井氏は、事業家の孫さんは好ましいが、投資家の孫さんは好ましくないと考えていたようだ。そのように孫社長は説明した。

・古い話ではあるが、20数年前、孫氏と柳井氏の初顔合わせをセットした。筆者はNRIでアナリスト部隊の責任者をしていたが、ユニクロのシステム開発で頼りになる会社をアドバイスしてほしいというので、当時のソフトバンクを紹介した。

・その頃のアナリストにとって、ソフトバンクもファーストリテイリングも難しい会社であった。孫さんにも柳井さんにも、当時の担当アナリストはなかなかついていけなかった。2人とも、それほど個性的であった。

・SBGのガバナンスはどうなのか。後継者はどうするのか。これに対して孫さんは、社外取締役からは取締役会がワンマン化しているのかと思ったら、徹底的に議論しているので驚いた、という話を出した。昨年も同じような話をした。

・後継者については、長期のテーマとして十分認識している。19歳で起業する時から、50カ年計画を立てて、60代で引退すると決めてきた。しかし、最近は少し予防線を張っているとコメントした。

・ウォーレン・バフェット氏は、資本家として90歳でも現役である。孫さん(63歳)は、69歳を過ぎても現在の社長兼会長のうち、会長として続けているかもしれないと明確に語った。バトンの引き継ぎは最も難しいが、300年続く会社にしたいという思いは変わっていない。

・Q&Aに入る前の事業戦略の説明では、今回、SBGのパーパス(存在意義)について新しい考えを表明した。孫さんは事業家か投資家か、SBGは投資会社か。これに対して、SBGは「情報革命の資本家である」と定義した。資本家というキーワードを用いた。

・19世紀の産業革命の時代、発明家(例えば、蒸気機関車のワットなど)と資本家(同ロスチャイルドなど)が両輪で文明を発展させた。今日は情報革命が花開いている。企業家と資本家がそれをリードする。

・孫さんをリーダーとするSBGは、AI革命の資本家として全力投入する。ビジョンファンド1,2、ラテンファンドLatAmで、現在264社に投資している。AI分野で世界最大の資本を提供している。

・SBGのパフォーマンスは、1994年から2021年までの25年間で、IRR(内部収益率:投資から得られる将来キャッシュフローの現在価値)は年率+43%であった。これは誇れる実績である。ビジョンファンド1,2もこの4年累積で同じように年+43%のリターンを出している。孫は大丈夫かとよく揶揄されるものの、WeWorkなど4~5つの失敗もあるが、大丈夫である、と胸を張った。

・投資家と資本家は違うと孫さんは強調する。その違いについて、投資家はお金をたくさん作る人、これがゴールであり正義である。一方、資本家はお金を作ることがゴールではなく、「未来を創る」ことがゴールであると強調した。タイムスパンは、10年、20年、30年である。目先の株価は毎日見ていても、気にはしないという。

・孫さんは、技術のパラダイムシフトをみている。インターネット業界は2000倍(年率34%成長)になったが、AIによる情報革命はまだ始まったばかりであると語る。

・自動運転で事故のない世界、AI解析で病死のない世界、遠隔教育で格差のない世界、生活が楽しく創造的な世界、を創っていこうとする。資本家として、この革命を牽引し、未来を創っていく。当然、大きなリターンはついてくる。このビジョンを共有してほしいと訴えた。

・これは柳井さんの問いに対する、孫さんの1つの答えであろう。SBGの新しいパーパス(存在意義)といえよう。SBGはVCか。世界一のベンチャーキャピタル(VC)であるが、これでは構えが小さい。VCは‘Vision Capital’である。これがぴったりすると宣言した。面白い表現である。SBGの資本家精神に大いに期待したい。

 

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