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独立役員は企業価値向上に役立っているか

   2020.02.09 (日) 2:47 PM

・筆者が社外監査役を務めている会社が12月に東証マザーズに上場した。新規ということで、東証から「ハンドブック独立役員の実務」(東証編著)を頂いた。また、昨年7月に「改定コーポレートガバナンスコードへの対応状況」、11月に「コーポレート・ガバナンスに関する開示の好事例集」がレポートされた。

・これらに目を通して、投資家から見た時、何を知りたいか、という点について、いくつか考えてみる。

・企業をみる時、執行サイドの役員、とりわけ社長(CEO)に最も注目するが、次に社外役員(社外取締役、社外監査役)を有報(有価証券報告書)で調べる。1)独立かどうか。独立ではないとすればなぜか。各々の経歴をみて、どのような経緯で社外役員に選ばれたかをIR担当役員に必ず聞く。

・次に、社外役員が取締役会でどんな発言をしているか。執行サイドにとって、役に立っているか。いろいろ発言してうるさいが、いいところをついているか。ナレッジが十分でないので、ピントがずれていないか。何も発言しないのか、などについて雑談的に会話する。

・知りたいのは、事例と雰囲気である。これについて、差しさわりない範囲でいろいろ話してくれる会社は、大体風通しの良い会社である。逆に、そんな個別のことには一切対応しないという会社は注意した方がよい。

・社外役員は、常に一般株主(少数株主)の立場で役割を果たすことが求められる。オーナーや大株主に対して意見をいえるか。利益相反になるような事案をチェックし、歯止めをかけているか。

・社内取締役や社内監査役が突っ込みにくい論点について、常に質問し、意見を引き出しているか。これが活発に機能している取締役会かどうかを知りたい。CEOに遠慮するようでは困る。また、出された質問や意見を、社内役員が尊重しない雰囲気は最悪である。

・よい経営者は、社外取締役が聞くような内容について、ほとんど自らの考えや方針をもっており、そうでない場合はきちんと取り上げて検討するはずである。

・MBO(マネジメントバイアウト)、買収防衛策、第三者割当増資、粉飾や不祥事案件の時に、独立役員の果たす役割はとりわけ大きい。大半の企業にとってはそんな事案は発生しないので、独立役員も形だけで恙無く過ごせればよいかというと、そんなわけにはいかない。

・どの上場企業も間断なく経営の意思決定を行っている。いつもの手続き的決定もあれば、たまにしかない重要案件もあろう。経営環境は常に変化しており、従来通りのマンネリ経営しかやっていないと、それは外部の投資家にもすぐにわかってしまう。

・それはCEOの責任であって、社外取締役が執行を推進するわけではない。その通りであるが、日本は世界でも珍しく、守りではなく、攻めのガバナンスをこの5年政策として掲げてきた。成長力が弱い、収益力が低いところをもっと高めようしてきた。

・一方で、大企業の不祥事が目立っている。実は、攻めどころか、守りも弱いのではないかと、海外の投資家は疑っている。たまたまの例外的事件では済まされない、何か日本のガバナンスに構造的欠陥があるのではないか、という見方も有力である。

・CGC(コーポレート ガバナンス コード)をベースに、新しい経営手法に精通し、投資家とのミーティングにも参加し、常に経営の実態を把握しておく必要がある。執行サイドと十分意見交換しているか。独立役員間の定期的なミーティングを十分行っているか。そこで、どんな認識をもっているか、について投資家は知りたい。

・次の社長が誰になりそうか。これは投資家にとっても大きな関心事である。今の社長が優秀なら、次はどのような仕組みで選ばれるのか。現社長の一存なのか、指名委員会が選定するのか。

・指名委員会を通しても、結局は社長の意のままなのか。安易にファミリーの二代目、三代目が出てくるのか。社内には派閥はあるのか。そうなると、ベストの人材が出てこない。その選任のプロセスと結果について、投資家は議論したい。

・昨年、改訂・新設されたCGCへのコンプライ状況(2019年7月)に関するアンケートをみると、1)経営後継者計画の策定、2)経営報酬制度と透明な設計、3)指名・報酬など独立した諮問委員会の設置、4)取締役のダイバーシティ(女性、外国人の登用)が、70%台以下と相対的に低かった。

・では、どうしたらよいか。CGに関する好事例(2019年11月)は参考になる。

1)資本コストで、エーザイ、参天製薬、三和ホールディングス

2)取締役会の実効性評価で、三井物産、アサヒグループHD、荏原製作所

3)取締役・監査役のトレーニングで、みずほフィナンシャルグループ、コニカミノルタ

4)任意の指名・報酬委員会で、T&Dホールディングス、第一三共

5)取締役会のスキルバランスで、三菱ケミカルHD、日立製作所

6)取締役会の実効性確保で、花王、群馬銀行

7)政策保有株の縮減で、三菱UFJフィナンシャル・グループ、

8)政策保有株の議決権行使で、渋谷工業、日本プラスト

9)基金型企業年金の取り組みで、パナソニック、セブン&アイHD、コロナ

10)確定拠出型年金の取組で、日本通運、はるやまHD、

が取り上げられた。

・これらの事例をみると、やればできそうなことばかりである。しかし、実際に自社に合致した仕組みや制度として定着させようとすると、既存の考え方や方針を抜本的に変えて、現場に新しい仕組みを定着させていく必要がある。

・この時、3つのレベルがある。1)形だけ真似て、やっていますとコンプライしても、実態は何も動いていないケース、2)本部の組織は意欲的だが、現場に浸透していかないケース、3)トップマネジメント、社外役員、現場がきちんとPDCAをまわして、年々改善して、3~7年かけて大きな成果に結び付けていくケースである。

・形式を整えていくと中身が伴ってくる、という事例も増えている。CGCで企業価値は上がるのか。社外役員によって、実効性は本当に発揮されるのか。その可能性は十分あるが、まだ三合目といったところである。投資家の評価は、成果が見えてこないと実際には上がってこない。この2年が勝負であろう。大いに期待したい。

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