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東証1部上場の基準見直し~どう対応すべきか

   2019.03.31 (日) 3:34 PM

・3月27日に、東証は株式市場に関する市場区分変更での論点整理を公表した。何が問題なのか。東証1部に中小型の企業が増えている。数が多すぎるのではないか。質や規模が十分ではない可能性がある。そうした疑問がかなり前から出ていた。

・東証は基準の見直しに向けて、外部の識者を入れて議論を本格化させている。まだ、具体的な結論は出ていないが、論点を整理した。それ以前からマスコミには観測記事がいろいろ出ていた。

・日経新聞(3月16日付)によると、1)時価総額の基準を20億円から250億円に上げる。2)そうすると、一部上場2100社のうち3分の1に当たる720社が除外される。

・3)他の基準も見直して、現状の4市場(1部2137社、2部494社、ジャスダック719社、マザーズ277社)を、①1部(論点整理ではグローバル投資家向け企業)、②中堅・安定(投資にふさわしい実績ある企業)、③新興(高い成長性を持つ企業)の3つの市場に再編する、という考え方が俎上に上がっていた。

・筆者は、中小型株のアナリストとして、多くの経営者に会い、アナリストレポートを書いているが、その実感として、以下のような印象を持っている。

・第1に、上場したからには、東証1部が最大の目標である。上場と未上場では、社会における信用が全く違うが、上場した後でも、マザーズは半人前で、1部上場になった時の信用力は極めて大きい。

・第2に、上場によって、資本市場からの資金調達を成長に活かすというファイナンス力は重要であるが、それ以上に1部上場という信用によって、人材の採用が有利に進められる。顧客、取引先、金融機関からも高く評価される。この優位性を多くの社長から聞く。

・よって、せっかく1部上場になったのに、その東証1部から外されるというのはたまらない、という気持ちであろう。

・現状の基準において、何が課題なのか。それは、いきなり1部に行く時の基準と、2部やジャスダックから1部に行く時の基準が違うからである。

・ジャスダックからいきなり1部に移る(指定替えする)場合は、時価総額で250億円が必要であるが、まず2部に移ってその後1部に行く場合、時価総額は40億円でよい。この40億円基準を辿って、1部上場となっている中小型企業が多い。

・その後、時価総額が250億円を超え、500億円、1000億円と拡大するような成長をとげた例もあるが、250億円以下に留まっている企業も多い。

・東証を含む全上場企業3800社をみると、時価総額1兆円を超えている企業が140社、1兆円~1000億円が640社、1000億円~250億円が870社、250億円以下が2150社という分布である。

・これを東証1部だけでみると、1兆円超140社、1兆円~1000億円が560社、1000億円~250億円が710社、250億円以下が720社という分布である。別な考えとして、時価総額1000億円超が700社もあるので、規模からみればこれで十分ではないかという見方も成り立つ。

・では、今後のあり方として、どのように考えたらよいか。1)企業経営者の視点、2)機関投資家の視点、3)個人投資家の視点、4)世間の目(他のステークホルダー)という視点を入れて検討してみる。

・第1に、1部が格上で、2部が格下という見方にならないような配慮が必要である。従って、東証を3つの市場に分けるのはよいとして、①大型株市場、②中小型株市場、③新興市場と分け、大型株市場と中小型株市場は規模の違いだけであって、その他の基準については質的に差をつけない。

・この点を強調し、定着させることである。1部から2部に格落ちしたのではなく、規模に見合って再編されただけで、東証上場企業としての信用は同等、同格であるという位置付けを確保したい。

・第2に、新興市場は、新しい企業の登場を促進するので基準は緩くてよい。但し、新興企業であるから、いつまでもこの市場にとどまることができるというのは妥当でない。

・期間を10年と区切って、10年内に中小型株市場に移行できなければ、上場廃止とする方向を明確にする。新興企業は期限付きなので、必死に努力するであろうし、事業再編に向けたM&Aなども活発化することになろう。

・第3に、大型株市場と中小型株市場の入れ替えを、年1回の見直しを通してフレキシブルに行うべきである。株価は企業価値を反映する。時価総額をベースに入れ替えが定期的に行われることが一定の緊張感をもたらそう。

・第4に、大型株市場でも中小型株市場でも上場廃止基準は厳しくして、企業経営が十分でなく、投資家の評価が得られないのであれば、早々に退出してほしい。

・退出しても出直しはあり得るので、経営のリストラを行った上で、再上場を目指せばよい。これによって、企業の新陳代謝を大いに促進されよう。

・第5に、大型株市場、中小型株市場、新興市場のブランディングに大いに力を入れてほしい。信頼できるかっこいいイメージを作っていくことが望まれる。

・第6に、企業経営に奮起を促すために、次の中期3カ年計画で大いに収益力を高めて、自らのポジショニングを確保できるように、3~5年の猶予期間は必要であろう。入れ替え戦を競争促進策として活かしたい。

・機関投資家もパッシブ運用を入れ替えていくには一定の時間を要する。運用サイドとして、インデックスの再定義やスマートインデックスへの移行も必要になるので、このくらいの期間は必要であろう。

・最後に、もう1つ重要なことがある。投資家が上場企業のコンテンツにアクセスしやすくなるように、東証自身がもっと役に立つ新しい情報プラットフォームを構築すべきである。民間ではできないコンテンツ(データベース)の追求である。

・そのための大型投資を実行してほしい。世界的に見てDX(デジタルトランスフォーメーション)は必須である。新しい時代の金融投資に役立つようなコンテンツ作りに意欲的に取り組んでほしい。

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