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統合報告の課題~KPMGの調査を踏まえて

   2018.04.23 (月) 10:33 AM

・3月に、KPMGジャパンの統合報告セミナーが催された。その報告を聴き、同社が出版した「社会が選ぶ企業」を読んだ。その中身を踏まえて、統合報告の活用について検討してみたい。

・統合報告書(IR)の発行は年々増えている。KPMGのIR調査は今回で4回目であった。2014年141社、2015年220社、2016年291社、2017年341社と年々増えている。2017年は前年より50社ほど増加した。

・KPMGでは、この341社を、①基礎、②長期志向、③価値創造、④ガバナンス、⑤マテリアリティ、⑥リスクと機会、⑦KPIの7つの項目から分析した。

・KPMGの分析によると、341社中、東証1部は317社で、時価総額の51%、338兆円を占めた。発行時期は、決算期から3カ月後が67社、4カ月後が85社、5か月後が71社という分布であった。IRの発行は早い方が望ましいが、その準備にはかなり労力を要するので、5か月以内であれば十分であろう。また、日本語、英語の同時発行会社は133社であった。

・CEO/CFOのメッセージでは、1)CEOの長期ビジョンが十分でない、2)CFOの資本財務戦略が著しく弱い、3)資本コストの認識が不十分である、という結果が出ている。CEOは中期計画を語る前に長期ビジョンをはっきりさせてほしい。CFOは過去の財務結果だけでなく、将来の資本財務戦略についてきちんと語ってほしい。とりわけ、わが社の資本コストについて、その考え方と水準を明示してほしい。

・なぜ語れないのか。いくつかの可能性がある。1)将来は不確実であり、自社の先行きの業績に自信がもてない、2)売上、利益の目標については、社内の合意を得ても、そのための資本戦略、財務戦略について、十分議論ができていない。3)考え方は固まっているが、社外にディスクローズしてコミットするところまではいっていない、4)資本コストは、考え方は分かっても、社内のKPIとして認識することは難しい、ということかもしれない。

・ガバナンスでは、取締役の選任理由の開示が弱い。社外取締役よりも社内取締役の選任理由を書いている企業が少ない。企業はマネジメントによって運営される。その人がどんな実績を有しており、今後何が期待されているかはぜひ語ってほしい。それを知った上で、マネジメントの方針を聞き、実績をみていく。取締役、執行役の中から、いずれ次の社長が出てくる公算が高いわけだから、早目に素質をみていくことは、投資家にとっても重要である。

・マテリアリティについては、それを開示している企業が少なく、開示していてもマネジメントの関与が極めて少ない。そもそもマテリアリティとは何か。重要性と訳すと、その意味が上手く伝わらないとみられる。importance、significance、materialityでは意味が異なる。日本語で敢えて違いを出してみれば、importanceは重み、significanceは有意味、materialityは独自要素といえよう。

・マテリアリティとは、企業価値創造にとって、わが社として大事な独自要素である。ビジネスモデルの構成材料であり、自社の価値創出に大きな影響を与える要素である。単に、社会的課題を指すわけではない。

・これに関連して、アウトカムとは何かもはっきりさせておいた方がよい。価値創造の財務的な成果がパフォーマンスであるのに対して、社会的な価値も含めて、価値創造の仕組みであるビジネスモデルを支えるインタンジブル(無形資産)として生み出された結果がアウトカムである。

・これも企業が社会に対して生み出す価値とだけみない方がよい。外部的な影響では正負の両面からみる必要があり、組織の事業活動からのアウトプットそのものではなく、その活動からもたらされる、IIRCがいうところの6つの資本に対して、内部的存在として生み出した価値をいう。

・リスクと機会に関して、IRでは、リスクとしてオペレーションリスクがトップにきている。次が規制リスク、サイバーセキュリティリスクと続く。KPMGの別の調査(CEO調査2017)によると、重要なリスクのトップは、レピュテーション/ブランドリスクで、次が最新テクノロジーリスクであった。

・IRにおいて、リスクをどのように載せるのか。IRで最も重要なリスクは、ビジネスモデルの劣化リスクであろう。価値創造の仕組みが色あせて、ほころびてくれば、いずれ財務的パフォーマンスにとって致命傷となる。

・① 既存のビジネスモデルをいかに強化していくか、② 新しいビジネスモデルに作り変えていくか、③ あるいは代替させていくか、が最も重要である。そのやり方(戦略)をIRにはぜひ載せてほしい。

・非財務情報のKPIはどのように設定すればよいのだろうか。WICIは人的、知的、社会関係資本にフォーカスしているが、IIRCは6つのマルチキャピタルに注目して、価値創造のプロセスをバリューチェーンとしてみていく。

・WBCSD(World Business Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための経済人会議)では、ソーシャルキャピタルのプロトコールの開発に力を入れている。

・経営判断の中核には、経済的成果の前に、事業の社会的成果を問う必要がある。事業価値の創造に当たっては、人的資本(技術、知識、厚生)、社会的資本(関係性、共有価値、仕組み)を重視するという立場である。

・KPMGの今回の分析では、SDGsは取り上げなかった。341社中160社がSDGSに触れているが、多くは単に今の事業とSDGsの関係に触れているだけで、2030年に向けての価値創造とは必ずしも結びついていない。SDGsをいかに価値創造に取り込んでいくかは、今後の課題であろう。

・IRの発行企業は今後とも増えよう。いずれ400社、500社となろう。時価総額に占めるウエイトも6割を超えてこよう。投資家としては、まずはIRを読み込んで、企業の投資価値評価と対話に大いに役立てたいものである。

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