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中国のBOE、液晶ディスプレイで世界トップ~その次はどうする

   2017.12.08 (金) 12:23 PM

・11月の世界経営者会議(日経主催)で、京東方科技集団(BOE Technology Group)の創業者である王東升(ワン ドンシェン)会長(60歳)の話を聴いた。1993年の創業後、20年余りで日本企業を陵駕して、世界のディスプレイ市場においてリーディングカンパニーへと成長した。

・王氏が定義した「半導体ディスプレイ」産業において、3年で2倍の法則を実践してきた。「王氏の法則」として知られ、同じ価格帯において、3年でパネルの性能は2倍以上になるという意味である。

・液晶ディスプレイで、なぜ勝利を収めることができたのか。次はどのような企業を目指すのか。そのバイタリティに圧倒された。日本電産の永守氏のようなオーラを感じた。

・液晶ディスプレイ(TFT-LCD)の第1世代は、1991年のシャープから始まった。2017年には、BOEが10.5世代で世界をリードする。BOEは液晶の研究チームを94年に作り、2005年から量産に入った。現在は生産ラインを9本有し、12月から10.5世代を本格的に立ち上げる。

・液晶ディスプレイの世界シェアは、スマホ用で25%、PC用で30%と、世界№1である。規模を追いかけてきたが、実はそれ以上にイノベーションによって新しい破壊(ディスラプション)を起こす製品作りに力を入れてきた。

・王氏は35歳で創業し、社長として会社の急成長を引っぱってきた。25年の歴史において、ずっとイノベーションに執着した。それが生き残る唯一の道なので、技術開発に全力投入した。R&Dには売上高の7%を投じている。

・2014年に赤字となったが、8Kに向けたR&D投資は続けた。2017年の売上高は150億ドルになろうが、収益性は十分でない。2016年のROEは2.4%、今年3Qで8.0%へ改善しているが、まだそのレベルである。大型投資を継続していることによる。

・王氏は、農業社会、工業社会、情報社会の次にAI社会が来るとして、第4次産業革命のAI時代を3つに分けている。1)2016~2030年をAI narrow(IoT 1.0で1対多のやり取り)、2)2030~2045年をAI General(IoT 2.0 で多対多)、3)2045年以降をAI Super(IoT 3.0 で新しい次元)と区分し、壮大な夢を描く。

・AI時代には、①デバイス、②数理アルゴリズム、③データ、④セキュリティがカギを握る。いずれ遺伝子科学がAIと融合し、全く新しいイノベーションが起きるとみている。それを、‛ケイ素系と炭素系の融合‘による第4のイノベーションと名付けている。

・BOEは、IoTで世界のリーディング企業を目指す。ディスプレイ、センサー、AI、ビックデータで積み上げた実績をベースに、新しいITサービス企業を目指す。その領域は、DSH(ディスプレイ、スマートシティ、ヘルスケア)である。すでに、血液測定器を手掛けており、デジタル芸術(iギャラリー)にも取り組んでいる。

・BOEの最大の課題は何か。それは大企業病にならないこと、と自らを戒める。日本企業は液晶で遅れをとった。BOEは先行した。なぜか。1994年に液晶の研究に着手し、10年続けた。2003年に投資をして、本格参入した。その後もR&Dを続け、2013年から成長を開始した。

・8Kディスプレイは2012年にR&Dを開始した。R&Dで先行させ、世界初を創ることに力を入れた。戦略は、8Kを見せて、4Kを普及させ、2Kを置き替えていくにある。今、8Kは数社しかできない。一方で、通信の5Gも立ち上がってくる。2020年の東京オリンピック、2022年の北京冬季オリンピックには、8K+5Gを本格化させ、4Kで稼ぐというストリーである。

・これから成長のピッチが上がってくる、と王氏は強調する。これまで5年~10年かかっていた売上倍増が、今後は3年ペースに上がってくるとみている。そうすると、150億ドルの売上高が、10年で1000億ドルに達する。これは十分いけると宣言する。

・日本企業をどうみているか。20代の頃、パナソニックとブラウン管で合併を作った。松下幸之助氏の話を聴き、自伝を読んで感銘を受けた。松下、ソニー、京セラの創業者を人生の手本としているという。

・夜眠れなくなることが今でもある、と本音を語る。1)誰かに出し抜かれてしまうのではないか、2)大企業病になって努力しなくなるのではないか、という不安のためである。

・日本企業と同じ過ちを繰り返さないように心掛けている。それは、創業の精神を忘れないことである。中々耳が痛い。

・BOEのビジネスはB to Bである。よって、顧客とは競争をしない。顧客のためにサービスする。一方で、第4次産業革命が本格化すると、BOEも根本から変革する必要があると強調した。

・B to Cにも取り組んでいる。iギャラリーはその1つである。絵画などの芸術は、一般に高価で買えない。しかし、家庭でみることができたら、それはありがたい。若い芸術家は作品を創っても、発表の機会が十分でない。そこで、高画質のディスプレイを使って、芸術絵画を家庭で観られるようにする。それが、iギャラリーである。

・中国も高齢化社会に入っていく。庶民でもよい医療を受けられるようにする。そのためには保険が必要であり、ヘルスケアのサービスが不可欠である。ここにイノベーションを起こすという。

・経営者として、王氏は3つのハードルをあげる。1つ目は、創業の時のハードルで、これは乗り越えた。2つ目は、権限を任せるハードルで、幹部を育てるという点では、これも対応してきた。そして、3つ目は、引き継ぎである。自らがマネジメントから離れる時、自分より上手く経営する人にバトンタッチしたい。

・この後継者への引き継ぎについて、米国は上手いが、日本はどうかと聴衆に問いかけた。中国はまだ第一世代の経営者層なので、これからである。この3つ目のハードルが最大の課題で、ここを乗り越えたいと述べたのが、実に印象的であった。

・BOEとは「ベスト オン アース」を意味する。地球上で最も優れた企業になりたい、という思いが込められている。誠に素晴らしい。BOEは深圳(シェンチェン)市場に上場している。これからも大いに注目していきたい。

 

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