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ESG投資をいかにROEに結びつけるか

   2017.10.10 (火) 9:25 AM

・9月に企業価値創造ERM学会で、野村證券クオンツアナリスト張替一彰氏(金融工学センター、クオンツ・ソリューション・リサーチ部)の話を聴いた。テーマは、「エンゲージメントとERMの視点から見たESGのあり方」であった。いくつかの興味深い論点について議論してみたい。

・2017年6月のアベノミクスの成長戦略において、日本の大企業は欧米と遜色のない収益力の水準を目指すべく事業を強化せよ、と掲げている。鍵は事業の新陳代謝にあり、そのためにコーポレートガバナンス(CG)改革に一段と力を入れるべし、と未来投資戦略は語っている。

・TOPIX500 (除く金融)の2016年度のROEは9.4%であった。一時の5%台から上昇し、8%を超えてきた。米国のS&P500(除く金融)は14.6%であったから、その差はまだ大きい。この時のROA(総資本税引利益率)は日本3.6%、米国5.3%であった。いずれの差も主因は売上高利益率にある。

・日本がROAで5%を目指すには、売上税引利益率で7%はほしい。そうするとROEは13%に近づこう。こうした財務的なKPIは結果であって、第一義的な重心は企業価値創造の仕組みにある。ビジネスモデル(BM)を作りかえることによって、結果としての利益を創出するというのが本筋である。そのための先行投資、ポートフォリオの見直し、競争優位の確立が決め手となる。

・企業価値の創出にESGはどう役立つのか。機関投資家がESGに関するエンゲージメントを高めたら、企業の収益力は上がるのか。これを短絡的に結びつけようとしても、かなり無理がある。ESG(環境、社会、企業統治)は企業のサステナビリティ(持続性)に役立ち、中長期の企業価値創造を支えるものである。企業が直面するさまざまなリスクを低減させて、結果として価値向上に資する、というのが一般的な論理である。本当だろうか。

・GPIFは、3本のESGインデックスを運用に採用した。これは、ESGをポジティブ・スクリーニングとして利用したものである。野村のクオンツ分析によると、これらのESG指数は平均的にみて、TOPIXに比べて、①資本効率性が高く、②資本コストは低い、という特長を有する。つまり、ROIC-WACCのスプレッドが高い。

・ESGの評価機関はいろいろあるが、GPIFが採用したMSCIとFTSE RussellのESGスコアのウエイトをみると、MSCIではE 30% 、S 42%、G 28%のウエイト、FTSEは同31%、37%、32%と、野村では推計している。

・野村の分析によると、2つの評価機関のESGスコアには、同じ企業に対してかなりの違いが生じているという。評価方法、ソースデータ、評価点数の付け方に違いがあるためである。互いのインデックスに対するもう一方からの説明力は20%以下というから、相当違うインデックスであるともいえる。

・ESGをどう評価するかは、まさに、1)何をみるか、2)どうレーティングするか、3)それをどうまとめるか、によって総合評価は違ってくる。業種別でも個別企業でも違いが大きく出ることがある。

・それは、それでよい。MSCIの評価であり、FTSEの評価である。それらを鵜呑みにすることなく、使い分けていく必要がある。さらに、個別の評価は自らの判断で行うことが一層重要であろう。

・企業においては、外部からの評価が適切になされるように、ESGに関する情報開示を充実する必要があろう。すでにデータがあるのに開示していないケース、データを的確に収集していないケース、そもそもESGを重視していないケースなど、レベルの差は大きい。

・GPIFのESG 3指数において、共通に採用された銘柄は66社ほどあるが、これらの企業は相対的に優れているといえよう。例えば、アステラス製薬、オリエンタルランド、オムロン、資生堂、野村総合研究所、丸井グループ、コニカミノルタ、ヒューリック、CSCKなどが入っている。

・では、ESGと財務的な企業価値指標とは、どう結びつけるのか。①ROEを高めよ、②それよりもROAの方が大事である、という見方に対して、③本質的には、資本コストを上回る収益力が決め手となる。経済的付加価値(EP:Economic Profit)は資本コストを上回る利益であるから、EP = (ROIC-WACC)×投下資本 と定義される。

・総資本のうち、何が投下資本(ROIC)か。つまり本当に価値を生み出す資本であるかをよくみる必要がある。ところが、この投下資本にはバランスシートに表れないものが多い。人材育成投資、R&D投資、特許、ノウハウ、組織力、さらに本質的な経営者のマネジメント力は、まさに無形資産である。

・この無形資産のうち、有力なものがESGである。①E:環境に配慮し、環境を活かす経営、②S:人権に配慮し、人材を活かす経営、③G:ガバナンスを効かせた取締役会を通した経営、などによって、稼ぐ力の向上を図ろうとしている。さらに、ESG以外でも、収益力の向上に不可欠なものもある。

・こうした無形資産への投資は、財務的には投下資本として捉えられ、その効率がROIC(投下資本利益率)の向上と、WACC(加重平均資本コスト)の低下になって顕在化すれば、企業価値の向上が財務的にも証明される。

・EP/投下資本=ROIC-WACCを高めることが、ROAの向上に結びつき、さらにROEの向上にもつなげることができる。そのためには、無駄な資産や資本をもたないことであり、適切な資本負債構成を検討することが重要である。

・1つの正解があるわけではなく、企業のビジョンや経営哲学を反映した経営方針が、現場の隅々までいかに浸透しているかが問われる。

・ROICをKPIに掲げる企業が増えている。WACCは分かりにくいようだが、中長期的な視点で資本コストを腹に入れておく必要がある。その上で、投資家が重視するROEについても、明確なコミットメントが必要である。

・ROE 8%以下の企業はまず8%を、これを超えている企業は二けたの10%か、欧州並みの12%を目指したい。次に米国並みの15%や、独自の領域の20%以上を目標にして、個々の企業独自の手を打ってほしい。その上で、一過性ではない持続的で高いROEを実現してほしいものである。

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