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シェアリングエコノミーの本格化~プラットフォーマーのイノベーション

   2017.07.17 (月) 8:40 PM

・7月にあずさ監査法人(KPMG)の成長企業倶楽部で、シェアリングエコノミーの事例について話をきく機会があった。経済の仕組みは、ネット社会の中で大きく変化している。企業のビジネスモデルも、モノからコトへ、フローからストックへ、所有から利用へ、その切り口は様変わりしつつある。さらに同業他社だけがコンペティターとはいえなくなり、セクター(業界)という垣根がどんどん崩れようとしている。

・シェアリングエコノミーとはどんな仕組みなのか。その事例として、シングルマザー用のシェアハウス、女性向け高級ブランドバックの定額レンタルサービス、アパレルにおけるコスプレ用縫製ITサービスプラットフォーム、自転車シェアリングのドコモ・バイクシェアが紹介された。こうしたサービスがどんどん身近になってくる。その注目点について取り上げてみたい。

・シェアリングエコミー(共有経済)ではライドシェアや民泊が分かり易い。車に一人で乗っているなら、誰かを乗せてシェアしよう。家のスペースが空いているなら、旅行者を泊めて有効活用しよう。

・しかし、これをビジネスとしてやろうとすると、規制があって勝手にはできない。タクシー事業や旅館事業に関する業法に抵触してしまう。一方、もしお金を全くとらないとすると、営利事業ではないので特に問題とならない。友人や親戚を乗せたり、泊めたりするのと同じで、何ら規制はない。

・一緒に乗っていると、いろいろ話ができて楽しい。知らない人が泊まって友だちになれるのは楽しい。というように、お金に換えられない楽しみを味わうことができる。あるいは、互いに困っていることを上手く補完して、助け合うことができる。

・しかし、シェアリングの実現には規制がいろいろある。それをどのように乗り越えて、新しい経済の仕組みを作っていくか。そこで2年前にシェアリングエコノミー協会(加盟企業約180社)が設立された。代表理事である上田祐司氏(ガイアックス社長、コード3775)の話は興味深い。

・SE(シェアリング・エコノミー)は、ホスト、ゲスト、それを繋ぐプラットフォーマーで形成される。シェアする内容は、もの(レンタル)、空間(ホーム)、移動(車)、スキル(家事代行)、お金など、さまざまである。ホストはシェアするコンテンツを提供し、ゲストはそれを利用する。プラットフォーマーはホストとゲストのマッチングを担って、その手数料(フィー)をとる。

・シェアすることで、余っているものを有効活用し、新しいサービスを作り上げる。コストは安くなり、効率的でメリットがありそうだ。一方で従来型ビジネスにはネガティブなインパクトを持つことが多いので、既存業界の人々は規制緩和に反対しがちである。しかし、これは単なるパイの取り合いではなく、新しいマーケットの創出なので、市場の活性化に明らかに貢献する。

・親戚や友人なら、車に同乗させたり、家に泊めたりできるが、知らない他人に対して、それができるか。大事なことは、知らない人が信用できるかどうかを何らかの形で知りたい。変な人ではないということが分かれば、安心してシェアすることができる。

・何らかの助け合いという感覚が入ってくる。共助が互いに分かっていないと、シェアリングの仕組みは上手くいかない。そこで、プラットフォームの中に安心や信頼を醸成するような仕掛けを組み込んでおく必要がある。

・カギはレビューシステムにある。プラットフォーマーの責任として、各々のシェアリングに自主的なルールを定めていく。法令に違反していないかという点は当然だが、それ以上に、安全で信用できるか、責任分担は明確になっているかという点が問われる。

・ホストやゲストの相互チェックを通して絶えずレビューし、評価が低い人々はプラットフォームを利用できなくする。ルールを従い、マナーを守ることが自らの評価につながり、シェアエコノミーの参加者として存在が認められる。

・上田代表理事は、シェアエコノミーの発展は、アベノミクスの政策である①1億総活躍社会づくり、②インバウンドの拡大、③地方創生に合致すると強調する。シェアエコノミーは、これまでよりも利用する機会、働く機会を多様にする。海外の人も含めて、人々とのふれ合う機会を増やす。

・また、官が公共サービスとして提供するのではコストがもたないが、民が共助の精神で工夫していけば、きめ細やかなサービスの提供に結びつく。それが活用できるようなシェアリングシティ構想を支援しようという動きも活発である。

・シェアリングの事例をいくつか見てみよう。日本の人口減少は始まっており、子供の数も減り始めている。一方で、シングルマザーは増え続けている。婚姻数に対する離婚の比率は上がっており、母親一人で子供を育てる人は、横浜市の場合子育て世帯数の7%を占める。働きながらの子育てはそもそも大変である。さらに、住む場所を探すという点において不動産弱者でもある。

・そこで、日本で初めて、シングルマザー用のペアレンティングホームの企画運営が横浜市でスタートした。民間の建築士(一級建築士事務所秋山立花)と不動産投資家(マインズ・プラス)がチームを組み、地域ぐるみで子育てを応援する現代版の長屋づくりを目指した。これが、上手くいっている。母親1人では大変だが、3~7家族が一緒に暮らすと、生計は独立だが、いろんな面で助け合うことができる。

・高級ブランドのバックが家に眠っている。30万円で購入した有名バックを使わないというケースも多い。かといって、処分するには惜しい。そこで、所有者(ホスト)は信用できるプラットフォーマーにバックを預けて、貸出の機会を提供する。バックは自分が使う時と同じように丁寧に扱われ、もしもという時の保険もついている。

・利用者(ゲスト)は月6800円払うだけで、自分好みの高級バックを借りることができる。ホストはゲストが使ってくれた時に月2000円が入る。このサービスでトップのラクサステクノロジー社は、このビジネスを日本だけでなく、グローバルに展開しようとしている。

・ゲストにはクレジットカード、運転免許証の写メールで簡単に登録できるようにし、ホストのバックについては、ICタグをつけ、IoTで全数管理している。また、ゲストの好みを、AI(人工知能)を使って分析、ホストが提供するバックを使う場面をコーディネートする。こうした情報サービスを通して、稼働率の向上に結びつけている。

・アパレル縫製職人の工賃は安い。下請け的な仕事なので、グローバルな分業の中で賃金は十分でない。そこで、縫製職人1000人をネットワーク化して、nutteというプラットフォームを立ち上げ、さまざまな縫製のニーズに直接対応できるようにした。

・この事例は、ホストの縫製をシェアしようというものである。ステート・オブ・マインド社は、この世界初の縫製マッチングプラットフォームnutteを運営している。一方、モバイルゲームと広告を扱うアクセルマーク社は、新規ビジネスとして、このnutteをコスプレ衣装サービス(coscrea)に結びつけた。

・コスプレは、もはやオタクマーケットではなく、一般にも広く受け入れられている。しかし、自分に合うコスプレを廉価でしっかり作ってくれる会社は少ない。このニーズを掘り起こしている。コスプレは、今や日本人だけでなく、インバウンド、中国などの海外にも広がりそうである。

・ドコモ・バイクシェア社は、電動自転車のシェアリングを展開している。ドコモなので通信が要である。通信の電源確保という点で、電動自転車の共同利用に力を入れた。シェアリングに関するすべての情報をサーバーで管理している。都内7区を中心に、全国で5000台の自転車を提供し、ユーザー数は20万人を超えている。

・GPSとビーコンで、一定のゾーンでの貸し借りが自由にできるようにしている。2016年度に都内7区で180万回利用されたが、今年度はその2.5倍に拡大しそうな勢いである。ドコモは新規ビジネスとして、モビリティシェア構想を一段と推進しようとしている。

・上田氏は、コンテンツを提供するホストサイドは、民泊にしても、ブランドバックにしても、最初はおっかなびっくりであるが、ゲストがレビューチェックを通して信用でき、安全であると分かると、その後は急速に拡大していく、と強調する。

・ゲストサイドも、親戚や友人のつもりでサービスの仲間に入っていかないと、レビューを通して外されてしまう。つまり、自らの信用を守ることが、自分が快適にシェアリングできるコツであるとわかる。

・プラットフォーマーは、双方をつなぐサービスを提供して、20%前後の手数料を得る。プラットフォームがホスト、ゲストの双方に受け入れられると、シェアリングビジネスは一気に高収益になりる。

・そもそも社会的課題へのソリューションを提供するという点で、サステナブル(持続可能)でないとビジネスとして続かない。プラットフォームビジネスは、立ち上げ期がかなり苦しい。その局面(死の谷)をどう乗り切るかが課題である。

・新しいビジネスモデル(BM)に賛同し、投資してくれる投資家をいかに集めるか。BMのユニークさとマネジメントの実行力が問われる。シェアリングエコノミーは、ホストとゲストが1:Nの場合もあれば、N:Nの場合もある。いかにNの数を広げていくか。さまざまなリソースの有効活用がありうるので、これから大きな成長が見込めよう。プラットフォーマーの先陣争いが注目される。

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