ホーム > ブログ一覧 > 投資価値の定性評価と定量評価~その関係はいかに

投資価値の定性評価と定量評価~その関係はいかに

   2017.02.19 (日) 3:07 PM

・企業価値とは、将来キャッシュフローの現在価値である。ビジネスの将来キャシュフローをいかに正確に予測するか。また、的確な資本コストをベースにいかに現在価値に割り戻すか。それができれば、今の株価が割高か割安かは容易に分かるはずである。アナリストや投資家はこの作業を日常的にやっている。企業においても、事業評価のプロセスやM&Aの時には、この方式を用いているはずである。

・しかし、キャシュフローの予測は期間が長くなるほど、外部から予測しにくくなる。会社の中においても、事業展開が想定通りにいかないことはよくなることなので、予測は時間の経過とともに修正を余儀なくなれることが多い。

・事業の展開については、一定の確度で織り込めるようになって初めて、業績数値に落とし込んでいく。まだ海のものとも山のものとも読めないような不確定な将来を、キャッシュフローに入れることは難しい。投資家やアナリストは、確実なものを求める。そうすると長期は分からないので短期の変化を追いかけがちである。

・しかし、将来を見て、分析を続けていくのがアナリストである。企業のトップは不確定な要素を抱えながらも、事業の投資意思決定を下していく。そこをどう見抜いていくか。まずは、企業の価値創造の仕組み(ビジネスモデル)の将来展開について、定性的に分析する必要がある。その時のフレームワークを、自分なりに固めていくことが重要である。

・企業の将来を定性的に判断するには、4つの軸から見ていくと分かりやすい。1)経営者の経営力、2)事業の成長力、3)ESGによるサステナビリティの実効性、4)業績が大きく変動することに対するリスクマネジメントである。

・この4つの軸を3段階で評価すると、4点(1+1+1+1)から12点(3+3+3+3)までの分布ができる。点数の組み合わせの数でみると、4点が1組、5点が4組、6点が10組み、7点が16組、8点が19組、9点が16組、10点が10組、11点が4組、12点が1組となる。

・12点~10点を企業レーティングA、9点~7点を企業レーティングB、6点から4点を企業レーティングCとする。そうすると、組み合わせの数から、形式理論上Aが18.5%、Bが63.0%、Cが18.5%の構成となる。実際はどうか。筆者のアナリストの体験をデータ化してみたことがあったが、Aが10%、Bが60%、Cが30%と、Cクラスの企業が多くなる。Bクラス、Cクラスの企業にはもっと頑張って、よい会社になってほしい。

・では、こうした定性判断と、株価バリエーションの定量判断はどんな関係のあるのだろうか。これも筆者の体験例でいえば、投資判断を割安(Buy)、妥当(Hold)、割高(Sell)という3つでみると、AクラスではBuyが50%、Holdが50%、BクラスではBuyが5%、Holdが75%、Sellが20%、CクラスではBuyはなく、Holdが20%、Sellが80%という内容であった。

・つまり、定性評価の高いAクラスの企業の株価は相対的に魅力度が高く、Cクラスは低いという当り前の結果が出てくる。これには個人差がつきものなので、筆者の体験か必ずしも妥当性を持っているとはいえない。また、相場の局面によって、判断の構成比もかなり変わってこよう。

・大事なことは、定性判断は基準がはっきりせず曖昧なもので、定量的に見る方が客観性は高い、と一義的に決めつけないほうがよい。数字の予測にも、恣意性が入るものである。将来を出来るだけ長く見通すには、定性的な要素を十分踏まえて、分析を進めることが求められる。その上で、一定の基準に基づいて定量分析に入っていく、この2段階で判断する方が、アナリストや投資家の力量を磨くには適している。

・いきなり定量モデルから入ると、どうしても見方が短期化しがちである。長期的視点を常に持ち続けるには、4つの軸に基づく定性評価を実践してみることを薦めたい。会社のIRサイドとの対話も弾んでくることは間違いない。また、本人の実力も大いに上がってこよう。定性評価の独自モデルを各々確立すべく挑戦してほしい。

Blog Category