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うつ病を血液検査で調べる~大学発ベンチャーのユニークなコラボIR

   2016.04.04 (月) 9:09 AM

・昨年12月に(株)慶應イノベーション・イニシアティブ(KII)が設立された。慶大では学内の知的資産を活かして、ベンチャー企業の創造に積極的に取り組み、既に13社の慶大発ベンチャーに投資し、3社が上場を果たした。この動きをさらに加速するように今回KII(出資比率:慶應学術事業会80%、野村ホールディングス20%)を設立した。

・上場3社、ブイキューブ(コード3681、時価総額235億円)、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(同6090、同46億円)、サンバイオ(同4592、同656億円)のうち、HMT(ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ)にフォーカスしたIRセミナーが今年2月末に催された。

・慶大は15年前に、山形県鶴岡市に先端生命科学研究所(IAB)を設立した。当時の富塚鶴岡市長の強い要請とその支援に応えて、慶大157年の歴史において初めて首都圏以外にキャンパスを設置した。

・そのリーダーが冨田勝教授(IAB所長、医学博士・工学博士)である。米国で10年研究を続けていたが、42歳の時に鶴岡市に一から研究所を作る役割を担った。

・コラボセミナーの第1部は、冨田教授によるIABの紹介と、そこでいかにHMTが生まれたかの思いを熱く語った。冨田教授は、地方の格下感をなくすことに全力投球した。世界トップクラスの研究を行い、その成果を発信し、一流の人材を育てれば、都市に対抗することが十分できると決意した。

・メタボロームとは、動物や植物が創り出す低分子の化学物質(アミノ酸、脂肪酸、糖など)で、この代謝物質群(メタボローム)を一度にまとめて測定してしまうメタボローム解析技術を開発した。今でいうビックデータの解析である。測定のプロである曽我朋義氏(慶大教授)を外部からスカウトして、二人三脚で世界トップのR&D拠点に作り上げた。

・メタボロームとは2000年に作った造語である、と冨田教授はいう。その5年後に、国際メタボローム学会ができ、第1回の学会は鶴岡市で開かれた。血液のメタボローム解析で肝臓の状態が分かる。血液からうつ病の状況が分かる。唾液のメタボローム解析でがんが分かる。農業では、だだちゃ豆がなぜ美味しいのか、地酒を美味しくするにはどうするのかなど、いろんなことが分かってくる。

・なぜ鶴岡市でそれができたのか。当時の市長の腹がすわっており、市と県が10数年で100億円の投資をしてくれた。それに応えるには成果を活かして仕事を作り出すことしかない。エキサイティングな仕事を作って、人材を集結させた。また、鶴岡市(人口13万人)の1万人の血液をメタボローム解析して観察している。

・唾液については、サリバテックという会社を作った。その代謝マップを作って変化を見る。乳がん、大腸がん、すい臓がんの早期発見が可能になるという。メタジェンという会社では腸内細菌のバランスをとる。そのために、健康な人の便を移植して腸内細菌の調整を行うという。こうした新興ベンチャーが次々と生まれている。

・第2部は、HMTの機関投資家向け会社説明会であった。HMTは2年前に上場した。上場後に株は急騰し、一時5000円台をつけたことがあったが、その後は低迷し、現在は900円前後である。

・HMTはメタボロームに特化し、その解析を行うと同時に、バイオマーカー(診断)の事業を大きく伸ばそうとしている。うつ病にはバイオマーカーがなかった。その診断を定量的行うという点で、うつ病にフォーカスしている。うつ病の患者は国内で100万人、世界で3億人ほどいる。治療薬はあるが、診断を行うには問診しかない。そこでメタボローム解析を通して血液検査を行い、PEAが低いとうつ病である、という独自の知見を応用することにした。

・PEA(リン酸エタノールアミン)は、気分や食欲に関する脳内代謝物質で、これが低下するとうつ病になり、これを上げると完治する。治療から予防へ広げることもできるので、極めて有望である。この特許は日、米、中で申請・取得、シスメックスと共同開発を行っており、2016年度中にR&D用の試薬を出す予定である。

・夢が現実になりつつある。株式市場では、1)発明・発見がすごいとそれだけで理想買いが入る。いわゆる材料株である。次に、2)それが現実のものとなり事業化できるという時点で、将来への期待を膨らます。第3フェーズは、3)それが事業として実際に収益貢献してくる局面である。その収益貢献が想定を上回ってくると、株価は新値をつけてくることにもなる。HMTは、現在第3フェーズの入り口にいるとみることができよう。

・大学発ベンチャーが、ローカルから世界に向けて挑戦している。HMTの菅野社長は、メタボロームで鶴岡に奇跡を起こしたい、と夢を描いている。第1ステップの上場は果たした。第2ステップは、冨田教授がノーベル賞をとることである。そして、第3ステップは、鶴岡市がこの分野の世界的クラスター拠点をなって、ボストンへの直行便が飛ぶようになることであるという。ボストンは世界のR&D拠点であるから、そこと直接結びつくような存在になりたいという意味である。HMTの今後の展開に注目したい。  

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